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埼玉産業界特集
大野 元裕 埼玉県知事に聞く/中小企業の持続成長・発展を支援
先端産業の創出に力
埼玉県内の企業は、エネルギー・原材料価格の高騰や深刻な人手不足の影響で、先行き不透明な状況が続いている。埼玉県には自動車部品などを手がける中小製造業が多いため、経済活性化にはこうした企業の持続成長・発展が欠かせない。そこで県は競争力を高めようとデジタル変革(DX)推進に向けた取り組みを強化しているほか、災害後に事業を早期復旧できるよう事業継続計画(BCP)策定を支援している。「課題を踏まえて先手先手の対策を打っていく」と話す大野元裕知事に、中小企業の支援策などを聞いた。
DX推進 関連機関と連携/デジタルレベルに応じた支援
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埼玉県知事 大野 元裕 氏
ー埼玉県内の中小企業の経営環境は。
「埼玉県の四半期の経営動向調査(2024年7ー9月)によると、県内企業の景況感は持ち直しの動きが見られる一方、エネルギー・原材料価格の高騰、円安により先行きに不透明感を感じる企業も少なくない。さらに多くの企業で人手不足が続いている。埼玉県は現在、人口減少や超少子高齢社会、激甚化・頻発化する災害危機対応ーこの二つの歴史的課題に直面している。そうした中で県は中小企業を中心に、県経済を持続的に発展させなければならない」
ー具体的支援策を教えてください。
「まずはDXの推進だ。生産年齢人口が減少する中で企業が成長を維持するには、生産性の向上が不可欠だ。そのカギを握るのがDX。埼玉県は、21年10月に『埼玉県DX推進支援ネットワーク』を設けて窓口を一本化し、中小企業のDXを支援している。専門の相談員『DXコンシェルジュ』が企業の相談に応じ、ITベンダーとマッチングを実施。このほか24年度からは、デジタル化の初歩から高度なレベルまで、企業のステージに応じたきめ細かい支援を実施している」
「DXを推進するには、その旗振り役となる経営者の理解が必要となるため、各業界団体や支援機関と連携して中小企業の経営者層を対象とした講座を開催している。また中小企業の優れたDX事例を表彰する『埼玉DX大賞』を23年から開始している。こうした事例を参考に取り組んで欲しい」
ロボット開発の一大拠点開設 26年度
ー人手不足への対応は。
「経済団体や金融機関などで構成する『強い経済の構築に向けた埼玉県戦略会議』で人手不足対策の分科会を設けて議論を進めている。『物流の2024年問題』で人手不足が顕著な物流分野では戦略会議メンバーのほか、物流業界団体や消費者団体など23者により『埼玉の持続可能な物流の確保に向けた共同宣言』を全国に先駆けて実施し、対策を講じている」
ー持続成長にはBCP策定も欠かせません。
「8月に宮崎県で最大震度6弱の地震が発生し、南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)が初めて発表されるなど、災害への備えが喫緊の課題となっている。『想像力と準備』が非常に重要だ。だが大企業のBCP策定率が37・1%なのに対し、中小企業は16・5%と半分以下に留まる。そこで埼玉県産業振興公社に専門のアドバイザーを配置し、簡易版BCP『事業継続力強化計画』の策定を希望する企業の相談に応じているほか、ホームページには策定事例も掲載している。制度融資においても、BCP策定企業を対象に金利を優遇するメニューを用意し、中小企業のBCP策定を支援している」
ー先端産業の創出にも力を注いでいます。
「2026年度にロボットなど先端産業創出の場として『SAITAMAロボティクスセンター(仮称)』を開設する。ロボット開発の一大拠点として、高度な技術・ノウハウを蓄積し、新たなビジネスチャンスを生み出したい。コワーキングスペースや貸し研究室を備えており、多様な企業や研究機関が集う場として機能する。一社のみでは製品化が難しくても他者と協働することでイノベーションが生まれるだろう」
「『圏央鶴ケ島インターチェンジ』近くに位置しており、交通利便性にも優れる。企業や人材が集まりやすく、さらには(実証・実験機材など)多様な物を持ち込みやすい。県内外のロボット産業をはじめとした成長産業を集積する」
オープンイノベーション/人材集う支援拠点 ロボ開発での連携期待
ーオープンイノベーションの創出支援拠点「渋沢MIX」を25年夏に開設する計画です。
「埼玉県の偉人である渋沢栄一翁に倣い、多くの企業や起業家、投資家、支援機関などを結びつけるエコシステムのハブとして機能させる。同時に県内企業のイノベーションを生み出し、スタートアップ企業が独り立ちできるようにしたい。企業同士の連携・協業に向けたオープンイノベーションプログラムや、スタートアップの成長を支援するアクセラレーションプログラムなど大小さまざまなイベントを毎日のように実施し、にぎわいを創出する。人々が集まり、交流し、つながっていく場にしたい」
ー「SAITAMAロボティクスセンター(仮称)」と「渋沢MIX」が連携すれば相乗効果も見込めそうです。
「例えば渋沢MIXで生まれたアイデアや企業マッチングの成果を、ロボティクスセンターの開発プロジェクトにつなげて実証実験を実施することが考えられる。逆に、ロボティクスセンターで作られたモノが資金を必要とする場合、渋沢MIXでプレゼンテーションして投資家につなげることもあり得るだろう。それぞれの強みを生かしながら効果的に連携できるよう検討していく。2拠点が協力することで全国への発信力も高まることを期待している」