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埼玉県の企業の挑戦を支援する 協調する金融機関 チャレンジする企業
コロナ後の回復基調がみられるものの、物価高や人材不足などにより、中小企業や小規模事業者などは厳しい事業環境に置かれている。こうした中で、企業が挑戦する取り組みをどう支援していくか。日本政策金融公庫では、創業やスタートアップ支援制度を拡充。商工会議所・商工会など支援機関との連携も深めているほか、スマート農業技術の支援などに取り組んでいる。
拡充する支援制度 融資限度額引き上げなど
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覚書を手にするさいたま商工会議所の池田一義会頭(中央)
日本政策金融公庫は創業に挑戦する事業者を支援するため、3000万円の融資限度額が設けられていた国民生活事業の「新創業融資制度」を2024年3 月で終了。4月からは各種の融資制度の限度額まで無担保・無保証人で利用できるようにした。創業者向け「新規開業資金」は融資限度額が7200万円で、うち運転資金は4800万円。また中小企業事業の「スタートアップ支援資金」は2024年2月に融資限度額を14億4000万円から20億円に引き上げた。
一方、農林水産事業ではスマート農業技術活用促進法が10月に施行。スマート農業技術を活用したりする事業者など(農業者含む)が計画を策定して認定を受けることで利用できる融資制度「スマート農業技術活用促進資金」を開始した。
さいたま商工会議所と 「さいたまの架け橋」
日本政策金融公庫さいたま支店と浦和支店は6月、さいたま商工会議所の設立20周年を機に、同会議所と「販路開拓・海外展開・事業承継支援に関する覚書」を締結した。覚書に基づく連携スキーム「さいたまの架け橋」を構築して、さいたま市内の中小企業・小規模事業者からの支援ニーズに連携して対応する。
市内中小企業などに対して、自己変に受革に向けた経営者の意識喚起や支援ニーズの掘り起こしを行う。地域の他の支援機関とも連携する。事業の維持・発展に不可欠な販路開拓や海外展開支援、事業承継支援などを行い、必要に応じた継続的フォローアップも進める。スキームに基づいた支援を進めることで、市内企業がアフターコロナの経営環境下で自己変革を実現し、次世代け継がれるよう後押しする。
3事業一体となり 「日本一暮らしやすい埼玉」実現
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さいたま支店国民事業統轄・都築栄太氏(左)、支店長兼中小企業事業統轄・ 黒澤伸也氏(中央)、農林水産事業統轄・木村哲也氏(右)
日本公庫は2024年度に「政策金融の担い手として、安心と挑戦を支え、共に未来を創る。」という使命を明文化した。中小企業・小規模事業者の実態・要望を把握して、政策金融を的確に実施。新たな取り組み、成長、再チャレンジといった挑戦を支える。
創業・スタートアップ・新事業、事業再生、事業承継、海外展開、農林水産業の持続可能な成長、ソーシャルビジネスなどの重点事業分野の支援にも力を入れる。今後も埼玉県や県内市町村、支援機関、民間金融機関などと連携しながら、3事業(国民生活事業、農林水産事業、中小企業事業) が一体となり、県のスローガン「日本一暮らしやすい埼玉」の実現に向け、中小企業や小規模事業者などの成長と発展を支援する。
渡辺製作所/「ノックアラート」で作業者に警告発信
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ノックアラートシステム
渡辺製作所(さいたま市桜区、渡辺伸治社長)は、通信用コネクターやファイバーセンシングシステムなどを開発、製造、販売する。渡辺社長は「モノづくりなら何でもやりますというのが当社の基本姿勢」と強調する。金型や専用組み立て機械も全て自社開発製造する。また経営理念や経営方針、品質方針などを記載した「社員パスポート」を毎年発行し全社員が共有する。
開発したファイバーセンシングシステムを日本酒造りに活用した権田酒造(埼玉県熊谷市)は2023年度の新酒鑑評会で金賞を受賞した。このセンサーは光ファイバーの端面に多層膜を施したBOFと呼ばれ、24時間リアルタイムで温度を管理し、〝職人の勘〞を見える化した。
新開発の「ノックアラート」は工事現場などの作業者の危険を監視して警告を発信する。ヘルメットに子機を装着してノックで危険を知らせるほか、温度センサーや加速度センサーで作業者の熱中症や転倒を監視する。
二ノ宮製作所/塗装工場新設で大型精密筐体の塗装が可能に
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二ノ宮製作所の「アスヨク」(改善)メンバー
二ノ宮製作所(秩父市、二ノ宮紀子社長)は、金属筐体を専門に製造するメーカー。精密板金技術とそこに付随する周辺技術(溶接技術/塗装技術/アッセンブリなど)の複合スキルを持つことが強みだ。2014年、1級板金技能士を塗装メーカーに出向させ、塗装技能を習得させた。自社の板金製品と、より親和性の高い塗装技術を得るためだ。当初は小規模な試作ラインを導入し、様々な業界の金属塗装を手掛けることでスキルを磨き、お客様からの信頼を高めていった。22年、3メートル立方の大型精密筐体に対応できる塗装工場を新設したことで、半導体製造装置や工作機械、環境機器メーカーからの生産依頼が増加。また、社員の自主性を尊重した「アスヨク活動」を開始。「今日より明日を良くする」ことを意識した名称を冠した改善チームだ。23年には最新板金設備を導入し、工場レイアウトの見直しによる整流化を行った。24年には、【VISION 2 0 3 5 】を掲げ『人材開発室』を創設するなど、社員と会社が更なる成長を目指す。
平和産業/ベトナムに新工場 25年10月から稼働
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ベトナム新工場の完成イメージ
平和産業(さいたま市南区、大竹徹社長)はベトナムに小型含油軸受「ピースロン」を製造する新工場を建設する。2025年4月に着工して10月から稼働を始める。複雑形状の製品を製造する設備も新たに導入。ベトナムの他、タイやカンボジア、マレーシアなどの日系自動車部品メーカーや電子機器メーカーを中心に製品を供給する。「ユーザーに近い地域で生産・供給する体制を整えて、東南アジアで市場開拓を進めていく」と大竹社長は強調する。
全額出資の現地法人「Peace―Lon Vietnam」を8月に設立。海外事業を統括する大竹秀法総務部長が現地法人のトップを務める。法人設立に向け日本政策金融公庫さいたま支店中小企業事業と武蔵野銀行が協調融資した。同社は軽井沢技術センター(長野県御代田町)のほか、中国大連市と珠海市にも生産拠点を構える。切削加工に比べて材料の無駄がなく、持続可能な社会に貢献する技術で、産業基盤や地域社会を支える。
ベンチャーウイスキー/美味しいウイスキーを求めて、北海道に新蒸留所を建設
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昔ながらの製造方法を守り美味しいウイスキーを提供する
ベンチャーウイスキー(秩父市、肥土伊知郎社長) は、代表作「イチローズモルト」をはじめ、質の良い水や気候を生かしたウイスキーを製造する専業メーカー。秩父の地で蒸留所を2つ持ち、「美味しいウイスキーを造りたい」という思いのもと、伝統を重視することで、あえて手間のかかる、こだわり抜いた製造方法で高い評価を受けている。
現在は、同社の完全子会社が北海道苫小牧市に蒸留所を建設中。トウモロコシを原料としており、グレーンウイスキーを自社製造する予定だ。コロナ禍以前はグレーンウイスキーの9割以上を海外から輸入していたが、コロナ禍での物流の混乱などを受け事業継続計画(BCP)を考えた末、蒸留所の建設に至った。また、同地ではウイスキーの原料となるコーンや良質な水が確保でき、港湾等の交通イフラが整備されている点なども利点。
今後、北海道で独自に人材を採用し約20名体制でウイスキー製造を進める方針だ。
