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需要満たす供給へ 新時代の産業団地
産業用地の不足という問題が、製造業の成長に向けた新たな課題となっている。日本全体で工場の新設や増設を検討する企業は増える一方、供給可能な産業用地は不足しているのが現状だ。東京都に隣接して道路網や鉄道網が充実する埼玉県に立地を望む企業は多い。埼玉県企業局公営企業管理者の板東博之氏と、大栄不動産社長の石村等氏に県内の産業団地の現状を中心にオフィスビルや住宅について現状や将来像を聞いた。
物流・食品加工業の立地需要 顕著/埼玉県企業局 公営企業管理者 板東 博之 氏
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埼玉県企業局 公営企業管理者 板東博之氏
ー埼玉県内の産業団地の分譲状況を教えてください。
「埼玉県は企業からの立地ニーズが継続的に高く、近年は特に物流業者や食品加工業者からの需要が顕著だ。理由としては、国道16号や外環道などの首都圏環状道路、さらに都心から放射線状に多くの幹線道路が伸びており、交通利便性に優れていることがあげられる」
「それに加えて、自然災害の発生頻度が少なく、事業継続計画(BCP)の観点からも立地優位性があるといえるだろう。大消費地である東京都に隣接して人手を確保しやすいが、首都圏の中で比較的地価が安いのも特徴だ。これらの点が企業にとって魅力的に映るのだろう。他方、物価高や円安が長期化して企業の経営環境に影響を与えていることから、産業団地への立地をためらう企業も一部存在する」
ー現在開発している産業団地を教えてください。
「『久喜高柳(埼玉県久喜市)』、『吉見大和田(同吉見町)』、『美里甘粕(同美里町)』で、募集時期は未定だ。久喜高柳は東北自動車道の加須インターチェンジ(IC)から約4キロメートル、分譲面積が約16ヘクタールで、2025年度末の引き渡しを予定している。吉見大和田は、26年度末の引き渡しを予定しており、川島ICから約6キロメートルに位置し、分譲面積が約13・7ヘクタールだ。美里甘粕は分譲面積が約6ヘクタールで、美里町役場に近接している。そして27年度末の引き渡しを目指している」
「いずれの産業団地も交通の便に優れており、企業からの立地のニーズが高い。すでに久喜高柳は100件、吉見大和田には50件近くの問い合わせがあった」
産業団地起点に雇用創出 地域経済活性化
ー立地企業に求めることはありますか。
「埼玉県は少子高齢化を見据えた街づくり構想『埼玉版スーパー・シティプロジェクト』を進めており、産業団地はその核となり得る。我々は県の重要施策を視野に入れて開発し、産業団地を起点に雇用が生まれ地域経済が活性化することを目指している。このため企業には『コンパクトシティ』の意識を持った立地計画を立案していただきたい」
ー産業団地の将来像は。
「立地した企業同士でエネルギーを共有することが可能性の一つとしてあげられる。例えば、工場で排出される排ガスや排蒸気などの熱源を熱エネルギーとして活用することが考えられる。さらには産業団地だけではなく、地域を巻き込んだ循環型エネルギーの枠組みを整える構想も存在している」
日本全体で産業用地不足問題に直面/大栄不動産 社長 石村 等 氏
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大栄不動産 社長 石村 等 氏
ー景気動向の現状と今後の見通しは。
「これまで金融緩和と円安、物価高が株価を押し上げてきたが、日銀のマイナス金利施策解除や円安が修正局面に入っていることも含め、構造が少しずつ変化している。日本の潜在成長率を考えると自然利子率的な金利水準が維持され、急激な加速や減速を引き起こさないような金融政策が取られていくのではと予想される。また政治の動向と金融政策は密接に関係してくる。国会運営が厳しくなると財政規律や金融の正常化には深く踏み込めず、来年の参議院選挙までは給付金や補助金、短期的な経済政策などポピュリズム的な政策運営を迫られるのではないか」
ー産業団地の状況をどう見ていますか。
「日本全体で産業用地の不足という問題に直面している。工場などの新設や移設、増設を考えている企業は増えているが、日本立地センターによると供給可能な産業用地は2005年には1万6105ヘクタールあったが、現時点では9800ヘクタール。産業用地が大きく減少して需給ギャップが生まれている状況にある。さらに建築費や建設資材の高騰という問題も起きている。結果的に当初計画を延期したり、着工を遅らせたり、場合によっては根本的な見直しをしなければならない現象が起きている」
ー制度面の課題は。
「産業立地を円滑に進めるための行政の枠組みにも課題がある。農業振興と産業立地の調整をどう進めるか。政府は産業用地円滑化のための土地利用転換の迅速化を打ち出したが、具体的には進んでおらず、こうしたことが産業用地不足という今の状況につながっていると心配している」
オフィス 安定需要で堅調稼働続く
ーオフィスや住宅については。
「産業用地とは状況が異なっている。荒川を渡って川口、浦和、さいたま新都心、大宮にかけてのエリアでは、オフィスの空室率はわずか2・35%。非常に安定したオフィス需要の中で堅調な稼働状況が続いている。県南エリアは引き続き底堅く推移するとみている。住宅については首都圏のマンション供給戸数の1割が埼玉県という状況は変わっていない。比較的安定的に供給されている。ただ価格はどんどん上昇している。夫婦共働きで住宅を取得する『パワーカップル』と呼ばれる層も増えている。今後、急激な価格上昇が起きた時に住宅市場がどうなるか注視する必要がある」
ー県内での大栄不動産の取り組みは。
「当社はすでに『川島インター産業団地』や『東松山葛袋産業団地』の開発実績がある。現在、坂戸市内の約47ヘクタールの『坂戸インターチェンジ地区土地区画整理事業』の特定業務代行者に指定されており、都市計画審議会で市街化区域に編入されれば、自然と調和した新たな産業団地への企業誘致を進めていく」
