-
業種・地域から探す
BCPに取り組む中小企業 ~高めよ! 災害対応力~
埼玉県は埼玉県産業振興公社と連携し、「事業継続力強化計画」や「連携事業継続力強化計画」の策定支援を実施している。自然災害が激甚化・頻発化する中、工場などの拠点が停止しても早急に復旧させ、事業への影響を最小限に抑えることができるからだ。そこで今回、埼玉県産業振興公社の支援内容を紹介し、中小企業が事業継続計画(BCP)に取り組む第一歩としたい。
近年、台風などの自然災害や感染症拡大、サイバー攻撃など、企業活動を脅かすリスクが増大している。不測の事態が発生しても、重要な事業・業務を中断させない、または中断しても可能な限り短期間で復旧させる対応が強く求められ、そのための方針や体制、手順などを示すBCPの策定が急務となっている。一方中小企業は、BCP策定に必要なスキル・ノウハウが不足している。そこで埼玉県は埼玉県産業振興公社と連携し、BCPの入門編である「事業継続力強化計画」の策定支援を行っている。「事業継続力強化計画」を策定し、経済産業大臣の認定を受けた中小企業は、税制措置や金融支援等を受けることができる。
【埼玉県産業振興公社による支援】
①事業継続力強化計画(BCP入門編)策定を支援。BCPアドバイザーがオンラインや対面での個別支援を無償で実施。記入内容の確認や国への認定申請方法のアドバイスを実施。業種別申請書記入例を公表しており、簡単に国への認定申請書を完成できる(複数の事業者で策定する「連携型」も対応)。②セミナー開催等による普及・啓発活動を実施。各種団体や工業団地組合等が開催するセミナーへ、BCPアドバイザーを無料で派遣。
【事業継続力強化計画とは】
BCPよりもハードルが低い入門編のこと①計画書は、10ページ前後②策定時間は、累計4〜6時間程度③策定期間は、概ね3週間程度④「策定の手引き」が充実
【認定のメリット】
①金融支援/低利融資、信用保証枠の拡大②税制優遇/防災、減災設備の税制措置③補助金の加点(ものづくり補助金など)④認定ロゴマーク使用が可能(HPや名刺など)
岩崎食品工業/2工場体制でリスク分散進める
-
埼玉県蓮田市の本社
岩崎食品工業(埼玉県蓮田市、神田広人社長)は麺類の製造販売を手がけ「埼玉名物・肉汁うどん」で知られる。JR東日本のコンビニエンスストア「NewDays」のおみやげコーナーで取り扱っているほか、埼玉県による「Made in SAITAMA優良加工食品大賞」の第1回大賞に選ばれた。
埼玉県蓮田市に本社工場と蓮田清水工業団地工場(清水工場)の二つの生産拠点を構える。2021年に事業継続力強化計画の認定を受けた。「2工場の立地は水害のリスクはないことから、地震対策に重点を置いて計画を策定した」と神田社長は強調する。
本社工場は1976年完成で50年近くたっている。清水工場の増築計画を進めており、25年末に稼働する予定。1階に冷蔵庫を設置して2階を乾麺の製造ラインにする。「本社工場で作っていた製品を徐々に清水工場に移して2工場体制にすることで、リスク分散を進める」と事業継続力の強化を進める。
クラウン精密工業/横のつながりを生かしたBCP対策に取り組む
-
太陽光パネルを使った発電もBCP対策のひとつ
クラウン精密工業(埼玉県志木市、望月紀人社長)は、1960年の創立以来、特殊なタッピンねじの開発・量産を行っている。タッピンねじには、めねじが無くてもねじ自身で相手部材にねじ立てし、締結ができ、ゆるみづらいといった特徴が有り、自社製品として「デルタイト」を展開し同社の主力となっている。主に自動車関係や家電、OA機器など幅広く愛用されている。
生産拠点は、本社・福島県・秋田県に持つ。秋田工場を3年前にリニューアルしたり、本社屋根に太陽光パネルを取り付けるなど、事業継続計画(BCP)に取り組んでいる。また〝横のつながり〟を生かしており、BCPの一環でねじを手がける企業の組合「東部ファスナー協同組合」では加盟する20社で、何か緊急事態が発生した場合に機械などを貸しあえる体制を構築済みだ。2024年には買収・合併を通し新たな営業所を設けるなど、事業承継とともに営業力強化にも積極的に取り組んでいく。
ジェイクラフトマン/町工場数社で連携、経営資源を融通
-
社内設備にはキャスターを付け、有事の際に移動しやすくした
ジェイクラフトマン(埼玉県八潮市、中村忠裕社長)はバッグや小物類などの皮革製品を手がける。本社を構える八潮市は、大雨などによる水害リスクが高い。そこで2021年に事業継続計画(BCP)を策定した。まず始めたのが自社の課題の洗い出しだ。加工委託業者が東京都内に集中していることから、徐々に地方へと分散させる方向にシフトした。さらに水災対策として土のうを購入したほか、特殊ミシンなどの社内設備にはキャスターを付け移動しやすくした。中村社長は「災害に備えているからこそ有事の際に迷うことなく行動に移せる」と説明する。
さらに連携事業継続力強化計画も策定。埼玉県東部の町工場数社で「DekiTech(デキテク)」を立ち上げた。自動車デザイナー、建築板金、金物溶接など連携企業の業種はさまざま。災害時に経営資源を融通するなどして事業所・工場の早期稼働を進める。また互いの強みを生かした新製品を開発・販売し、好評を集めている。
中島プレス工業/近隣企業と連携して早期復旧へ
-
協力企業の武友工業(越谷市)から「救助ボート」の提供を受けた
中島プレス工業(埼玉県越谷市、小松崎いずみ社長)は機能性材料専門の裁断型抜加工を手がけている。同社が強化するのは、防災・減災の事前対策に関する「連携事業継続力強化計画」の継続・実行だ。中小企業基盤整備機構の無料の専門家アドバイスを受け計画書を作成し、経済産業省の認定を受ける国の制度を活用している。
きっかけは2007年に事務所が全焼する火事に見舞われたこと。小松崎社長は「災害時には従業員の命の安全を第一に考えたうえで、早期の工場再稼働が必要」と痛感。近隣の包装サービスナカジマ(同)と連携し、互いの強みを生かし弱みを補うことが早期復旧への近道と考えた。具体的には、企業同士の工場の見える化を進め、有事でも連携する環境を構築した。新たに地域における本連携計画への協力企業も増え「救助ボート」の提供を受けた。水災害時に高齢者や地域住民などを救助し物資を搬送できる。今後は連携先と地域の災害対策の輪の拡大をさらに図る考えだ。
