-
業種・地域から探す
第46回埼玉県産業振興懇談会 持続可能な成長へ レジリエント経営/経営者は語る①
埼玉産業人クラブは11月11日、ロイヤルパインズホテル浦和(さいたま市浦和区)で「第46回埼玉県産業振興懇談会」を開いた。統一テーマは「持続可能な企業成長を目指すレジリエント経営戦略」。地震や豪雨などによる災害が多い日本の状況の中で、埼玉県内企業の経営幹部4人が自社の事業継続計画(BCP)やサステナブル(持続可能)な成長に向けた取り組み、レジリエント(回復力のある)経営の重要性などを参加者に訴えた。
日さく 社長 若林 直樹 氏 /「守りの防災」から「攻めの防災」へ
-
日さく 社長 若林 直樹 氏
当社はさいたま市大宮に本社を構え、1912年に創業した。さく井工事や井戸メンテナンス、地下水関連設備の工事などを手がけている。売上高は53億円、従業員数は289名。全国13事業所を展開し、海外にはネパールに現地法人を有する。
帝国データバンクの調査によると、事業継続計画(BCP)策定率は全国平均で19・8%だが、埼玉県は16・4%とやや低く、BCP策定が十分に進んでいないのが現状だ。南海トラフ地震が懸念される地域ではBCP策定率が高いのが特徴の一つ。例えば高知県は33・3%と最も高く、静岡県でも26・8%と高い傾向にある。埼玉県内でもBCP策定意向は47・1%で関心が高まっているものの、策定に至らない理由としては、スキルや人材不足、時間的な制約が挙げられる。
当社は2013年にBCPを策定した。適用地区は、東北地区、関東地区、中部地区、近畿地区、九州地区。毎年4月と9月に災害対応訓練を実施している。従業員全員に「持ち出し袋」や「折り畳みヘルメット」を支給しているほか、ハザードマップや各地の避難場所を確認している。こうした取り組みにより、事業継続力を高めるためには継続的な改善が求められることが分かってきた。さらに、BCPは単なる計画で終わらせず、事業継続マネジメントシステム(BCMS)としての推進が必要だとの認識を深めた。
「守りの防災」から「攻めの防災」へと意識改革を図ることが重要だ。災害発生時に社員とその家族の命を守ることに全力を注ぎ、BCPのレベルアップを図るべきである。その一環で、7月10日に社員35人に対し「大規模地震災害対応模擬訓練」を実施した。その結果、事務所内で書類棚が倒れた場合の社員の救出体制、社員が家族を心配して帰宅したい場合の対応、さらには通信手段の確保が課題として浮き彫りになった。BCPの存在を知っているものの、内容をあまり把握していないことも判明した。他にも、防災まち歩きとして日常的に見落としがちな危険物の確認を実施した。
井戸は災害時には生活を支える水源にもなる。関東大震災を契機に地下水の重要性が再認識され、はからずも、さく井の安全性と必要性を世間に認めさせる結果となった。実際、東日本大震災後には90・6%、熊本地震後には92・5%の井戸が破損せずに使用可能であった。このことから、井戸水は災害時でも重要な水源であることが明らかになった。
防災井戸用ハンドポンプの設置にも力を入れている。現在、当社のハンドポンプは、海外では1500本以上、国内でも1200本以上が設置されている。社会貢献活動として、社会福祉法人への寄贈も行った。また、災害時に地域住民へ井戸水を供給するために、埼玉県さいたま市、愛知県名古屋市、新潟県上越市の各事業所に防災井戸を設置している。こうした取り組みは今後も継続する予定だ。
新たな知見取り入れBCP改善
当社がBCPを策定して10年以上が経過したが、災害時に実際に機能するかどうかが課題だと認識している。これまでの取り組みでは十分ではない点もあったため、新たな知見を取り入れて改善している最中にある。これにより社員一人ひとりにBCPを浸透させていく。
当社は経営の要諦を「ヒト・モノ・カネ」ではなく、「ヒト・ヒト・ヒト」としている。会社は「社員とその家族の幸福」のためにあるという究極の目的に対し、災害時でも「社員とその家族のいのち」を守っていかなければならない。
井戸は地震発生後でも破損することなく使用できるというこれまでの実績を踏まえ、災害時の水供給としての井戸設置を呼びかけていきたい。
◆◆◆ 企業データ ◆◆◆
- 設立年:1938年
- 資本金:1億円
- 職種・事業内容:さく井工事・特殊土木工事・地質調査など
- 本社所在地:さいたま市大宮区桜木町4の199の3
- 電話:048・644・3911
古郡建設 デザインマネジメント部長 渡辺 文昭 氏/11団体と災害協定 地域インフラ守る
-
古郡建設 デザインマネジメント部長 渡辺 文昭 氏
当社は大正3年(1914年)創業で今年110周年を迎えました。土木事業、建築事業、リニューアル事業の3本柱を中心に、グループ会社で太陽光発電事業、ゴルフ場の運営、住宅専門の古郡ホームと事業展開しています。
建設会社がBCPを策定している理由は、もともと国や地方自治体と災害協定を締結しています。大雪などの災害時には各役所の要請で作業を行うなどの体制が昔から整っています。また現在、BCP認定を取ることで国では入札へのインセンティブもあります。
当社はBCPの計画を策定しています。初年度は2010年。BCPという言葉ができてすぐ作成しました。建設業は災害などが発生した時に、自社の事業継続だけでなくインフラを守る使命もあります。当社が災害協定を結んでいるのは11団体。建設業はBCPがある以前から全国の仲間が地域の守り手として活動をしています。
BCPなどは計画を立てただけでは機能しないので、訓練や整備も行っています。緊急時に使う機材や食料品も賞味期限を必ずチェックしてローリングストックすることも毎年行っています。
中小企業にとってBCPの策定は経営の安定化につながると感じています。安全に安心して働いてもらえる環境、ステークホルダーにも安心して仕事を任せてもらえる環境を整えることで、経営資源を守ることにつながっていくと思います。逆に事業継続能力に不安があると、ステークホルダーからの信頼が低下して、最終的には選ばれないことにつながり、事業存続の危機につながると思います。
事業継続、ブランディングで相乗効果
次に当社が取り組むブランディングについて紹介します。私たちは中小企業こそブランディングが必要だと考えて日々活動しています。ブランディングを始めた理由は、新卒採用に苦戦したことがあります。建設業は人手不足で採用に苦労しています。若者に響く会社になるにはどうしたらいいかとブランディングをスタートしました。進めるうちに、エンゲージメントを高めてみんなが幸せになる会社にならないと、200年、300年続く会社にならないと認識して現在も進めています。
当社のブランディングプロジェクトは6シーズン目を迎えています。転機となったのが2019年の10月にブランディング専属部署ができたことです。ブランディングプロジェクトは社長も参加してプランを出して、専属部署が実行するイメージです。逆に専属部署からプロジェクトに、アイデア出しや協力依頼し、双方で協力しながら進めています。
ブランディングの効果は、認知度向上、企業価値(意識)の向上、ステークホルダーの評価、採用、社員満足度―の五つです。認知度向上ではマスコミの登場数が圧倒的に増えました。会社の取り組みをしっかり見せることが取材に来てもらうことにつながっています。さまざまなお客さまに認知してもらい、競合他社との入札でアドバンテージとなって受注したり、特命案件が増えることにつながったりしています。
当初のブランディングの目的だった採用は、BCPも含め社会貢献活動やSDGs(持続可能な開発目標)に取り組み発信することで、地元に貢献したい若者が非常に入ってくるようになりました。昨年は国土交通省から建設人材育成優良企業表彰もいただきました。若者が増えて会社が明るくなると、社員の満足度も向上しました。
私たちの考えるこれからは、SNSのように「いいね」をもらい、「推し」になってもらうことが目標です。ソーシャルポジショニングでグッドな企業を目指すことで、採用活動や事業の継続などさまざまな部分につながっていくと考えています。
◆◆◆ 企業データ ◆◆◆
- 設立年:1914年
- 資本金:1億円
- 職種・事業内容:総合建設業
- 本社所在地:埼玉県深谷市稲荷町2の10の6
- 電話:048・573・3111
