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関西特集
日本のモノづくりをけん引する 阪神地区産業界
自社の特徴生かし新市場開拓
全国有数のモノづくり企業の集積地域として発展してきた兵庫県阪神地区。一方で最近は、工場跡地に物流倉庫の建設が相次ぐなど、変化も見え始めている。そんな中でも、自社の特徴を生かし、新たな市場開拓や事業展開を活発化させるモノづくり企業は多い。そうした企業の取り組みの一端を紹介する。
髙丸工業/ロボを装置から道具へ 遠隔操作溶接システム開発
髙丸工業(兵庫県西宮市、髙丸正社長)がロボット関連事業を本格スタートさせて約40年。現在ではロボットシステムインテグレーター(SIer)として確固たる地位を築くほか、大型自動機械の製造などでモノづくりを支える。中小・零細企業や第1次産業などへもロボット導入を活発化、人手不足対策や生産効率化などの課題解決にも注力する。
そんな中、最近開発した「遠隔操作溶接ロボットシステム」が注目を集める。ロボットの遠隔操作の研究開発は数多いが、遠隔指示が中心。同システムは実作業に至っている点が大きな特徴。遠隔操作だが正確には遠隔ティーチング・遠隔教示で、「ティーチングを簡易にし、遠隔操作できることが正しい表現」(髙丸社長)と言う。システム稼働のトレーニングは必要だが、溶接の訓練は不要。現場に出向かなくてもいいことがポイントだ。
溶接の世界は職人技が求められる半面、職人はロボット使用を嫌がる。もし現場作業ができなくなっても事務所や自宅で技が見せられ、作業データの蓄積で「〝匠の技〟が誰でも使え、技能承継もスムーズになる」(同)副次的効果を生む。
そのためティーチングをマウスによるドラッグ&ドロップで対応、面倒くささを解消。危険で難しい溶接の安全性が高まり、事務職の女性らでも扱うことができるなど、これまでの常識を覆した。
一方ロボット業界は各社各様の制御言語やティーチペンダントを活用する。新たなシステムの浸透には統一化が必要だが、膨大な費用や時間がかかる。そこで各社のシステムには立ち入らず、シミュレーターを動かして、止め、そのデータを送信することでロボットを動かすスタイルを採用、使い方の統一を図った点が見逃せない。
シミュレーターには加工対象物(ワーク)や治具の情報がないため、ビデオカメラやウェブカメラ画像とシミュレーター画像を重ね、ウェブカメラ画像を『どの位置から、どの方向をどのくらいの尺度で見ているか』のデータ化を図った。これにより、シミュレーターには風景や治具、ワークがあたかも映っているように見える。
シミュレーターが稼働してもその時点でロボットは静止しており、シミュレーターの指示が決まって初めてロボットが動き出す。シミュレーター画像を確認後、ロボットを操作するため、通信環境に関わらず遠隔でも安全に狙った位置に動かせる。「世の中で一番確実な使い方」と髙丸社長は自負する。
ターゲットは中小・零細企業だったが、「考えてもいなかった業種・業界から問い合わせが入った」(同)ことで「気づきを与えられた」と驚きを隠せない。『メーカー横断的に使える、使用方法が劇的に簡単、遠隔操作できる』を三本柱に、技術的に難易度が高いところはロボットが代替するが、ロボットを装置ではなく人の技術・技能を補う〝道具〟として活用できる道を開いただけにインパクトも大きい。
髙丸社長は常々「ロボット業界はコンピューター業界の後追いをしている」と話す。「ロボット業界を席巻するのはロボットメーカーではないと思いたい」(同)とシステムのさらなる改良・改善に意欲を見せる。それにはメーカーとの協調が必要だし、ユーザーの協力も欠かせない。
遠隔操作溶接ロボットシステムとして一定の形は完成したが、「スタートラインに立っただけ」(同)と認識する。最終的には1人にコントローラー1台で、作業するロボットが複数台がイメージ。使いこなせばモノづくりも大きく変わり、日本が世界の技術立国、モノづくり大国の地位を取り戻すことにもつながる。
大阪・関西万博もそうした機会と捉える。「関西開催だけにロボットをベースに積極的に関わりたい」(同)と模索する。キーワードは〝同社だからこそ取り組めること〟だ。
トリーエンジニアリング/エアノズル「Hayate」 機能向上とコスト削減両立
トリーエンジニアリング(兵庫県西宮市、古堤裕行社長)は1992年、古堤社長の父である古堤泰次会長が創業。古堤会長がコンプレッサーのエアを使用して空気を搬送する「エジェクター」の開発に携わっていたことから一貫して〝エア〟を核とする。同社の前身的存在で、祖父の古堤幸次郎氏が「堤精機」を立ち上げたときから脈々と息づく。
古堤社長が就任した2013年から、エアを核に新たな製品開発が本格化した。技術・研究開発や試行錯誤を重ねて結実した製品がエアノズル「Hayate」シリーズ。Hayateは薄板状のエアを吹き付け、容器表面などに付着した水滴や異物を除去する。独自設計の内部構造と吐出形状で風速が高められ、水滴除去効率を60%からほぼ100%にまで引き上げたのが大きな特徴。さらに、エア消費量も大幅に減少、ランニングコスト削減にもつなげている。
一般的に空気にはコストがかからないというイメージが強いが、モノづくりなどで使用するにはコストはかかる。それだけに無駄なエネルギーコスト削減が避けられない。国内の電力使用量の約4%がエアブローで占められている。「4%は小さい数字だが、金額に換算すると膨大になる」と古堤社長は警鐘を鳴らす。そこで削減の取り組み目標を1%に設定した。「計算上では全てのノズルがHayateに切り替われば、2%以上の削減も可能」(同)という。
電気は当たり前に使えなくなって初めてその大切さが分かる。電気自動車(EV)時代の到来が待ったなしで、今後の電力消費に減る要因がない。コンプレッサーで空気を送り出す際に電力消費しているところまで落とし込めるアイテムだけに、「そうした意識に対する啓発につながれば」(同)とも捉える。電力消費削減以外にも、内部構造を工夫し圧縮空気を吐出することで、乱流の発生を防ぎ低騒音化も実現、環境にも配慮されている。既存のノズルをHayateに取り換えるだけで、システムを変更することなく効果を発揮する点も導入を後押しする。
こうした動きに拍車をかけるのがHayateの無償貸し出し。省エネルギーや効率向上を体感してもらう。製品に対する自信の表れだが、古堤社長も「最初は半信半疑だった」と振り返る。制度を通じ顧客からの答えや要望が情報として収集でき、「製品の改良・改善に反映、ラインアップ拡充として具現化できた」(同)と分析する。
こうした特徴からHayateは、第49回発明大賞本賞受賞など、数々の賞を受けている。全てで受賞しているわけではないが、応募の背景には「第三者の評価が知りたい。評価を通じ製品品質を高める」(同)ことも狙いにある。
同社は今後もHayate中心に展開するが、主力の食品や飲料、医療関係業界から、より幅広い業界への展開とともに、国内だけではなく海外も視野に入れている。
デジタル化が急速に進む中、Hayateはアナログ的要素が非常に強い。古堤社長は「デジタル化社会だからこその原点回帰ではないが、アナログに目を向ける企業があってもいいはず。あえてアナログにこだわりたい」と思いを語る。今後もデジタル社会で光る存在、輝く道を探していく。
古堤社長は万博で「日本のモノづくりの優位性、再認識できる」と考えている。諸外国からどのように見られているかも分かるだけに、「製品開発や事業展開のヒントを得たい」と楽しみな様子だ。