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関西特集
ビジネス拡大 期待感高まる―第62回関西財界セミナー
2月に国立京都国際会館(京都市左京区)で開催された「第62回関西財界セミナー」では、2025年大阪・関西万博に対する期待の声が多く聞かれた。
GXエコシステム アピール
第2分科会では、グリーン・トランスフォーメーション(GX)をビジネス拡大にどうつなげるかなどを議論。大阪ガスの宮川正副社長は「万博を契機にエコシステムを作り、世界にアピールすることが重要」と語った。
二酸化炭素(CO2)と水素でメタン合成する「メタネーション」の技術開発など、水素利活用の機運は高まる。また関西では蓄電池関連の企業も集積する。堀場製作所の足立正之社長は「関西はエネルギー関係の企業が多い。世界に対し顕著な貢献を示せる」と期待を込めた。課題の一つは、グローバルな潮流の中で、いかにルール策定の主導権を握るか。みずほ銀行の石原治常務執行役員は「関西は首都圏よりコンパクトで、意見集約しやすい」と指摘した。
第3分科会ではデジタル変革(DX)について議論。関西広域連合の三日月大造広域連合長(滋賀県知事)は、関西経済連合会と共同で立ち上げた「関西広域データ利活用官民研究会」や、鉄道会社7社によるスマートフォン用アプリケーション「KANSAI MaaS」などの取り組み事例を紹介。万博はあくまで、30年までのマイルストーンという扱いとし、中長期的な視点で議論を進めた。
AI・ロボットで会場工事
DXによって行政・企業・住民の抱える社会課題を集約できるようになれば、地域としての求心力は高まる。万博を通じデジタル基盤を整備する意義は大きいといえる。
万博会場の夢洲(大阪市此花区)での工事については、関経連とゼネコン、情報通信技術(ICT)企業などが「夢洲コンストラクション」を提案。それに基づき、人工知能(AI)による気象予測や、飛行ロボット(ドローン)・自動搬送車両を使った資機材の搬送など、最新技術が実際の工事現場で積極的に使われている。将来的には夢洲以外にも対象エリアを拡大する予定。関電不動産開発(大阪市北区)の藤野研一社長は「ライバル企業同士も参画している。限られたパイの奪い合いではなく、パイを大きくする協調ができている」と語った。
第6分科会では、万博テーマの「いのち輝く未来社会」に向けて取り組むべきことを議論した。夢洲新産業・都市創造機構(大阪市北区)の井垣貴子代表理事は「万博は、企業や自治体をマッチングさせる千載一遇の機会だが、今はそれができてない」と苦言を呈した。その上で「〝いのち産業〟を発信することで、大きなレガシーを残せる」と訴えた。
財セミ初日の全体会議では大阪大学の堂目卓生総長補佐が、18世紀後半のアダム・スミスから始まる近現代経済史を振り返りながら講演。そうした歴史的な経緯を踏まえ現代社会があるとした上で、大阪大学が関西経済3団体と共同で立ち上げた「いのち会議」について説明した。同会議は「共助社会」や「共感経済」などをキーワードに社会課題全般を議論している。そのとりまとめを、万博会期中に「いのち宣言」として発表する予定だ。
堂目総長補佐は「個々の影響力は小さくても、他の人や組織に伝播すればソーシャルムーブメントになる。宗教改革も産業革命も、一人の人間がやったわけではない」と熱弁。万博が社会変革の契機とすべきだと訴えた。
次回財セミは阪神・淡路大震災から30年の節目となることを受け、神戸市内で開催する。防災対策を中心とした議論が想定されるが、神戸は水素利活用や医療産業などのテーマで注目を集める地域でもある。産学官で活発に議論を深め、財セミの2カ月後に始まる万博に向け、関西全体で機運を盛り上げていくことが期待される。
万博の経済効果―研究機関はこう見る
2025年の大阪・関西万博による全国の経済波及効果は2兆円を超えると複数の研究機関が試算する。国内の来場者に加え、インバウンド(訪日外国人)が消費支出を押し上げる見込みだ。アジア太平洋研究所(APIR、大阪市北区)は開催に合わせて関西各地がイベントを催し、来場者を取り込めば波及がさらに広がるとみる。りそな総合研究所(大阪市北区)は、人手不足などの課題解決に資する技術をアピールする場として万博の重要性を指摘する。
APIR、関西仮想パビリオン/2兆円以上試算、3兆円上ぶれも
APIRは万博の経済効果を2兆7457億円と試算する。ただし、来場者が増えれば最大で3兆3667億円に上ぶれる可能性もあるという。大阪府以外の自治体などもイベントを開き、各地を同時的に盛り上げる「拡張万博」の考え方がカギを握る。APIRの稲田義久研究統括は「関西全体を仮想的なパビリオンに見立てる」と説明する。
同研究所は万博の来場者総数を約2820万人と想定。拡張万博がうまくいくと日帰り客数や宿泊数が伸び、交通機関の利用、ホテルでの宿泊といった消費支出が増える計算だ。画餅に帰さないためには、自治体や企業が人を呼び込む機会を作らねばならない。かねてよりインバウンドが多く訪れる地域以外も「魅力的なコンテンツをどれだけこしらえられるか」(稲田研究統括)が重要となる。
例えば日本のモノづくり技術は世界から高い評価を受ける。「オープンファクトリーのような取り組みをどう見せるか」といった選択肢もあるという。
また、来場者の増加に備えた受け入れ体制も必要だ。宿泊・サービス業は特に人手不足が深刻。チェックインの自動化といった「デジタル変革(DX)の活用」(稲田研究統括)は欠かせない。
万博開催までもうすぐ1年を切る。アピールを狙う自治体や企業は、企画と準備をいっそう急ピッチで進める必要がありそうだ。
りそな総合研究所、課題解決/技術開発後押し 長期的な成長へ
りそな総研も経済波及効果を2兆2000億円と試算する。そして意義は直接の経済的恩恵だけではないというのが、荒木秀之主席研究員の見方だ。「長期的な関西経済の成長につながる」という。
少子化による人手不足への対応や、世界に伍する人工知能(AI)・ロボットなどの技術開発は産業界全体の課題。万博はこうした課題を解決する、さまざまな技術を披露する「サンドボックス(隔離された試験空間)」になりうる。
世論では会場建設費の上振れといった負の側面に批判が向かうが、産業界の課題を解決する「トリガーとして(万博を)活用する議論も進むべきだ」(荒木主席研究員)。
関西の企業経営者の中には、万博の位置づけが過去と変わっていると指摘する人もいる。リアルの開催に意味が見いだせないという厳しい意見もある。対して、荒木主席研究員は「その場に行かないと体験できないコンテンツの重要性が増している」と考えを述べる。AIやロボット、「空飛ぶクルマ」などの新技術を体感してもらうことで「いかにサプライズを示せるか」が問われるという。
また、万博をきっかけとした観光業の振興も重要な論点だ。「(会場の)夢洲が観光拠点としての性質を持ち始めることは、大きな意味を持つ」と荒木主席研究員は強調する。インバウンドを含む来場者の受け入れは「民泊がカギを握る」(荒木主席研究員)。コロナ禍でしぼんだ事業者を盛り上げ、万博閉幕後も活発な利用を促すことが理想だ。
「関西は周遊観光をしやすい。将来は統合型リゾート施設(IR)開業や神戸空港の国際化といった可能性もある」(同)。民泊をはじめとした万博への準備そのものが、観光業のレガシー(遺産)になるかもしれない。