-
業種・地域から探す
続きの記事
神奈川県特集
神奈川産業人クラブ特別講演会/独自技術で新市場開拓
神奈川産業人クラブ(中村幹夫会長=厚木商工会議所会頭、大和ケミカル会長)は6月16日、横浜ベイシェラトン ホテル&タワーズ(横浜市西区)で2025年度の特別講演会を開いた。アップコン社長の松藤展和氏が「ニッポン上げろ!地盤から日本を支える—川崎発・操業を止めない技術」と題して講演。工場や社会インフラの強靱(きょうじん)化につながる同社の技術の原理や独自性などを実演を交えて紹介した。
アップコン 社長 松藤 展和 氏/ニッポン上げろ!地盤から日本を支える—川崎発・操業を止めない技術
短工期で沈下修正 機会損失をゼロに
-
アップコン 社長 松藤 展和 氏
本日は地震が起きた時に皆さんの工場や店舗の操業を止めない技術を紹介します。地震だけでなく埋め立て地などで地盤沈下のリスクは高まります。「圧密沈下」と呼ばれる現象によりじわじわと地盤は沈み建物や床が傾きます。その傾きを特殊な硬質発泡ウレタン樹脂の発泡圧力を使い水平に戻すのが我々の技術です。本日はこの技術の紹介に加え、首都直下型地震発生時の神奈川の被害想定も紹介していきます。
当社は03年設立で、22年には名古屋証券取引所のネクスト市場に上場しました。私がこの技術に出会ったのは創業前に働いていたオーストラリアのシドニーでした。シドニーで習得した技術を日本の環境・ニーズに合わせて最適化し、導入・普及してきました。ウレタン樹脂を使用した沈下修正を事業化したパイオニアです。
川崎市高津区の「かながわサイエンスパーク」(KSP)に本社があり、業種は建設業ですが、維持・補修業務が主力事業です。当社のビジネスモデルの特徴は施工と同時に研究開発を手がけていることです。製薬会社と似ていますが、施工で得た利益を研究開発に投資して新工法や新材料などを開発しています。それらを基に新市場を開拓するサイクルを回すことで、持続可能なビジネスを展開しています。
「アップコン」は「コンクリートをアップする」という意味で名付けました。アップコン工法は、傾いたコンクリート床に小さな穴をあけ、液状のウレタン樹脂をその穴から注入します。ウレタンは床と地盤の間に生じた空洞内で、膨張・発泡し傾いたコンクリート床を押し上げ修正します。
従来、沈下したコンクリート床を補修するには、コンクリートを壊して新しく打ち替える必要がありました。例えば300—400平方メートルの広さなら、2週間から1カ月の工事となり、その間は工場や店舗を稼働できません。しかしアップコン工法ならそれをわずか3日間で修正でき、しかも操業を続けながら施工ができるのです。
アップコン工法の強みは、①短工期②操業を止めない③高い技術力④施工がコンパクト―の4点です。顧客にとって、操業を止めることの機会損失をゼロにできます。工場や倉庫、商業施設などで沈下が見つかっても機会損失がネックとなり、何年もほったらかしになるケースが多くあります。アップコン工法はそれを回避し、設備や荷物の移動を含めトータルコストを削減します。さらに、コンクリートを打ち替える既存工法に比べ、二酸化炭素(CO2)排出量を最大90%削減できます。
アップコン工法が現在採用されている分野を紹介します。工場、倉庫、店舗など民間事業が約6割で、住宅や事務所もこれに含まれます。残りが道路や港湾、学校、農業用水路トンネルなど公共事業です。公共事業はどんどん伸びています。両事業の割合は年によっても異なりますが、将来は5対5にしたいと考えています。創業から23年目を迎えましたが、調査・施工の実績は全国で3400件以上にもなっています。
強度に優れた独自材料を開発
-
ウレタンの発泡・硬化をデモンストレーションで分かりやすく紹介した
アップコン工法で使う硬質発泡ウレタン樹脂について、デモンストレーションを交えて解説していきます。
ウレタンはスポンジ、クッション、枕、ペンキ、マニキュアなどに日常で使われている材料です。開発されたのは第2次世界大戦中の1940年代であり、比較的新しい材料と言えます。ウレタンは建材として断熱材に使われています。断熱材は断熱性のみが求められますが、沈下修正に必要なのは強度です。そこで当社はコンクリートを持ち上げる発泡圧力や、硬化後に収縮しない圧縮強度などが最適になるように独自の材料を開発しました。
原料は「ポリオール」と「イソシアネート」という2種類の化合物です。液状の両化合物を計量して混合します。するとすぐに化学反応で発泡し、硬化します。コンクリートを持ち上げた後、地面が水平になるように制御する必要があります。温度など環境によっても発泡の状況は異なってきます。そこで一定時間に膨らむ大きさや膨らむ方向などの研究開発を積み重ね、施工時に高精度に制御することが可能な材料の開発に成功しています。
地震対策は地盤調査から
-
特別講演会には約80人が参加した
最後に皆さんの地域の「液状化危険度・沈下量」を紹介します。今、首都直下型地震の発生が懸念されています。神奈川では東京都心南部直下を震源とするマグニチュード7・3の「都心南部直下地震」の被害想定が国や自治体で検討されています。
その被害想定に基づいた液状化危険度を見ていきます。地盤は主に砂質土と粘性土があり、液状化は砂質土の地域で起こりやすくなります。埋め立て地や河川流域がそれに当てはまります。被害想定によると、川崎や横浜の臨海部の埋め立て地や多摩川流域で液状化危険度の「極めて高い」エリアが多く分布しています。
沈下量の被害想定でも「10センチ—30センチメートル」「10センチメートル以下」のエリアが臨海部や多摩川流域に集中しています。10センチメートルの沈下量は非常に大きく、業務の継続は困難になるでしょう。南海トラフ地震の被害想定でも同じようなエリアで危険度が高くなる傾向があります。
地震の発生確率を聞いて何をしたらいいかと思った時は、まず第一段階として家や事業所の床の傾きを調べてください。
床の傾きは簡単に調べられます。スマートフォンの傾斜測定アプリや水平器を使うほか、ビー玉を床に置くだけでも調べられます。当社では床の傾きに加え、コンクリートが波打つ原因となる床下の空隙や空洞を調査するサービスも提供しています。身近な方法で地盤を確認し、今後地震が起きても事業が継続できる体制をつくってほしいと思います。
本日はありがとうございました。


