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神奈川県特集
社会・地域課題解決に貢献 —産学金 ④—
神奈川工科大学/理工系人材の裾野拡大に重点
神奈川工科大学(KAIT)が次世代の理工系人材の育成に注力している。小中高生向けサイエンスイベント「KAITサイエンスサマー」では、科学の魅力や楽しさに触れられる機会を地域の子どもたちに提供。「女子学生のための神奈川テクノフューチャープログラム」を通じ、神奈川県内の女子中高生の理工系への進路選択も後押しする。多様な人材を理工系分野に引きつける取り組みを積み重ね、理工系人材の裾野拡大に貢献する。
科学の魅力 子どもに伝える
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神奈川工科大学 学長 井上 哲理 氏 -
小中高生向けのイベント「KAITサイエンスサマー」は、教員や学生がサイエンスショーやモノづくり工作体験、展示などを通じて科学の魅力や楽しさを伝える
神奈川工科大学は「科学技術立国に寄与するとともに、教育・研究を通じて地域社会との連携強化に努める」ことを建学の理念に掲げる。1963年の創立以来、産業界で活躍する人材を輩出し、地域社会に貢献する姿勢は一貫する。4月に就任した井上哲理学長は、「もちろん将来の選択肢として本学を選んでほしい思いはあるが、それよりも、まずは理工系に興味を持つ地域の若者を増やしたい」との思いを語る。
KAITサイエンスサマーは24年に初めて開いたイベントで、25年は8月8日に開催を予定する。同大学の教員や学生がサイエンスショーやモノづくり工作体験、展示などを小中高生向けに提供。流体力学の石綿良三名誉教授やメカ設計の門田和雄教授によるステージイベントは特に人気で、前回は会場いっぱいに親子連れなどが集まった。
前回はイベント全体で定員500人を超える参加申し込みがあったことから、今回は定員を700人に増やすなど規模を拡大する。また、「厚木市制70周年記念事業」を同時開催し、キャンパスを置く地元の同市と連携したイベントを用意する。例えば、あつぎ郷土博物館とのコラボレーション企画として、厚木市の歴史資料を学習したAI(人工知能)開発の取り組みなどを展示で紹介する予定だ。
参加は無料。井上学長は「子どもたちが楽しみながら科学技術を学べるように本学の教員たちも工夫している。ぜひ多くの子どもたちに体験してほしい」と参加を呼びかける。
女子中高生の理系進路選択を後押し
一方、今後の社会で求められる理工系女子を増やす取り組みも進めている。同大学は24年度、科学技術振興機構(JST)の「女子中高生の理系進路選択支援プログラム」に神奈川県内の大学として初めて採択。この採択を受けて取り組むのが「女子学生のための神奈川テクノフューチャープログラム」だ。
テクノフューチャープログラムでは、女子中高生が早期から科学技術に関心を持ち、理工系に進んだ場合のキャリアパスを具体的に描けるように支援している。大学教員が科学実験体験を女子中高生向けに提供するほか、理工系の女性社員が活躍する地域企業と連携した実習も提供している。また、女性教員が理工系選択に関する自分の経験もまじえた講演を女子中高生、その保護者向けに実施する。これにより、理工系の進路やその先の職業をイメージし、希望を持って理工系を選択できる意識環境づくりに取り組む。
井上学長は「中高の教員や生徒の家族も含めて理工系を選択することへの理解を深めたい。男女を含めた理科離れを防ぐ対策を考えるきっかけにもなる」と、取り組みの意義を強調している。
関東学院大学/産学官連携を先導 世界レベルの研究リード
関東学院大学は我が国の「産学共同」のルーツといえる存在だ。1946年に同大の前身である関東学院工業専門学校機械科に実習工場を設置。62年には世界に先駆けて、プラスチックへのめっきの工業化に成功した。同大の校訓である「人になれ、奉仕せよ」をモットーに、技術を公開するなど、先進的な技術を世界に広げてきた。同大の材料・表面工学研究所は独創性を持って産学官連携を先導し、世界レベルの研究をリードする。
プリント基板 半導体へ展開
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関東学院大学 特別栄誉教授 本間 英夫 氏
材料・表面工学研究所のめっき技術は、産業界の変遷とともに、重要な役割を果たしてきた。プラスチック上のめっきの工業化から始まった技術は、プリント基板の積層関連、半導体の成膜プロセスへと展開していった。例えば、めっきでつくられた半導体の回路は、髪の毛の太さの1000分の1以下と「ハイテクビル」といえるほどの高密度化・多層化となり、繊細なめっき技術が欠かせない。
また、めっき技術がなければ、スマートフォンなど現在の携帯電話の存在がなかったと言っても過言ではない。軽量化や小型化、カメラ付きなど携帯電話の高機能化に伴うプリント回路基板の仕様の推移では、材料・表面工学研究所のめっき技術が支えてきた。
材料・表面工学研究所の顧問を務める本間英夫特別栄誉教授は「めっきからスタートして、プリント基板、半導体に展開してきた。表面を処理するめっきにこだわってきたのは、高度な製品の展開が可能だからだ」と力を込める。
材料・表面工学研究所は技術供与企業約50社、二つの特許コンソーシアムとともに、産学連携を推進している。企業の課題に研究開発を踏まえ、特許を取得し、実用化・製品化する。本間特別栄誉教授は「コンソーシアムを形成することで、参加企業に技術を無償で公開できる」と強調する。
私大トップの知的財産権実績
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理工学部体験プログラムに参加した高校生はチタンの色の変化など実験を楽しんでいた
多くの特許が産業界で活用されている。文部科学省が発表した「2023年度大学等における産学連携等実施状況について」によると、関東学院大学は「知的財産権等収入」で全国14位(私大4位)、「特許権実施等件数」で全国7位(私大1位)と、私大トップの実績を上げている。
関東学院大学は23年4月、理工学部に表面工学コースを新設した。半導体などの精密機器の製造や技術革新を担う表面工学分野の人材を育成する狙いだ。また次世代の理系人材の育成につなげるため、高校生に理系への興味を喚起する「高大連携」に取り組んでいる。高校生を対象にした「理工学部体験プログラム」を実施。高校生が実際に実験を経験した。高校生の理系への進路選択につながることが期待される。
材料・表面工学研究所は最先端の技術に挑む。微小電気機械システム(MEMS)とめっき技術の融合による超電導エネルギー貯蔵装置の研究開発に取り組む。本間特別栄誉教授は「表面工学から材料・表面工学に領域を拡大。環境、医療、食品関連分野も研究テーマに広げてきた」と意欲を示す。
「これからはグローバル活動が重要だ」と本間特別栄誉教授。米国やドイツ、インド、韓国、タイなどの大学や研究機関と連携し、グローバル展開に乗り出す。世界トップレベルの表面処理技術を持つ材料・表面工学研究所の挑戦は続く。


