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神奈川県特集
中小と共創 企業と未来のかけはしとして —産学金 ①—
日本政策金融公庫/スマート農業技術普及に融資
Root(神奈川県南足柄市、岸圭介社長)は、農林水産省から支援を受け、拡張現実(AR)技術を用いた農作業補助アプリ「Agri—AR」を開発し、2024年4月にリリースした。日本政策金融公庫(日本公庫)横浜支店は同社にAgri—ARの供給に必要となる資金の融資を25年1月に実行し支援を進めた。24年10月のスマート農業技術活用促進法の施行に伴い創設された「スマート農業技術活用促進資金」を活用した第1号案件の融資となった。
農作業補助アプリ Rootが開発
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AR技術を活用した農作業補助アプリ「Agri—AR」のイメージ
Rootが開発したAgri—ARはスマートグラス等でも利用できるAR技術を活用した農作業補助アプリ。仮想の畝やビニールマルチをAR空間上に表示し、畝幅や株数を自動計算する機能など、圃場作業を効率化する全10機能以上を提供する。機械作業や畝立ての準備に要する労働時間を20%程度削減できるという。
Agri—ARは22年に21年度補正予算の「戦略的スマート農業技術等の開発・改良」に採択。農林水産省からの支援を受けて、開発に着手した。24年4月にサービスの提供を開始。各都道府県の農園や農業技術センターのほか、林業関係者などに導入。農業分野にとどまらず、広範な分野への普及が期待される。25年度末までに700台分を超える契約を見込む。岸社長は「Agri—ARの普及で農業の生産性を向上させていきたい」と力を込める。
①平行直線・外周算出②畝・苗シミュレーション③面積計測④距離計測⑤レベル計測⑥サイズ計測⑦体積計測⑧林業・移動速度⑨外部サービス連携(xarvio)⑩AI果樹熟度判定⑪空間マッピング⑫気象積算シミュレーターの全12機能を実装した。岸社長は「私自身が農業をやっている中で、欲しい機能を実装した」と強調する。
スマートフォンやスマートグラス双方で全12機能が2カ月更新で9900円(消費税込み)、1年更新で2万6400円(同)。安く、現実的な価格のサービスであることが特徴だ。これまでのスマート農業サービスは、農業機械などの設備投資を伴い、数百万円から1千万円程度かかるものも多かったという。
農業者向けに開発したアプリだが、すでに農業分野以外の実績が超えている。自治体や大学、高校のほか、大手建設会社や設計会社などで導入が進む。24年10月に英語版のサービスをリリース。東南アジアを中心に海外展開を加速する。フィリピン農業省に導入済みで、ベトナムやインドネシアなどで展開している。
岸社長は「認知していただくのが必要で、連携している会社と事業を進めることで、認知度をあげていきたい。農業に限らず、ニーズがあるところに挑戦してビジネスを拡大していきたい」と意欲を示す。
【コメント】 日本政策金融公庫 横浜支店 農林水産事業統轄 今井 荘倉 氏/安心と挑戦を支え共に未来を創る
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日本政策金融公庫 横浜支店 農林水産事業統轄 今井 荘倉 氏
日本の農業従事者の平均年齢は約67歳と、高齢化し担い手不足が深刻化している。日本公庫の使命は「政策金融の担い手として、安心と挑戦を支え、共に未来を創る。」だ。スマート農業技術活用促進法に基づく第1号の認定を受けたRootの挑戦を支援することで日本の農業を活性化する一助になればと思う。
我々は政策金融機関として、農業者をはじめスマート農業技術の開発や供給に取り組む事業者を支援していきたい。
横浜銀行/ソリューションビジネス深化・拡大
ハリマビステムにPIPEs投資
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顧客の企業価値向上に取り組む横浜キャピタル -
横浜銀行はグループの横浜キャピタル(横浜市西区)と共同で、上場企業向けの投資ファンド「Yokohama Bridge投資事業有限責任組合(Yokohama Bridgeファンド)」を設立し、ソリューションビジネスの深化・拡大に乗り出している。総合ビルメンテナンス業のハリマビステムに上場企業向け第三者割当増資「PIPEs投資」を実施した。Yokohama BridgeファンドによるPIPEs投資案件として第1号となる。
横浜銀行と横浜キャピタルが共同設立したYokohama Bridgeファンドは総額20億円。運用期間は10年で、7、8件の投資を見込む。主に横浜銀行グループの営業エリアである東京都や神奈川県の上場企業を対象に、第三者割当増資を引き受けるとともに経営を支援する。従来の融資による支援では調達した資金は企業のバランスシート上、負債として計上されるが、同ファンドによる投資は転換行使後に資本へ組み込まれる。「ハンズオン支援」と成長資金の投入により、企業価値向上の実現を目指す。
東京証券取引所(東証)による株価純資産倍率(PBR)1倍割れ改善の要請や、アクティビスト(物を言う株主)ら機関投資家への対応など、上場企業における企業価値向上に向けた支援ニーズは高まっている。同ファンドはイニシャルフィー(初期報酬)でコンサルティング対価を得るのではなく、対象企業主導の中長期的な成長にコミットした経営支援により企業価値(=株価)を向上させることで、結果としてリターンを得るモデルだ。
一方、第三者割当増資では既存株主の株式の希薄化が懸念されるが、PIPEs投資は、協業による成長への期待や収益性の向上による株価上昇につながる効果が見込める。
横浜キャピタル戦略投資第3部の大木翔太朗ディレクターは「横浜銀行グループの営業拠点に所在する上場企業の企業価値向上をしっかりと支援していきたい。金融面だけではなく、事業面を含めたトータルでサポートしていきたい」と力を込める。
ハリマビステムは2024年5月に「長期ビジョン 2026-2035」を策定。「周囲から『ハリマで良かった!』が聞こえてくる未来」の実現に向け「事業エリア拡大」「新規事業開拓」「海外事業展開」「積極的なM&A(合併・買収)実施」—の4施策で「挑戦領域」という新たなステージへの到達を目指している。経営陣と協創した成長戦略に基づき、ハリマビステムの長期ビジョンの実現に向けた収益性改善や営業活動強化、KPI(重要業績評価指標)設計や組織見直しなど経営基盤強化を後押ししていく。
こうした上場企業向けソリューションの提供は地方銀行では初となる。横浜銀行営業戦略部法人戦略企画グループの井手愼吾グループ長は「地銀をリードするようなPIPEs投資を実施するためには、コンサルティングができるような人材を増やしていかなければならない」と意気込む。
中長期的には他の地方銀行グループと連携し、他地域の上場企業へのPIPEs投資の実行を目指す。地域の上場企業の企業価値を向上させ、地域経済を活性化させる取り組みを加速させる。
商工中金/人財サービス子会社設立 中小の課題解決
商工中金はパーパス「企業の未来を支えていく。日本を変化につよくする。」の実現に向け、2024年11月に100%出資による人財サービス子会社、商工中金ヒューマンデザイン(東京都中央区、松下泰之社長)を設立した。人手不足が深刻化し、採用難や離職の増加など、中小企業を取り巻く経営環境は厳しさを増す。専門子会社を設立することで、こうした中小企業が抱える人材確保・人材育成に関する課題を解決する狙いだ。
従業員の幸福度を可視化
商工中金ヒューマンデザインは①従業員の幸福度を可視化する「幸せデザインサーベイ」②人材育成プログラム③「経営人財」の紹介—を3本柱に事業を展開する。
幸せデザインサーベイは、従業員アンケートを基に「幸せ指数」を測定し、データ分析した上で還元する。18年の商工中金第1回ビジネスコンテストから生まれ、20年に新事業として開始。すでに約1300社で実施している。
同社はサーベイ実施後の取り組みとして、ワークショップや研修の実施など、人材育成プログラムに力を入れる。企業風土の変革を目指すボトムアップでのアクションプランの策定や、従業員が自律的に考え行動できるようにする「マイパーパス」の策定などを支援する。松下社長は「中小企業の皆さまが組織風土を改善し、従業員が幸せに働けるようにつながっていければ」と話す。
25年4月に人材紹介事業をスタート。主に中小企業の「経営人財」ポジションの人材を提供する。部長から役員、社長の後継者候補らマネジメントにたけた人材を紹介する。年齢は45—60歳がボリュームゾーンとなっている。人材紹介手数料は成功報酬型で、採用決定人材の理論年収の35%(税別)。
松下社長は「商工中金グループとして、中小企業の皆さまの人に関する課題を解決していきたい」と力を込める。組織や人材に関する課題を可視化し、人材育成や人材紹介を通じて支える。


