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神奈川県特集
かながわの技術で未来をつくる
神奈川県内で先進的な技術開発や未来型の取り組みが活発に進んでいる。モノづくり分野の産業基盤に加え、企業の研究開発拠点や学術機関が集積するのが神奈川の強み。これを生かして宇宙や航空、ロボットなど将来の成長分野の産業集積が期待されており、自治体では関係者の連携を促進して地域企業の成長分野への参入を後押しする取り組みに着手する。成長産業の振興を通じ、地域の魅力向上にも結びつける。
研究開発拠点 県内に集積
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「神奈川宇宙サミット(仮称)」へ実行委員会が6月に県庁で初会合
神奈川県は宇宙関連産業の創出・支援に乗り出す。人工衛星分野などへの県内企業の参入促進に向け、宇宙関連企業の交流拠点を開設する。
県は2025年度当初予算で「宇宙関連産業クラスターの形成強化」に計1億4488万円を計上。そのうち、「宇宙関連企業交流拠点事業費」が7026万円で、宇宙分野への参入を目指す企業と既存の宇宙関連企業との共創の場を年度内に整備する。交流拠点の開設場所は未定だが、コワーキングスペースに簡易な作業スペースなどを併設した拠点の整備を想定する。
このほか、人工衛星データを活用した新ビジネスへの助成制度や、国内で最大規模の宇宙関連のビジネスカンファレンス「神奈川宇宙サミット」(仮称)の開催を通じ、宇宙産業の育成を図る。
県が宇宙産業振興に本格的な予算を計上したのは初めて。その背景には国内の民間企業が宇宙分野に参入しやすい環境整備の進展がある。政府は23年に宇宙基本計画を改定し、宇宙関連産業の市場規模を20年の約4兆円から30年代早期に2倍の8兆円に引き上げることを目指す。また民間事業者が行う宇宙分野の先端技術開発や実証、商業化に向けて資金提供する宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「宇宙戦略基金」も創設。これを受け、神奈川県内企業も宇宙分野に高い関心を示す。
県内にはJAXA相模原キャンパス(相模原市中央区)など宇宙分野の研究機関が立地する。横浜市や川崎市を中心にロケットエンジンや衛星関連の部品・システムの開発を手がける企業が集積。さらに、精密金属加工や電機・電子制御など独自のモノづくり技術に強みを持つ地域企業も宇宙・航空分野のキープレーヤーとなることが期待される。
宇宙・航空、参入チャンス拡大
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人工衛星搭載機器の試験評価などに使われる菊水電子工業の直流電源「PWR-01」シリーズ
宇宙・航空産業は製品の安全性や信頼性などに高い品質が求められており、県内企業はそうした要求に応える独自技術で同分野の研究開発を支える。
例えば菊水電子工業は宇宙・航空産業市場のニーズに対応した直流電源の製品群を提供している。人工衛星の内部電源は太陽光パネルやバッテリーから供給された電力を利用し数十―数百ボルトの直流で制御している。このため人工衛星に搭載される機器も直流で駆動する。そこで同社の直流電源「PWXシリーズ」や「PWR—01シリーズ」が人工衛星搭載機器の評価試験に活用されている。また、太陽光パネルの電圧を12ボルトや28ボルトなどに変換する「DC/DCコンバータ」のエージング試験などにも、出力の安定度が高く、電圧の可変もできる同社の直流電源が数多く使われている。
ロボット特区・リニア新駅で地域の魅力向上
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リニア中央新幹線神奈川県駅(仮)の建設工事現場
全国の自治体でも宇宙関連産業の振興策は議論されている。そうした中、神奈川県では県央地域を中心とした「さがみロボット産業特区」との連携が特徴の一つとなりそうだ。同特区では生活支援ロボットなどの研究開発が活発に進む。実証実験に取り組みやすい環境も整う。24年度には特区内の橋本駅(相模原市緑区)と藤沢駅(藤沢市)の周辺2箇所に「ロボット企業交流拠点」が開設され、ロボット関連企業同士の連携を促進する取り組みも進む。今後はロボットと宇宙を結びつけた成長分野の産業集積が期待される。
また、橋本駅付近にはリニア中央新幹線の神奈川県駅(仮称)が建設中で、将来の駅周辺のまちづくりのテーマに宇宙やロボットを活用できる可能性もある。4月に宇宙飛行士の野口聡一氏と意見交換した黒岩祐治知事は「駅を降りた瞬間に宇宙の生活が体感できるまちにしたい」との構想を述べ、最先端テクノロジーを感じられるまちづくりに意欲を示した。
すでにJR東海ではリニア新駅建設地にイノベーション創出促進拠点「FUN+TECH LABO」を開設し、地域企業やスタートアップの交流を促進する。新駅建設地を活用し、県や相模原市、企業と連携して一般市民向け集客イベントを開くなど多様な取り組みも展開。同イベントでは自動運転など最新技術を紹介した。多くの人や企業を引きつける取り組みを積み重ね、新ビジネスが創出される場として地域の魅力を高めていく。
【メッセージ】 神奈川県知事 黒岩 祐治 氏/ロボットと宇宙による成長産業の集積に取り組む
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神奈川県知事 黒岩 祐治 氏
長引く原油・原材料価格の高騰、深刻な人手不足や賃上げといった課題に加え、直近では、米国による関税措置が基幹の自動車産業を中心に県内経済に深刻な影響を及ぼす可能性があり、本県の地域経済や雇用を取り巻く環境は大変厳しい状況にあります。
こうした中、県では、厳しい経営環境にある中小企業に対して、設備導入等による生産性向上の支援や、従業員のリスキリング支援、人手不足業種の企業を対象としたセミナーや面接会の開催、外国人材確保への支援などに取り組んでいます。
また、電気自動車の普及などに伴う産業構造の転換に対応しようとする自動車関連企業に対して、新たな成長市場への参入を促す取り組みを進めています。
国では現在、東京・名古屋・大阪の三大都市圏を一つの圏域とする「日本中央回廊」を形成するリニア中央新幹線の整備が進められており、神奈川県においては、相模原市の橋本駅付近に神奈川県駅(仮称)が開業する予定です。
神奈川県駅は、生活支援ロボットの実用化や普及を推進する「さがみロボット産業特区」内に位置しています。また、近隣にはJAXA相模原が立地していることから、県内には多くの宇宙関連企業が集積しています。
こうした強みを活かして、神奈川県駅を「行ってみたい」「また来たい」と感じていただけるような「降りたくなる駅」にしていきたいと考えています。
そこで、県では、橋本駅近くに設置した北のロボット企業交流拠点「FUN+TECH LABO」や、藤沢駅近くに設置した南のロボット企業交流拠点「ロボリンク」において、ロボット企業や部品製造企業等との交流会やビジネスマッチングなどを実施し、中小企業のロボット産業への参入を促していきます。
また、宇宙に関する取り組みにおいては、今年度、宇宙関連企業等と新たに宇宙関連産業に参入しようとする県内企業が共創等を図るための拠点を新たに県内に整備するほか、首都圏では初めてとなる「神奈川宇宙サミット」を今年度後半に開催したいと考えています。
こうした取り組みを、企業誘致施策「セレクト神奈川NEXT」等によって後押しすることで、ロボット産業や宇宙産業による成長産業の集積を図り、県経済の活性化につなげてまいります。


