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埼玉県特集
産業立地 街づくりと生産活動の拠点へ
埼玉県では、地域の活性化と県土の均衡ある発展を図るため、産業団地を整備を積極的に進めている。産業基盤を整備して企業を誘致することは、雇用の創出と地域活性化につながり、県経済の持続成長に大きく寄与する。埼玉県企業局公営企業管理者の板東博之氏と、埼玉県を中心とした首都圏で産業団地の開発や仲介を手がける大栄不動産社長の石村等氏に、産業団地の現状と将来像を聞いた。
埼玉県企業局 公営企業管理者 板東 博之 氏/産業団地、ビジネスモデル転換へ
—産業団地の分譲状況を教えてください。
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埼玉県企業局 公営企業管理者 板東 博之 氏
「埼玉県は首都圏の大消費地で、交通の便に優れ企業からの立地ニーズが高い。足元では米トランプ政権の関税措置の影響により先行き不透明感が増しているが、現時点では分譲状況に大きな影響は出ていない。今後は遅れて影響が出る可能性もあるので注視している。一方『金利のある世界』に戻ったことで企業の経営環境は大きく変わっただろう。分譲が内定していた企業が撤退するケースも複数発生しており、再分譲を開始した産業団地もある」
造成コスト上昇 採算性確保 喫緊の課題
—造成費などのコストが上昇している影響は。
「当局は農地を不動産の評価額で購入して、造成後に再評価の上で販売。その差額を造成経費に充てるというビジネスモデルをとっている。近年は労務費や資材費の高騰により、造成コストがかなり上昇している。その一方で地価はそれほど上がってないので売却価格に転嫁できない部分が多く、採算性の確保が喫緊の課題となっている。県経済のさらなる発展のためには新たな産業団地を造成するための資産を形成する必要があるため、これまでのビジネスモデルを変えなければならない」
—対応策は。
「これまで県が一括で整備していた産業団地内の道路や公園などのインフラについて、今後は地元の自治体に整備費用の一部を負担していただくことを検討している。地元の声を聞きながら、ニーズに沿ったインフラを整備する。また、企業側の意向により高値で土地が売れる場合は評価額以上の価格で売却して収支の改善を図る。地域の実情と企業ニーズを踏まえて決める必要がある」
—採算性を確保するための新たなスキームはいつから導入しますか。
「すでに事業に着手している産業団地は従来型のスキームで進めるが、今後新たに開発を始める団地では新スキームの導入を検討している。採算確保が厳しい地域から導入していくことになるだろう」
—今後募集予定の団地について、具体的な状況を教えてください。
「久喜高柳(久喜市)、吉見大和田(吉見町)、美里甘粕(美里町)の3カ所。久喜高柳は25年度中に募集を開始し、引き渡しも25年度を予定している。分譲面積は約15・8ヘクタール。吉見大和田は26年度の引き渡しを予定し、分譲面積は約13・6ヘクタール。美里甘粕は27年度引き渡し予定で分譲面積は約6ヘクタール。いずれの産業団地も高速道路のインターチェンジ(IC)が近く好立地で、企業からのニーズが高いだろう」
大栄不動産 社長 石村 等 氏/米の関税政策、金利への影響懸念
—米国の関税政策が世界の経済に与える影響をどう見ますか。
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大栄不動産 社長 石村 等 氏
「歴史に学ぶ必要がある。世界恐慌は1929年頃から始まり、高関税施策となるスムート・ホーリー法案に当時のフーバー大統領が署名したことが、保護貿易を引き起こした。ブロック経済が推し進められた結果、恐慌が深刻化して、第二次世界大戦の遠因になったとの説もある。歴史をひもとけば、トランプ大統領ももう少し冷静な判断ができたのではないか」
—不動産市況へのインパクトは。
「金利の影響を懸念している。国内大手不動産会社は兆円規模の有利子負債を持つ。金利の変動により100億円単位で利払いも膨らむ。住宅ローンも金利によっては住宅市場に影響を及ぼす。報復関税の結果、物価高が加速して、コストプッシュ型のインフレにつながることを懸念する」
県内の街づくり・産業立地に貢献
—埼玉県内の産業団地の状況は。
「埼玉県企業局の事業規模の推移を見ると、開発用地に余力があった1960年代から70年代前半に比べると、現在は5分の1程度に激減している。ニーズがありながらも土地不足という課題があることを認識する必要がある。一方で民間の土地区画整理事業は開発面積も大きい」
—具体的には。
「2020年以降で一番大きいのが、当社が現在事業者となって進めている『坂戸インターチェンジ地区土地区画整理事業』だ。地区面積は約47万4000平方メートル。今年1月に市街化区域に編入され、事業施行が認可された。ビオトープも整備して自然環境と調和した開発を進める。経済効果は637億円という試算も出ている。企業進出により地方税の増収や雇用創出も期待できる」
—他には。
「県内製造業が県内の別の場所に工場を移転したり、機能拡張したりする事例は、県主導で進んでおり、当社が支援した事例も多い。一方で課題もある。埼玉県は地下水採取規制地域が多く、立地面での優位性はあるものの、水を大量に使う食品関係の工場進出にはやや劣後する側面もある。農地転用や建設コスト高騰の問題もある。外部環境の変化についても強い課題意識を持つ必要がある」
—大栄不動産の埼玉県内での取り組みは。
「さいたま市大宮区の複合施設『大宮門街』の店舗リニューアルでは、経済合理性をすべての判断基準には置かず、デベロッパーとして回遊性と利便性とにぎわいの創出を重視して出店者を決めた。また5月31日に川口駅前にオープンする『ららテラス川口』の再開発ビルは、当社も所有権を持つ。94の専門店が集積する商業施設で、埼玉県初出店もある。当社は県内に24棟のビルを所有する。総計貸室面積は6万6778平方メートルで稼働率は99%。昨年閉店した所沢市の新所沢パルコ跡地の再開発に当社も参画しており、引き続き埼玉県内の街づくりや産業立地に貢献していきたい」