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埼玉県特集
大野 元裕 埼玉県知事に聞く
イノベーション創出、持続成長へ 共創拠点「渋沢MIX」7月開業
埼玉県が中小企業の成長支援に本腰を入れている。原材料高に苦しむ企業を支援するため、価格転嫁を推進する各種ツールを開発した。全国でも先進的な取り組みとなり“埼玉モデル”として県内外への普及を図っている。また深刻な労働力不足に対応しようと、業務効率化などに向けてデジタル変革(DX)を強力に推し進めている。さらに今後、イノベーション創出拠点、ロボット開発拠点をそれぞれ開設し、新規産業への挑戦も徹底サポートする構えだ。強い埼玉県経済を構築しようと奮闘する大野元裕知事に、現状と今後の取り組みを聞いた。
価格転嫁支援でツール開発/“埼玉モデル”内外に普及
強い経済構築
—県内産業界の現況は。
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埼玉県知事 大野 元裕 氏
「最新の四半期経営動向調査では、県内の中小企業は持ち直しの動きが見られている。一方、エネルギー・原材料価格の高騰などにより依然として先行きの不透明感がある。また県内企業を対象に、米国による関税政策が自社の経営に与える影響についての緊急調査を4月に実施したところ、受注先の競争力低下による受注量の減少や、値下げ要請などによる利益率の低下、価格転嫁の停滞などを不安視する声が聞かれた」
「埼玉県の自動車産業を中心とした輸送用機械器具の製造品出荷額は2兆6000億円と、全業種で1位。もしこの業界にマイナスの影響があれば県内経済にも非常に大きな影響が出るだろう。中小企業にしわ寄せが来ることも考えられるため、状況改善に向けてネジを巻き直す。県内企業の約99%を占める中小企業の成長を後押しすることが、県経済の活性化につながるためしっかり支援する。経済団体や金融機関などで構成する『強い経済の構築に向けた埼玉県戦略会議』で状況を的確に把握しながら、必要となる措置・支援を躊躇なく実施する考えだ」
—困難な状況に対応するには値上げ・価格転嫁が求められます。
「県が提供している『価格交渉支援ツール』と『収支計画シミュレーター』を軸に価格転嫁しやすい環境を整える。銀行や信用金庫の行員が取引先企業に価格転嫁に関する情報提供などを行う『価格転嫁サポーター制度』を通じて価格転嫁の支援情報を届け、利用を呼びかける。現時点で17金融機関の約4400人が価格転嫁サポーターとして活躍している」
「ただサプライチェーン(部品供給網)は埼玉県内だけで完結しないため、日本全国で価格転嫁に取り組まなければならない。そこで県は9都県市が連携した検討会を設置した。価格転嫁の取り組みを共有し、さらなる推進に向けて議論を重ねる」
中小のDX推進 きめ細かく支援
—中小企業のDX推進を重視しています。
「人口減少・少子高齢化が急速に進み、人手不足に悩む中小企業が多い。(生産性を高め業務効率化を図るためには)DXに取り組む必要がある。県や経済団体、金融機関などで構成する『埼玉県DX推進支援ネットワーク』を21年に立ち上げ、ワンチームで支援している。専任の相談員であるDXコンシェルジュが、中小企業のデジタル化のステージに応じたきめ細かい支援を行っている。さらにデジタル化やDXを支援する企業を『埼玉DXパートナー』として登録し、中小企業とのマッチングを行っている」
「中小企業がDXを進めるためには、経営トップの理解とリーダーシップが非常に重要だ。そこで各業界団体や支援機関と連携し、経営者層を対象としたDX推進講座を実施している。このほか優れたDX事例を表彰する『埼玉DX大賞』を開催している。メディアに取り上げられ、プロモーション効果もある。ぜひ多くの企業に挑戦してほしい」
循環経済を推進
—サーキュラーエコノミー(循環経済)を推進しています。
「現在コストを要している廃棄物処理の負担を軽減しつつ、それ自体を商売として収益化していくことが重要だ。こうした取り組みを行う企業同士をマッチングすることで、既存の経済の枠組みの中で利益を上げることが可能となる。埼玉県は生産と消費の両面を併せ持つ地域であり、サーキュラーエコノミーに適した土壌がある。『サーキュラーエコノミー推進センター埼玉』を通じて、県内企業からの相談対応やマッチング、リーディングモデルの構築などを進めていく。企業などにサーキュラーエコノミーの価値を周知し、消費者の購買意欲を促しながら新たなビジネスチャンスの創出に向けて取り組む」
ロボット技術・ノウハウ蓄積/開発拠点 27年度開所 渋沢MIXとも連携
—埼玉県初のイノベーション創出拠点「渋沢MIX(ミックス)」が7月開業します。
「埼玉県出身で近代の日本経済を築いた渋沢栄一翁は、人や企業をマッチングすることで企業を成長に導いた。これに倣い、人々が出会い、共創して新たなイノベーションが生まれる拠点としたい。例えば学生には、在学中から起業に必要なスキルを身につけてもらう機会を提供したい。またイベントやセミナーも日常的に開催する計画だ。多様なステークホルダーが訪れ、交わることのできるハブでありたい。そしてこのハブを起点に、国内外へとつながる『ハブ・アンド・スポーク』として機能させていく」
—2027年度にはロボット開発拠点『SAITAMAロボティクスセンター(仮称)』を開所する計画です。
「市場拡大が見込まれるサービスロボット分野への県内中小企業の参入を支援する。さまざまな技術・ノウハウを蓄積することで、新たなビジネスチャンスを生み出したい。『圏央鶴ヶ島インターチェンジ』に隣接し、首都圏や全国への交通アクセスに優れるため、多様な企業などが集まるハブとなる。渋沢MIXとも連携し、イノベーションを生み出したい」
中堅企業を支援
—政府は「中堅企業成長ビジョン」を策定し中堅企業の支援を国家戦略に位置付けています。中堅企業支援の方向性を教えてください。
「中堅企業は地域経済を支える中核的な存在で、経営の高度化や商圏の拡大を通じてさらなる成長が期待できる企業群と認識している。中堅企業が地域経済の牽引(けんいん)役として力を発揮することで、県内の中小企業にも(技術連携や取引機会の拡大などで)波及効果が生まれ、地域全体の産業活性化につながるだろう。中堅企業へのヒアリングを重ねながら、県が保有するアセットと国が示す中堅企業支援策を組み合わせて、効果的に支援していく方針だ。また、サーキュラーエコノミーに取り組む中堅企業も多いため、こうした分野で中小企業と連携・マッチングを図っていきたい」