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にっぽんプラスX
「環境」進展も「社会」道半ば
目標期限 あと5年
持続可能な開発目標(SDGs)のゴールである2030年末まで残り5年。国内では気候変動対策や再生可能エネルギーの導入など、17分野の「環境」で進展がみられる。「社会」は”まだら模様”であり、働き方改革で新たな課題が浮上した。日本の経済力を保つために外国人労働者の受け入れ環境の整備も課題あり「ジェンダー平等(性別による格差解消)」も強力な推進が求められる。
気候変動対策/温室ガス46%減 達成順調
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政府は温室ガス排出量を40年度に73%削減する新目標を閣議決定し、国連に提出した
SDGsの17分野で深刻度が増しているのが、ゴール13の「気候変動対策」だ。世界気象機関によると、24年の世界の平均気温が産業革命前よりも1・55度C高かった。気候変動による深刻な被害を避けるため、世界各国は気温上昇を1・5度C未満に抑える目標を共有している。だが単年ながら1・5度を超えてしまった。
気候変動を裏付けるように、自然災害が猛威を振るう。国際人道支援団体のクリスチャン・エイドによると、24年に米国で発生した暴風雨46件の合計被害額は600億ドル(約9兆円以上)以上、10月に米国に上陸したハリケーン・ミルトンも600億ドル、9月に発生した超大型台風11号(ヤギ)は東南アジアに126億ドルと甚大な被害をもたらした。
気候変動の進行を止めようと、日本は温暖化対策に取り組んできた。環境省によると22年度の国内の温室効果ガス(GHG)排出量は11億3500万トン。森林吸収量の5020万トンを引くと13年度比22・9%減となっている。政府は30年度の目標である同46%減の達成に向けて順調としている。
政府は2月18日、35年度に同60%、40年度に73%を削減する新しい目標を閣議決定し、国連に提出した。浅尾慶一郎環境相は「大幅削減に資する革新的なイノベーションの実装が必要であり、極めて野心的と考えている」と、厳しい目標であるとの認識を示した。
ゴール13にとって25年は重要な年となる。世界の科学者が協力して温暖化の影響を分析する気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、深刻な被害を回避するために25年に世界全体の排出量を減少に転じさせる必要があるとしている。国際社会の結束が求められる局面だが、「気候変動はでっちあげ」と豪語する米トランプ政権が誕生した。ゴール13達成に向けて正念場を迎えた。
再生エネ導入/太陽電池・洋上風力
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再生エネの主力電源化に向けて期待がかかる洋上風力発電(長崎県・五島列島沖)
ゴール7の再生可能エネルギーの導入も着実に進んだ。経済産業省・資源エネルギー庁によると、23年度の電源に占める再生エネ比率は22・9%だった。13年度に比べて12ポイント上昇した。
2月18日に閣議決定した第7次エネルギー基本計画では、再生エネの最大限活用による主力電源化を掲げた。23年度の電源構成では火力発電が68・6%と最大だが、40年度には再生エネを4-5割に引き上げて最大とする。
政府は新技術の「ペロブスカイト太陽電池」と洋上風力発電に期待する。ペロブスカイト太陽電池は軽くて柔らかく、ビル壁面など新たな用途を開拓できる。福岡ドーム(みずほPayPayドーム福岡)の円形屋根への搭載計画もある。政府は25年度を”ペロブスカイト太陽電池・元年”に位置付けており、積水化学工業が事業化予定だ。
洋上風力発電は25年から大規模化が始める。九電みらいエナジー(福岡市中央区)やJパワーなどのグループが25年度中に、北九州市で洋上風力発電所の運転を始める。稼働する風車は25基、合計出力は22万キロワットと、国内最大の洋上風力発電所となる。
普及と並行してコストダウンも進める。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、グリーンイノベーション(GI)基金事業として、浮体式洋上風力発電のコスト低減を支援している。海上に風車を浮かせる浮体式は、浅瀬が少ない日本での洋上風力発電に向く。
NEDOは2月13日、共通基盤開発に浮体式洋上風力技術研究組合(FLOWRA)を採択した。FLOWRAにはNTTアノードエナジーや大手電力などが参画し、浮体式風力発電の低コスト化を目指して活動している。
人間らしい働き方/業務負担 公平さ議論
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働き方改革で新たな課題が浮上した(イメージ、ブルームバーグ)
ゴール8の「人間らしい働き方」も日本社会において注目され、進展した分野だ。長時間労働が社会問題化し、産業界でデジタルツールを活用した生産性向上に取り組んできた。また、運輸業に対する時間外労働の上限設定など、規制も導入された。
だた、直近では「公平な働き方」が課題として浮上した。男性育休が珍しくなくなったが、職場に取得者がいると同僚に業務のしわ寄せがいく弊害が生じている。また、子育て中の女性社員が定時退社すると、残業した社員に負担が集中するなど、”不公平さ”が見られるようになったためだ。
是正しようとグローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ、644社・団体)は、公平な働き方を推進する宣言書への署名を募った。1月下旬までに積水ハウスやMS&ADインシュアランスグループホールディングスなど24社が署名し、そのうち17社の経営トップが集まって公平な働き方の実現に向けて議論した。GCNJの本島なおみ理事は「今後、GCNJでは1社1社の課題や取り組みをウェブに掲載する。また、宣言社数を24社からもっと広げていきたい」と活動を広げていく方針だ。
外国人労働者/育成就労で転籍可能に
ゴール8、ゴール10に共通するのが外国人労働者の問題。厚生労働省によると24年10月時点で国内で働く外国人は230万人と過去最高だった。外国人労働者は人手不足を補う貴重な戦力だが、課題もある。24年12月のシンポジウムで国際協力機構(JICA)の田中明彦理事長は「日本は給与水準が低い。人手不足の韓国、さらに将来、中国とも人材の争奪戦になると不利になる」と懸念を表明した。
27年には、現行の技能実習制度が廃止され、新設の「育成就労制度」に移行する。外国人も転籍しやすくなるため、働きがいのない職場は選ばれなくなる。
田中理事長は「意欲のある外国人材がキャリアアップできる、夢を持って働ける日本を作ることが大事だ」と強調した。
ジェンダー/性差解消 国際規格で手引き
ゴール5のジェンダー平等は、大きな課題を残したままだ。世界経済フォーラムが6月に発表した24年のジェンダーギャップ指数で日本は146カ国中118位だった。海外からみると女性リーダーの不在が著しい。
24年には、ジェンダー平等の国際規格「ISO53800」が発行された。企業や行政などの組織が性別による格差解消を推進する”手引書”となっており、期待される行動や施策115点を提示している。日本規格協会の山﨑朋子課長は「職場の意識向上、離職率の低下、人材獲得、新しい市場開拓につなげてほしい」と期待する。