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産業基盤の次代支える
脱炭素・インフラ照準
大手商社が再生可能エネルギーや金属資源の大規模開発など次代の産業基盤を支える事業で攻勢をかける。米国ではデータセンター(DC)の増設に伴い拡大する電力需要に脱炭素電源で応えるほか、新興国には鉄鉱石の供給を拡大して旺盛なインフラ需要を取り込む。足元ではトランプ米政権の化石燃料回帰や中国景気の失速など事業環境に不透明感が漂うが、中長期の産業トレンドに狙いを定めて持続的な成長を後押しする。
伊藤忠/北米に再生エネ事業群 国内も強化
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三井物産は約8000億円を投じて豪州の鉄鉱石鉱山の権益を取得する(イメージ)
伊藤忠商事は北米で、再生エネ発電所の土地選定から建設、運転・保守までを一気通貫で手がける事業群を形成し、脱炭素需要を取り込む。2022年に米国に設立した再エネ開発のティア・エナジー・デベロップメント・リニューアブルズ(TED)は現在、合計約500万キロワットに上る約33件の太陽光発電開発を推進中だ。
1月には、米ノースダコタ州で25年末に商業運転の開始を予定するボウマン風力発電所に対し、伊藤忠が出資を決めた。10万世帯分の消費量に相当する20万8000キロワットの発電容量を有し、大学や医療機関など8者との売電契約を通じて安定的な収益を見込む。
さらに伊藤忠が再生エネの供給先として注目するのが、AI(人工知能)の普及に伴い増設が進むDCだ。米ローレンス・バークレー国立研究所(LBNL)によると、米国のDCの電力需要は28年までに現状比で最大約3倍に増加し、同国電力の12%を消費する見通し。
また国土の広大な米国では送電網が未整備の地域が少なくないため、DCの建設地となるへき地では地産地消型の再生エネが有効だ。「風況に恵まれる地域もあるので再生エネ(の普及)は進んでいく」(伊藤忠の石井敬太社長)とみる。
足元では化石燃料開発に力を入れるトランプ政権の施策が注視されるが、再生エネ支援策はトランプ氏が属する共和党の基盤州も恩恵を受けており、縮小が限定されるとの見方が有力だ。またDCを運営するハイテク大手による脱炭素電力の旺盛な調達需要も、再生エネ開発には追い風となる。
伊藤忠は引き続き再生エネ開発を推進し、北米電力事業の利益を将来的に23年度比8割増の300億円超へと引き上げる方針だ。
伊藤忠は国内でも再生エネ事業を強化している。発電量の不安定な再生エネの需給調整を担う蓄電池も活用し、地産地消型の電力ビジネスに注力する。
24年には全国農業協同組合連合会(JA全農)と連携し、需要家間で電力を直接売買する取引「ピア・ツー・ピア(P2P)」サービスを前橋市などで開始した。AIによる電力需給予測やブロックチェーン(分散型台帳)技術と、JA全農のスーパーマーケットや加盟農家に設置された太陽光パネル・蓄電設備を接続し、余剰電力を売買できる。
また家庭の屋根置き太陽光に対しては、発電効率を向上できる米エンフェーズ・エナジー製の小型インバーター(電力変換装置)の販売に乗り出した。太陽光パネルを1枚ずつ制御するため日照の少ない屋根でも効率的な発電が可能で、既存の家庭用蓄電池の販売事業と相乗効果を狙う。4月に新築住宅への太陽光発電システムの設置が義務化される東京都を皮切りに、25年度中にも全国展開する。
東京都とは電力系統用の蓄電所に投資するファンドの本格的な運用を始めた。「発電した電力をためるシステムを作らないと、再生エネ発電所をいくら設置しても足りない」(伊藤忠の石井社長)とし、再生エネと蓄電池の一体展開で脱炭素社会への移行を推進する。
三井物産/豪から鉄鉱石供給
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三菱商事はライフサイエンス企業が入居する湘南アイパークとDCの間で大容量の創薬データを伝送する実証を始めた
三井物産は53億4200万ドル(約8000億円)を投じ、豪州の鉄鉱石鉱山ローズリッジの権益を40%取得することを決めた。資源量は68億トンと未開発鉄鉱床では世界最大級の規模があり、30年までに生産開始を予定する。三井物産の持分生産量は初期段階で年間約1600万トン、50年までに同4000万トン以上に達する見込みだ。
同鉱山は三井物産が手がける豪州の別の鉱山に近接し、鉄道や港湾などの既存インフラを活用できるため開発コストを抑えられる。50%の権益を持つ英豪資源大手リオ・ティントと連携して日本を含むアジア圏への供給を予定する。
足元では中国経済の低迷で鉄鉱石市況が悪化しているものの、高い経済成長が続くインドや東南アジアではインフラ開発などによる需要増が見込まれている。
また鉄スクラップを原料に使う電炉利用の拡大が予測されるが、電炉でも高品位鋼材の生産には引き続き鉄鉱石が必要なため「長期の鉄鉱石需要は堅調に推移する」(三井物産の堀健一社長)とみて開発を推進する。
製鉄工程の低炭素化への貢献も視野に入れる。現時点では二酸化炭素(CO2)排出量を抑えられる直接還元の手法にローズリッチの中品位鉱は適さないが、技術開発の進展により流通量の多い中品位鉱への適用が進むと想定する。
三井物産はオマーンで還元鉄事業の検討を進めているほか、インドの金属リサイクル大手MTCを持分法適用会社にした。事業間での相乗効果も狙いながらアジアの長期的な経済成長ニーズに応える。
三菱商事/国内外でDC運営
三菱商事は幅広い産業接点を生かし、デジタル社会の重要インフラとなるDC事業を拡充する。NTTなどとは、三菱商事グループが運営する千葉県印西市のDCの計算基盤を創薬向けに遠隔提供する実証実験を開始した。
NTTの次世代光通信基盤「IOWN(アイオン)」を活用し、三菱商事が出資参画するライフサイエンス産業の集積拠点「湘南ヘルスイノベーションパーク(湘南アイパーク)」(神奈川県藤沢市)から創薬データをDCに伝送する。AIによる創薬で使う大容量の分析データを安全に高速転送できる基盤の整備を目指す。
三菱商事はすでに国内で8件、米国では2件のDC運営に参画しており、さらに2月には米国事業に対し最大5億ドル(約770億円)の追加投資を決めた。AIなど先端技術の発展が著しい米国で事業拡大を図るとともに、得られた知見を国内への環流や他地域への展開に生かす。
電力を大量消費するDCの低炭素化も一体で進める。資本提携先のプリファードネットワークス(PFN、東京都千代田区)が開発する省電力性能に優れたAI半導体を、DCの計算基盤向けに国内外で展開する計画だ。国産半導体による経済安全保障の確保や、海外ITサービスの利用に伴うデジタル赤字の削減への寄与も狙う。
4月にはAI関連事業を社内横断的に推進する組織「AIソリューションタスクフォース」を設置する。DCや電力といったAI活用の基盤整備から、AIによる素材探索手法「マテリアルズ・インフォマティクス」の提供に至る事業群の形成を視野に入れる。低炭素化の機能を付加しながらデジタル変革(DX)を支える産業基盤の構築を推し進める。