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にっぽんプラスX
安全かつ確実に脱炭素・省人化
地震、山火事、水害など災害が頻発し、加えて下水管の腐食や破損による道路陥没が起きる中、これまで以上に防災・減災対策やインフラ修復の必要性が高まっている。それらを担うのが建設とセメント業界だ。だが、両業界とも脱炭素や省人化への対応が求められており、先進技術を活用して課題を解決しようとする取り組みが進む。建設業界各社の省人化対応、セメント業界の脱炭素対応の動きを紹介する。
堤体試験員7割減/発破火薬を自動装填
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「Geo‐DX Compaction」 による締固め品質管理(鹿島)
鹿島はダム工事で使う堤体材料「CSG」の締固め品質管理で、試験業務の人員を約7割削減できる手法「Geo-DX Compaction」を開発した。地盤の電気抵抗を利用し、現場密度を算出する。秋田県東成瀬村の成瀬ダム堤体打設工事への導入で、施工面全域の現場密度の可視化を実現した。今後は造成工事などにも展開していく。
大林組は慶応義塾大学の研究グループと共同で、山岳トンネルの切羽(掘削面)での火薬の装填作業を遠隔化・自動化する「自動火薬装填システム」を使い、トンネル外から充填した実火薬による発破に成功した。今後、現場への適用を進めるとともに、各作業を自律学習させることでトンネル掘削作業を無人化する手法の確立も目指す。
大成建設は施工品質や安全性などの確認に使う建設ロボット向けに、遠隔操作または自律制御による巡回監視システム「T-InspectionX」を開発した。同システムを搭載した四足歩行ロボットを首都圏の現場に導入し、実用性を確認した。現場での管理業務の効率化による生産性向上のほか、巡回・警備など幅広い用途に適用できる。
清水建設はゴーレム(東京都千代田区)と共同で、土木工事における二酸化炭素(CO2)排出量を積算データから自動算出するプラットフォーム(基盤)「Civil-CO2」を開発した。CO2排出量算出プロセスの自動化と標準化が可能。業務の大幅な省力化が図れる同プラットフォームの運用を通じて、CO2排出量の可視化や低炭素・脱炭素施工を推進していく。
竹中工務店は自律走行の搬送車両と自律飛行の飛行ロボット(ドローン)の組み合わせにより、建設資材を自動で運搬するシステムを開発した。資材を保持したドローンを車両に載せて建設現場まで運んだ後、現場ではドローンによって作業員の手元に届ける。人を介さず、生産性向上や省人化を図れる搬送手法として早期の実用化を目指す。
セメントにCO2固定
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生コン工場に可搬式装置「カーボキャッチモバイル」を設置し、生コンスラッジがらカーボキャッチスラリーを製造する実証運転を実施した
太平洋セメントがカーボンニュートラル(CN、温室効果ガス排出量実質ゼロ)に向けた技術開発を加速している。取り組みの一つが生コンに二酸化炭素(CO2)を効率的に固定化するシステム「カーボキャッチ」だ。生コンやコンクリート製品全般に適用可能であり、セメント業界全体に適応可能な技術だ。また原料には生コン工場で発生する廃棄物の活用も可能で、廃棄物処理とCNを両立する技術として早期事業化を目指している。
カーボキャッチはCO2を満たした密閉容器内にセメントと水を混ぜたセメントスラリーを循環させることでセメントスラリー中のセメント1トン当たり330キログラム以上のCO2を固定化する。炭酸化物はコンクリートの構成材料の一部に置き換える。従来も混練時にCO2やドライアイスを吹き付ける方法があるが固定化の効率性が課題だった。開発技術は装置を密閉化し、炭酸化反応の効率が高い湿式法を採用することで供給したCO2の90%以上を固定化する。
カーボキャッチは生コン会社から発生する廃棄物の生コンスラッジにも適用できる。処理が課題である生コンスラッジの有効活用にもつながる。生コン工場での実証運転ではCO2排出原単位について廃棄物であるスラッジがゼロベースと仮定すると、固形炭酸化物1トン当たりマイナス178キログラムと算定され、カーボンネガティブな材料で扱える可能性がある。
技術の普及にはCO2の供給元となるセメント製造時における排ガスからの回収や供給網の仕組みづくりがカギだ。同社は技術の使用先を広げるため可搬式装置「カーボキャッチモバイル」を開発した。一方でコンクリート製造現場にシステムを整備する場合設備費用やセメント工場で回収したCO2の輸送が課題となる。そのためセメント工場内で炭酸化物を製造することも含めて検討を進める方針だ。同社中央研究所セメント・コンクリート研究部の黒川大亮固化・不溶化技術チームリーダーは「技術に興味がある企業がいれば共同で検討を進めたい」としている。