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にっぽんプラスX
航空機、回復から成長軌道へ/宇宙開発、民間の動き活発
民間エンジン分野活況
航空機産業はコロナ禍からの回復から成長軌道へ入りつつある。特に民間航空機エンジン分野は活況を呈している。旅客需要の増大に伴い、航空機エンジン生産とスペアパーツ供給、修理・整備(MRO)は需要が拡大。防衛分野では政府の防衛力強化施策により、受注が拡大。民・防それぞれで本格的な成長軌道に乗れるか期待される。
生産・修理需要が拡大
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航空機エンジンMROは今後も拡大が見込まれる(三菱重工航空エンジン本社工場) -
川崎重工のエンジンが搭載されている欧エアバスの小型航空機「A320neo」
大手重工各社の民間航空機エンジン事業で欠かせない存在となりつつある国際共同開発エンジン「PW1100G-JM」-。日本の重工業大手3社が国際共同開発に参画したエンジンで、搭載機の欧エアバスの小型機「A320neo」も受注が好調に推移しており、将来的にも同エンジン関連では需要が見込まれる。
民間航空機エンジンを主力事業の一つとするIHIの「航空・宇宙・防衛」セグメントは、2025年3月期連結業績予想の営業利益をスペアパーツ販売の好調を背景に1200億円に上方修正。さらに約130億円を投じて、「PW1100G-JM」の部品修理を行う新棟を鶴ケ島工場(埼玉県鶴ケ島市)に建設し、26年の稼働を目指す。IHI・井手博社長は民間航空機エンジンについて「継続的に投資を検討していく必要がある」とする。
三菱重工航空エンジン(愛知県小牧市)は長崎工場(長崎市)で「PW1100G-JM」の燃焼器の組み立て自動化技術の導入など生産効率化を図り競争力を強化している。効率化を通じて人手が必要な工程へ人員を投入し、強みである「日本品質」(牛田正紀社長)に磨きをかける。
MRO需要が旺盛な中、川崎重工業が26年度から「PW1100G-JM」を対象にしたMRO事業に参入する。同社のMRO事業ではロボット事業のノウハウを生かし、組み立てや部品検査での自動化に取り組む。
防衛分野、受注高伸長続く
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日英伊が共同開発する次期戦闘機(コンセプトモデル)
一方、機体製造事業は回復軌道が継続していたが、日本の航空機産業に関係が深い米ボーイングで発生した労働組合のストライキの影響を受けた。737MAXなどの生産を手がける工場を対象としたストは終結し、今後は生産レートが回復する見込み。ボーイングはストの影響を免れた787の生産レートを2026年までに月産10機まで引き上げる計画を発表したが、事業としてのリスクが顕在化したといえる。
防衛事業は政府の防衛力強化の施策を背景に受注高の伸長が継続。防衛費を増額する5年間の防衛力整備計画は27年度までで、これに伴い防衛関連の受注は高水準での推移が見込まれる。この流れを反映するように、三菱重工は年3月期の「航空・防衛・宇宙」セグメントの受注高の予想を1兆円に、川重は同期「航空宇宙システム」セグメントの受注高を8100億円に上方修正した。
今後、日本の航空機産業で培われてきた技術力の発揮が期待されるのが、日英伊の次期戦闘機の共同開発計画「グローバル戦闘航空プログラム(GCAP)」だ。日本からは開発主体として三菱重工が、エンジン担当企業としてIHIが加わる。三菱重工は次期戦闘機の開発本格化に備えて設計センターを新設する予定だ。開発を通じて日本が中心的な役割を果たせるか、今後の注目点の一つだ。
H3「3-0形態」打ち上げ
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H3ロケットの打ち上げの様子
2025年度は日本の宇宙開発にとって節目の年だ。東京大学の故・糸川英夫教授が手がけたペンシルロケットの実験からちょうど70年、日本初の人工衛星「さきがけ」の打ち上げから40年がたつ。日本の宇宙開発の歴史は長く、多くの技術を獲得している。最近は大型基幹ロケット「H3」による輸送技術や地球観測衛星「だいち4号」をはじめとした衛星開発だけでなく、ベンチャーを含む民間の動きも活発化してきている。
輸送・衛星、ベンチャー参入
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地球観測衛星「だいち4号」の実機
日本の宇宙輸送手段として、H3は試験機2号機の成功で運用が本格化して24年度は3機の打ち上げを実施。大型衛星や高度3万6000キロメートルへの静止軌道への輸送に成功し、3機連続の打ち上げ成功を達成した。25年度は日本の大型基幹ロケットでは初となる補助ロケットがなくメーンエンジン3基だけを搭載した「3-0形態」試験機の打ち上げが予定されている。3-0形態は小型の衛星などの輸送に適しており、輸送価格が従来の半額となる50億円での打ち上げが可能になる。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の有田誠H3プロジェクトマネージャは「3-0形態の打ち上げに向けた準備は順調。最後までしっかりと仕上げたい」と意気込む。
H3だけでなく、宇宙輸送を担う企業の動きも見られる。スペースワン(東京都港区)は小型ロケット「カイロス」2号機の打ち上げに挑戦。打ち上げは失敗したが、同社豊田正和社長は「ここで諦めるつもりはない。今後の挑戦の糧にする」と次の打ち上げに意欲を見せる。またインターステラテクノロジズ(北海道大樹町)のロケット「ZERO(ゼロ)」の開発も進んでおり、ウーブン・バイ・トヨタ(東京都中央区)との資本業務連携を結んだ。福島県相馬市に電気・機構系部品の生産と試験の拠点となる東北支社の建設も発表され、将来的な量産化も見込んでいる。
ロケットで宇宙に運ぶ大型衛星の開発は、JAXAと企業が連携して進めている。24年度には「だいち」4号やXバンド防衛通信衛星「きらめき」、準天頂衛星システム「みちびき」を打ち上げ、地球観測や通信、全地球測位システム(GPS)といった重要な技術の確立に貢献している。一方で、手に乗るほどの超小型衛星は企業や大学などでも作られており、カイロス2号機には高校生がつくった衛星も搭載された。また衛星に仏像を搭載した宇宙寺院の建立を目指すベンチャーも見られるなど、日本ならではの宇宙開発も進んでいる。
宇宙港の設置、地域経済活性化
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小型ロケット打ち上げる「スペースポート紀伊」
日本の宇宙開発が進むためには、ロケットなどを打ち上げるための宇宙港が必要だ。JAXAの種子島宇宙センター(鹿児島県南種子町)や内之浦宇宙空間観測所(同肝付町)が有名だが、民間のカイロスの専用射場であるスペースポート紀伊(和歌山県串本町)や北海道スペースポート(北海道大樹町)も活用されている。沖縄県や大分県などでも宇宙港の設置に向けた取り組みが進む中で、最近では高知県も名乗りを上げている。29年にも本格運用することを目指しており、宇宙関連企業の誘致や商業施設の建設などを進めるだけでなく地域復興も推し進める考えだ。宇宙開発の促進だけでなく、日本全体の経済を活性化にもつながる。