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プラ環境へ技術開発加速
政府は2024年8月、サーキュラーエコノミー(循環経済)を国家戦略に位置付けた「第五次循環型社会形成推進基本計画」を閣議決定した。また今通常国会には、メーカーにプラスチック再生材の利用計画と定期報告を義務付ける「資源有効利用促進法(資源法)改正案」を提出予定だ。資源を長く使い続ける循環経済への移行に向け、企業や研究機関も技術開発を進めている。
複合機にリユース部品
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質量の86%にリユース部品を採用し、機能のアップデートもできるリコーのオフィス複合機の「再生機」
オフィス複合機各社が再利用(リユース)部品を搭載した「再生機」の販売に力を入れている。キヤノンは24年夏、部品のリユース率95・5%の製品を発売した。回収した複合機の稼働データから、まだ使える部品を自動判定するシステムなどを活用した。再生機全体のリユース率は9割を超えた。
リコーは25年1月、質量の86%にリユース部品を搭載した再生機を発売した。内蔵ソフトウエアをバージョンアップすることで、新機能をネットワーク経由で追加できる。再生機は機能面で最新機に劣っていたが、バージョンアップによって機能面の課題を克服した。
リユース部品の品質向上にも取り組む。富士フイルムビジネスイノベーションは、外装カバーに粒子状の研磨剤を吹き付けて黄ばみを除去する装置を導入した。外装カバーのプラスチックは、使っているうちに化学反応によって黄色く変色し、「見た目」の問題で再利用できないことがあった。装置導入後、50%だった外装カバーの再利用率は80%に向上した。
白さを復活させた研磨剤は、粉々に砕いたマージャン牌(ぱい)。資源循環戦略推進部の岡崎仁グループ長は「変色した表面の”薄皮1枚”を削り取るために、硬過ぎない研磨剤を探していた。メラミン樹脂がちょうどよく、たまたまマージャン牌の素材だった」とする。外装カバーだけでなく、マージャン牌も再利用できた。
データ流通基盤を構築
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国プロで試作に成功した再生プラ25%含有の自動車部品
内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)では、循環経済を支えるシステム構築を目指した国家プロジェクトが始まっている。環境再生保全機構(川崎市幸区)が研究推進法人となり、東京大学の伊藤耕三特別教授がプログラムディレクター(PD)として全体を取りまとめている。材料やライフサイクルマネジメント、社会心理学の研究者らもサブPDとして支える。ほかにも大学などの研究機関、素材や電機、自動車、IT、リサイクルの幅広い業界から企業も参加している。NECは同社が中心となってデジタル情報流通基盤「PLA―NETJ」を構築している。再生材のデータを登録し、関係する企業が共有できるシステムだ。
現状、情報不足がプラスチックの再利用を阻む要因となっている。廃棄された商品のプラスチックはリサイクル事業者によって粉々に砕かれ、再生樹脂(フレークやペレット)となる。メーカーが再生樹脂を購入し、形成すると再び商品になる。
ただ、同じ商品でもメーカーによってプラスチック成分が異なり、使い方によって劣化状態も違う。成分や劣化状態が異なるプラスチック片が混ざった再生樹脂を利用した商品は、耐久性が低下するなど品質面で問題が起きる。
そこで成分データや元の商品、使用期間などのデータを登録し、リサイクル事業者やメーカーが共有できるようにするのがPLA―NETJだ。再生樹脂の”素性”が分かれば、メーカーも安心して再生材を使える。
PLA―NETJがあると再生材の比率も記録できる。欧州連合(EU)では、商品ごとに再生材などのデータを登録する「デジタル製品パスポート」の運用が準備されている。PLA―NETJは、プラが再生材である証明になる。「世界に先駆けたデジタル基盤であり、国際標準にできる」(伊藤PD)と自信をみせる。国プロでは今後、PLA―NETJの運用を目指し、登録する情報を検討する。
他にも国プロでは、東北大学内にある放射光施設「ナノテラス」を使い、廃プラの物性を解析してデータを蓄積している。AI(人工知能)を使って品質別に分類し、どの商品に使われた廃プラなら、どの商品に再利用できるといったマッチングを支援する。
資源循環を支える技術も研究している。24年度には再生ポリプロピレンを25%含有した自動車部品の成形に成功した。
欧州連合(EU)では、新車に搭載するプラスチックの20%を再生材にする「ELV規制案」が提案されている。伊藤PDはこの規制対応を優先とし、自動車業界の協力を得て研究した。自動車への採用には厳しいスペックの要求を満たす必要がある。トヨタ紡織と豊田合成が再生ポリプロピレン25%で部品を試作し、成形性や強度などの目標をクリアした。
ケーブルと銅線完全分離
今までリサイクルできなかった素材を再利用する研究も進んでいる。東北大学大学院工学研究科の熊谷将吾准教授は、自動車の使用済みワイヤハーネス(WH)ケーブルを銅線と塩化ビニール製被覆材に分離する技術を開発した。すでに再資源化されている銅だけでなく、被覆材も塩ビ製品に再利用できるようになる。送電に使われる太いケーブルは、切り裂いて銅線を取り出せる。一方、自動車の細いWHケーブルは粉砕すると銅の粉末と被覆材の端材が混ざる。異物はプラスチックの品質を落とすため、粉末が被覆材のリサイクルを阻んでいた。
熊谷教授の方法は有機溶媒によって被覆材を膨らませ、銅線との間にすき間をつくる。その後、ボールが入った容器に入れて回転させ、振動によって被覆材と銅線を分ける。被覆材は粉末が混ざることなく回収でき、リサイクルできるようになる。
プラスチック循環利用協会によると、23年の国内の廃プラスチック発生量は768万トンだった。現在の計算方法となった15年以降で最少となった。だが、製品材料への再利用は171万トン、割合は22・2%にとどまる。さらに、国内での再生利用に限ると42万トンにとどまっており、依然として120万トン以上の廃プラが資源として輸出されている。
25年4月には首都圏最大級となる1日200トンの廃プラスチックをリサイクル処理する工場が川崎市川崎区で操業する。JFEエンジニアリンググループのJ&T環境(横浜市鶴見区)とJR東日本グループ2社が設立したJサーキュラーシステムが建設、運営する。大型工場の登場もあり、国内でプラスチックの資源循環が進みそうだ。