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埼玉県
新型コロナウイルスの脅威は弱まったものの、不安定な国際情勢などを起因とするエネルギーや原材料などの物価高、人材不足など厳しい状況が、埼玉県内の企業にも押し寄せている。そうした中で企業が社会や会社内のエンゲージメント(結びつき)を高めていこうという動きが加速している。持続的な成長や発展を遂げるためには連携が欠かせない。脱炭素化やサーキュラーエコノミー(循環経済)などへの取り組みも求められている。
第45回埼玉県産業振興懇談会―GX・CE推進で持続的成長へ 県幹部・経営層意見交換
「循環経済、自然再興の推進」に向けて
東武商事常務執行役員 岡﨑守氏 大野元裕知事は2期目の公約で「サーキュラーエコノミー、ネイチャーポジティブの推進」を掲げています。それぞれの関係をどう考え、どう進めていきますか。
環境部資源循環推進課 尾崎範子課長 サーキュラーエコノミー(循環経済)を進めることは資源の採掘を少なくすることができ、ネイチャーポジティブ(自然再興)の原点となる生物多様性の損失が緩和されます。例えば、プラスチックゴミを循環利用することで、原料となる石油の新たな採掘を減らし、廃棄物や埋め立てを減らすことができます。これは生物多様性への負荷を削減させることにつながります。サーキュラーエコノミーはネイチャーポジティブを実現する上で極めて重要な手段であり、相乗効果を意識して施策を推進していくことが持続可能な発展につながると考えています。
ネイチャーポジティブの実現に向けては、陸と海のそれぞれ30%以上を多様な動植物が生息できる区域として保全する「30by30」(サーティーバイサーティー)の推進を官民連携で取り組んでいきます。サーキュラーエコノミーの実現に向けては、県民・県内企業への普及啓発、サーキュラーエコノミー推進センターによる事業者支援、サーキュラーエコノミー型ビジネス創出に係る補助金を活用したリーディングモデルの構築の三つの方向性で進めていきます。
岡﨑氏 県では「埼玉県プラスチック資源の持続可能な利用促進プラットフォーム」を発足しています。組織の概要や取り組み事例を教えてください。
尾崎課長 プラスチック廃棄物の排出抑制やプラスチック資源の循環利用を進めることを目的に、企業や市町村、消費者団体など産官民で構成するプラットフォームとして、2021年6月に設置しました。会員数は23年8月末現在で200者です。総会を開き、先進的な取り組み事例の共有や総会後の交流会の開催により、会員間の情報交換の場、自由なビジネスマッチングなどの場として活用いただいています。
プラスチックをきれいに分別して再生する取り組みなど各企業で先進的な事例があり、資源循環推進課のホームページでも紹介しています。民間の専門家にアドバイザーをお願いしているほか、サーキュラーエコノミー推進センターや埼玉県産業技術総合センターなどとも連携し、企業のニーズに応じて県として支援ができるよう取り組んでいきます。
CEに取り組むメリットとその支援策
日本シーム会長 木口達也氏 埼玉県内の廃プラスチックのマテリアルリサイクル率を教えていただきたい。今後リサイクル率をあげる施策は。
環境部資源循環推進課 尾崎範子課長 都道府県単位のデータは公表されていません。マテリアルフローは各段階で細かく条件を設定する必要があり、県が独自に推算することは困難です。リサイクル率を上げる施策では「埼玉県プラスチック資源の持続可能な利用促進プラットフォーム」の取り組みを2021年度から行っているほか、「埼玉県サーキュラーエコノミー型ビジネス創出事業費補助金」を新設し、プラスチック資源の循環を推進しています。
木口氏 県は今年「サーキュラーエコノミー推進センター埼玉」を立ち上げましたが、稼働状況は。
埼玉県産業振興公社 神田文男理事長 9月末までに74件の相談などに対応しています。企業からは「食品の製造工程で排出される端材や残さを有効活用したい」「プラスチック製の梱包材や緩衝材を環境に配慮したものに変更したい」などの相談が多く、専任のコーディネーター3人がマッチング支援や助言を行っています。
木口氏 中小企業がCEに取り組む際の支援内容やメリットを教えてください。
産業創造課 坂入康昭課長 資源調達や規制に対するリスクへの対応と、拡大が見込まれる新市場に参入できるチャンスの両面から事業の継続性と競争力の確保につながることがメリットです。支援では今年度CE型ビジネスモデルを構築する補助金を新設。今回登壇の東武商事など7事業を採択しています。
埼玉県産業振興公社 神田理事長 「サーキュラーエコノミー推進センター埼玉」は①情報発信・普及啓発②相談・マッチング支援③リーディングモデルの構築の三つの柱で支援を行っています。
産業支援課 神野真邦課長 展示商談会「彩の国ビジネスアリーナ2024」で新たにCE出展区分を設け、販路拡大を支援します。
金融課 横内治課長 CEに取り組む中小企業者の資金調達を支援するため、制度融資において設備投資促進資金のカーボンニュートラル要件を拡充してCEの取り組みも対象にしました。
埼玉県産業技術総合センター 福田保之センター長 バイオプラスチックや食品関連のCEに取り組む企業を技術面から支援しています。技術相談のほか試作加工や試作品の品質評価、専門家派遣なども行っています。
CE連携事例
協和精機副社長 立松和也氏 法人向けの太陽光発電、蓄電池などの補助について教えてください。
産業労働政策課 竹内康樹課長 脱炭素社会の実現には省エネルギー対策だけではなく、太陽光発電など再生可能エネルギーの最大限の導入や蓄電池によるエネルギーの効率的利用などが重要となります。2023年度は高効率・省エネ設備への更新や太陽光発電、蓄電池を設置する事業者に対して補助を実施するなど、積極的に支援していきます。
立松氏 中小事業者と県が連携してサーキュラーエコノミーを推進した事例は。
産業創造課 坂入康昭課長 「彩の国SDGs技術賞」を設け、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成に資する革新的で優れた製品・技術を表彰しています。22年度はフロンのサーキュラーエコノミーをテーマに回収・処理まで一貫したシステムを構築した企業があり、奨励賞を受賞しました。
埼玉県産業振興公社 神田文男理事長 県では浦和レッズと連携して埼玉スタジアム2002で回収したペットボトルを再製品化する実証実験を行っています。サーキュラーエコノミー推進センターが再生ペットからマグカップを製造できる県内中小企業を紹介したことで連携が実現しました。10月20日に開催したレッズの「サステナブルDAY」で再製品化したマグカップを限定販売しました。
産業技術総合センター 福田保之センター長 本所(川口市)では、生分解性バイオプラスチックの組成の検討を行い、射出成形機で成形可能な機能性の高い素材開発に成功しました。その後、企業と共同で特許出願に至っています。北部研究所(熊谷市)は「食の再資源化トライアル拠点」と位置づけ、酒かすを新たな食品原料として活用することや廃棄する規格外の複数の食品を掛け合わせて高付加価値商品を作るなど、現在支援中の取り組みもあります。
資源循環推進課 尾崎範子課長 埼玉県サーキュラーエコノミー型ビジネス創出事業費補助金では今年度に東武商事の使用済み容器の破砕・洗浄の先端技術確立事業をはじめ、7件の事業を採択しました。県のリーディングモデルとなるよう支援し、彩の国ビジネスアリーナなどで紹介するなど横展開を進めます。埼玉県プラスチック資源の持続可能な利用促進プラットフォームには会員に県内企業が入っています。企業と連携して県民に啓発していきます。