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大野元裕埼玉県知事に聞く―中小業の新規事業進出を支援
コロナ禍が収束に向かう中、エネルギー高や原材料価格の高騰が企業の経営に影響を与えている。中小企業はコスト上昇分を価格転嫁することが求められるが容易ではない。そこで埼玉県は、価格転嫁を促進しようとさまざまな施策を打ち出している。県内中小企業や小規模事業者の稼ぐ力を高め、物価高など環境変化に強い、体力ある経営基盤の構築を図る狙いだ。また、今後加速する電気自動車(EV)化に向けては、エンジン関連部品を製造する事業者らに対し新規事業への進出などを支援している。大野元裕知事に中小企業支援策などを聞いた。
価格転嫁促す施策 拡充
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埼玉県知事 大野 元裕 氏
価格交渉支援ツール公開
―エネルギー高や原材料価格の高騰など、企業の経営環境は厳しさを増しています。中小企業への支援策を教えてください。
「エネルギー高などが長期化する中、現在の国際情勢も踏まえると今後も県内中小企業への影響が続くだろう。そこで産官学や金融、労働団体で構成した『強い経済の構築に向けた埼玉県戦略会議』を開き、そこでの意見を吸い上げ施策を展開している。緊急対策としては、特別高圧電力を使用している中小企業などへの支援を実施した。他方、近年エネルギー価格が乱高下しているため、その影響を受けにくい経営体制の構築を支援することが重要だ。その一環で省エネ・再エネを活用した設備や高効率生産を実現する機械を導入した企業への補助金制度を設けた」
「中小企業はコスト上昇分を価格転嫁することが求められる。県では産官金労の12者で『価格転嫁の円滑化に関する協定』を結び、価格転嫁の機運醸成に取り組んでいる。国内初の取り組みで、現在28の道県に広がった。さらに企業間で取引される原材料やサービスの価格を選択すると、価格の推移と増減をグラフ化する『価格交渉支援ツール』を公開している。加えて、価格転嫁の有無が今後の企業収益に与える影響をシミュレーションする『収支計画シミュレーター』も整備した。中小企業がこれらのツールを活用することで、エネルギー高が長期化しても利益を確保し賃上げにつなげるといった、正のスパイラルを実現したい」
―電気自動車(EV)シフトが進む中、エンジン関連部品を製造する企業には対応策が求められます。支援策を教えてください。
「埼玉県では2019年に乗用車の新車販売に占めるEVの割合が0・6%だったが、22年には1・2%と増加した。EVシフトは世界の潮流で、今後も確実に進む。だがエンジン部品を扱う企業はまだ受注量に大きな変化がないため、EVシフトへの危機感が薄いのが現状だ。県は、EVシフトの影響が大きくなる企業に対し、危機意識の醸成に力を注いでいる。金融機関や埼玉県産業振興公社と連携し、EVシフトへの対応に向けたセミナーを実施し、EV化が進むと起こりうる影響などを説明している。その上で、企業からの要望に応じ、EV関連事業への進出や自動車以外の業種への参入に向けた経営計画の作成を支援している」
持続可能な街づくり支援
―「埼玉版スーパー・シティプロジェクト」が本格化しています。
「超少子高齢社会では、労働生産人口は減り地域コミュニティーの活力が低下する一方、医療や福祉の費用は増加する。こうした将来を見据え、市町村の『コンパクト』『スマート』『レジリエント』の3要素を備えた持続可能な街づくりを支援するプロジェクトだ。21年に県エネルギー環境課に『ワンストップ窓口』を設置し、市町村からの相談を一括で受け付け、県の担当課につなぐ仕組みを構築した。プロジェクトの具体化に向けては、個別の課題に応じて県の関係課を組み合わせたチームを立ち上げて支援している」
「民間企業のノウハウを街づくりに生かすため『埼玉版スーパー・シティプロジェクト応援企業等登録制度』を創設し9月末時点で135社が登録した。8月には市町村が企業などに向けて地域課題を発信する『ガバメントピッチ』を実施した。2日間で365人が参加し、企業から125件の提案があった」
ワンストップ支援
―6月に「サーキュラーエコノミー推進センター埼玉」を開所しました。取り組み内容を教えてください。
「中小企業のサーキュラーエコノミー(循環経済)の取り組みをワンストップで支援する拠点だ。センターには3人のコーディネーターを配置し企業からの相談に対応している。またサーキュラーエコノミー型のビジネスの創出に関する経費を助成する補助金制度を設け、採択企業に対し伴走支援を実施している」
「廃棄物を再資源化するにしても1社だけで実現するのは難しい。まずは自社の課題を把握し、技術を持つ企業、販売を担う企業らとの連携が必要だ。センターでは企業同士のマッチングや販路拡大までサポートし、収益化につなげる」
―県内企業のデジタル変革(DX)の現況と、支援策を教えてください。
「県内の従業員数51人以上の企業のうち約半数がDXに取り組んでいる。他方、同5人以下だと1割程度に落ち込む。県は21年に立ち上げた『埼玉県DX推進支援ネットワーク』を軸に中小企業からの相談にワンストップで対応し、それぞれの企業への支援策や好事例をウェブ上で発信している」
「23年度には中小企業の優れたDXの取り組みを表彰する『埼玉DX大賞』を新設した。表彰式を24年1月に開催し、そこで多くの来場者に受賞事例を知ってもらい横展開を図りたい。多くの中小企業がDXに取り組むことで、生産性や収益を向上し県内経済の成長につなげたい」
循環経済 新たな商機に 推進センター開設
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埼玉県産業振興公社 新産業振興部 循環経済支援グループ グループリーダー 的場 啓祐 氏
サーキュラーエコノミー推進センター埼玉(埼玉県産業振興公社内)では、サーキュラーエコノミーを新たなビジネス機会の創出など企業の成長力につなげていくため、サーキュラーエコノミーに取り組む企業を支援しています。
各種セミナーの開催や、彩の国ビジネスアリーナ(2024年1月24―25日開催)における関連製品の展示など、情報発信、普及啓発を行います。また、専任コーディネーターが企業からの相談対応、マッチングや販路開拓の支援などを行っています。さらに、食品残さや未利用資源を活用して新たな事業・製品の創出を目指す研究会を設置するなど、リーディングモデルの構築に向けて取り組んでいます。10月には、埼玉県産業技術総合センター北部研究所と連携し、食のサーキュラーエコノミー推進研究会を設置しました。県内14の企業・団体が参加し、自社の現状分析や今後の研究テーマを検討しました。12月には、食以外の未利用資源の有効活用を目的とした研究会を設置する予定です。サーキュラーエコノミーに関心のある企業・団体の皆さまはセンターにお気軽にお問い合わせください。(問い合わせ先 048・711・9906)