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埼玉県
新型コロナウイルスの脅威は弱まったものの、不安定な国際情勢などを起因とするエネルギーや原材料などの物価高、人材不足など厳しい状況が、埼玉県内の企業にも押し寄せている。そうした中で企業が社会や会社内のエンゲージメント(結びつき)を高めていこうという動きが加速している。持続的な成長や発展を遂げるためには連携が欠かせない。脱炭素化やサーキュラーエコノミー(循環経済)などへの取り組みも求められている。
第45回埼玉県産業振興懇談会 GX・CEを支える企業・実行する企業―1―
埼玉産業人クラブは10月30日、ロイヤルパインズホテル浦和(さいたま市浦和区)で「第45回埼玉県産業振興懇談会」を開いた。東欧だけでなく中東でも勃発した不安定な国際情勢、エネルギー・原材料価格の高騰、人手不足など、企業を取り巻く環境が大きく変化する中で「GX・CE(グリーントランスフォーメーション・サーキュラーエコノミー)を支える企業・実行する企業」を統一テーマとして、企業経営幹部4人が自社のGX・CEについて、現在の取り組みや将来点などについて語り、重要性を参加者に訴えた。
日さく/空調に地下水・地熱熱を活用
当社は1938年に設立し、さいたま市に本社を構えています。井戸を掘削するさく井工事と特殊土木工事、地質調査を手がけており、井戸にかかわる工事と維持管理が主要な事業です。
当社が取り組むグリーン・トランスフォーメーション(GX)として、地下水や地下熱を活用した空調を使うことで、二酸化炭素排出量の削減などを実現した施工事例を紹介します。
さて世の中には、再生可能エネルギーとして、太陽熱発電、太陽光発電、風力発電、小水力発電が存在しますがそれぞれ良い面と悪い面があります。例えば太陽光の場合は日光に照らされる日中は発電しますが、夜間は発電しません。同様に風力発電は風が吹けば発電しますが、逆も然りです。
それでは地下熱はどうでしょう。約10メートル以深の地中の温度は夏でも冬でも、昼でも夜でも、また天候に関わらず年間を通じほぼ一定です。そこで地下熱を活用し、気温が高い夏には地中に熱を逃がし冷房のような効果を、逆に冬には地下の熱を得ることで、暖房のような効果を得られる仕組みを構築しました。
当社は熊本県で「大規模商業施設での地中熱利用」に取り組んでいます。地下1階、地上15階、建築面積約2万7000平方メートル、映画館やショッピングモールなどを要した大規模複合施設で、地中熱を利用したGXの試みを実施しています。具体的には、深さ155メートルの井戸を6本施工し、2本で地下水をくみ上げ、残りの4本で地下水を還元する工事を実施しました。この2本を夏場と冬場で切り替えて、施設の中で水が循環するシステムを構築しています。
年間地下水揚水量は約3万立方メートルですが、そのうち約2割を施設内で上水として活用。約1割強を雑用水として、例えば植物への水やりなどに利用されています。くみ上げた井戸水が高品質なためこうした使い方ができるのでしょう。残りの6割は地下に還元し、地下資源である地下水が枯渇しないよう保全する試みを行っています。持続可能に運用でき、サーキュラーエコノミー(循環経済)にも寄与しています。
こうした取り組みにより、2021年度の実績としては、熱源起因の二酸化炭素排出量を約22%削減することに成功しました。さらには、冷却塔補給水の使用量を50%削減しました。本システムの導入で再生可能エネルギーの活用と水資源の保全活動、両方を実現しました。
次に、地下水の循環利用の歴史をご説明します。地下水の循環利用は1960年代から実施されており、古くて新しいテーマであると言えます。1960年代から1980年代では過剰揚水による地盤沈下が課題とされていました。そこで地下水位低下、地盤沈下に対する対策がとられ、結果として揚水規制などにより大都市圏においては地盤沈下が沈静化しました。2010年以降は地中熱をはじめとした再生可能エネルギーを空調設備などに活用し、二酸化炭素や電力消費量を削減する動きが国内で広がりました。すると地下水を循環する計画が国内各地で発生。当社は1960年代、1980年代に培ったノウハウを活用して展開しています。
さきほど説明した熊本の施設は2019年に完成し現在4年目ですが、非常に順調に運用しています。一方、周辺の環境に与える影響を調査するため、施設稼働後の3年間、地下水位や水温、地下水水質のモニタリングを実施しています。2023年以降も継続する予定です。
施設の導入にあたり、事前にシミュレーションによる地下水揚水・還元の影響を試算し、行政に説明した経緯があります。こうした当社の取り組みを評価していただき、「第37回 空気調和・衛生工学会振興賞」をいただくことができました。
当社は今後も、地下水や地中熱の活用・普及に向けて努めていきたいと考えております。
【企業データ】
①設立年:1938年②資本金:1億円③職種・事業内容:さく井工事・特殊土木工事・地質調査・井戸メンテナンス・井戸用設備製造及び販売④本社所在地:さいたま市大宮区⑤電話:048・644・3911
東武商事/プラ資源循環プロジェクト推進
当社は産業廃棄物の収集運搬、中間処理をする企業です。企業理念に「『当たり前』を確実に、しっかりと」を掲げ、循環型社会を推進して、産業廃棄物処理業をリサイクル産業にするため、基本をおろそかにせず、実直に取り組んでいます。環境管理の国際規格「ISO14001」をはじめ、優良産廃処理業者の認定を取得しています。
事業エリアは青森県から静岡県までの1都16県で、拠点は埼玉県と栃木県にあります。埼玉県松伏町の水処理施設は関東最大級の規模の施設で、汚泥や廃油、廃酸や廃アルカリなどの処理を手がけています。当施設は24時間365日の受け入れが可能です。栃木県那須塩原市には2炉の焼却炉があり、2炉の優位性を生かした連続した焼却が可能です。
事業の流れは自社で適正処理できるか搬入物の成分を分析し、収集運搬して中間処理をします。加えて、新たに計量証明事業として分析結果を公的に証明できる体制を整えました。計量証明事業はハードルがあります。高額な分析機器や環境計量士などの人材がいないとできません。当社では環境を整え、いよいよ本格的に始めました。
また、社会貢献として吉川市や松伏町と災害協定を結んでいるほか、地域のボランティア活動への参加や企業・団体から工場見学の受け入れ、小学校への出前講座を実施しています。国連の持続可能な開発目標(SDGs)にも取り組み、「埼玉県環境SDGs取組宣言」や「埼玉県SDGs官民連携プラットフォーム」に参画しています。
サーキュラーエコノミー(循環経済)の挑戦として、英ユニリーバ日本法人のユニリーバ・ジャパン・カスタマーマーケティング(東京都目黒区)と連携し、資源循環プロジェクトも推進しています。
プロジェクトではプラスチックがゴミにならない社会を実現するため、行動した消費者にポイントを付与します。小売店の店頭に回収箱を置き、使用済みのシャンプー、コンディショナーなどの容器を洗浄して回収箱に入れてもらい、ポイントを付与する仕組みです。それを選別、破砕、洗浄、ペレット化して再びシャンプー等の詰め替えパウチをはじめ、カードケースやアクセサリーなど再生品に還元します。当社はプロジェクトの破砕・洗浄の工程を担っています。
現在、使用済みパウチを新しいパウチに還元する道筋はできてはいますが、全てを容器として再利用する水平リサイクルまでは至っていません。単純にリサイクルに回せない課題があるためです。パウチなどは洗浄しにくい形状で、容器に香料が残ります。残留物のアレルギーのリスクもあります。
これらの課題に対し、破砕で前処理し特殊洗浄をして、水平リサイクルができるようユニリーバなどと連携して取り組んでいます。「使用済容器の破砕・洗浄の先端技術確立事業with UMILE」として、埼玉県のサーキュラーエコノミー型ビジネス創出事業費補助金制度の採択を受けました。この技術を確立するべく技術開発を進めていきます。
さらに当社では新たな挑戦として遠隔臨場の導入と活用を進めています。ウエアラブルカメラを活用して作業者と別の場所で管理者が作業を見ることができます。コロナ禍の際にはトラブルに対し管理者が自宅から的確に現場の作業者に指示することができました。動画マニュアルとして社員教育などにも活用しています。
また、有機汚泥をコンポスト(堆肥)やエネルギー(電気)などに活用できれば、経費削減に寄与できる上、リサイクル率を向上させ、GXの一環として重要な役割を果たせると思いますので、この研究にも取り組んでいます。
【企業データ】
①設立年:1983年②資本金:4800万円③職種・事業内容:産業廃棄物処分業④本社所在地:埼玉県松伏町⑤電話:048・992・1039