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デジタル化で経営課題を解決―埼玉県DX推進支援ネットワーク
埼玉県が県内企業のデジタル変革(DX)に取り組んでいる。行政や経済団体、産業支援機関、金融機関などで構成する「埼玉県DX推進ネットワーク」を2021年に設立。中小企業とIT企業のマッチングに力を入れている。専任の相談員が間に入ってニーズの掘り起こしや整理から支援し、DXに向けて最初の一歩を踏み出すきっかけ作りをしている。同ネットワークの支援内容と企業のDXの取り組みを取材した。
コンシェルジュがDX導入支援
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3人のDXコンシェルジュが中小企業のDX導入を支援する
同ネットワークは2022年、事務局である埼玉県産業振興公社に相談窓口を設置。専任相談員「DXコンシェルジュ」が企業からのDXの相談に対応する。コンシェルジュは3人。大手IT企業や総合電機メーカー出身で、デジタル化や中小支援の知見を持つ。
DX化を進めるには、IT企業などの支援が欠かせない。そこで同ネットワークは、DX関連サービスを手がける企業を登録する「埼玉DXパートナー制度」を開始。10月末時点でITやコンサルティング企業など県内外で265社が登録した。登録企業と相談企業をマッチングさせるサービスを展開中だ。
マッチングサービスの流れはこうだ。まずコンシェルジュが企業から聞き取った経営課題を整理して提案依頼シートを作成し、登録企業に送信する。その後、提案可能な登録企業から企画書と概算見積もりが提示され、それをコンシェルジュ経由で相談企業へ渡す仕組みだ。相談企業は気になる提案先とのみ、企業名を公開して打ち合わせできる。気軽に複数の企業からの提案を入手できるため、自社に最適なソリューションを選びながらコスト比較も可能だ。相談企業からは「デジタル化の観点から経営課題を整理する良い機会になった」との声が寄せられた。
昨年8月から今年10月までに107社がコンシェルジュのもとへ相談に訪れ、うち55社がマッチングサービスを利用。具体的な埼玉DXパートナーの紹介まで行えるのが利点。埼玉県独自の取り組みで、DX導入に向けて一歩を踏み出したい中小企業にとって価値ある施策といえそうだ。コンシェルジュの園部恵子氏は「出口戦略を見据えて相談できるのが利点。DX導入に向け一歩踏み出すにはIT企業などと出合うことが重要」としている。
内田精研/弁当集計アプリを開発
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「弁当集計アプリ」で社員の身近な困りごとを解決した
内田精研(川口市)は研削加工を専業とする。半導体製造装置向け部品や航空宇宙部品など顧客は多岐にわたる。同社がデジタル変革(DX)の取り組みを始めたのは今年3月。内田行彦社長は「まずは身近な困りごとを解決しよう」と、社員へのヒアリングの結果生まれたのが「弁当集計アプリ」だ。
同社では毎日、事務部の社員が本社工場と第二工場に勤める社員の弁当を電話で注文していた。中・大・特大と、社員ごとに異なるライスのサイズを確認する手間を要した。発注ミスも起こりうる。開発したアプリは、PCやスマホ上で弁当の個数などを入力し業者にそのまま発注できる仕組み。注文作業の負荷が減ったと好評だ。
同社のDXの取り組みの特徴は自社で内製していることだ。現場目線で必要な機能だけを導入し使い勝手が良いという。このほか治具を管理するアプリなど複数開発中だ。今後も現場の課題解決に向けた取り組みを進める。
大起理化工業/ロボで土壌硬度・水分を自動測定
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大起理化工業が開発を進める「土壌硬度・水分計測ロボット」
大起理化工業(鴻巣市)は、高付加価値の土壌水分・硬度計を手がけ、農業・土木のデジタル変革(DX)化を後押ししている。多様な技術開発に取り組み「顧客満足度を高める、DX化に資するモノづくりをする」(大石正行社長)方針だ。
研究機関などと組み、「土壌硬度・水分計測ロボット」の開発、実証研究を進めている。全地球測位システム(GPS)を活用し、指定場所までロボットが移動して地表から深さ90センチメートルの土壌硬度(貫入抵抗値)と土壌水分を自動で測定する。
測定時に土壌面と垂直になるよう、前後左右10度の範囲で傾きを変える自動チルト機能を搭載。手作業による測定よりもデータの正確性と再現性を確保できる。自動計測により1日で数百地点の測定も可能。測定データはIoT(モノのインターネット)によりクラウド上で共有できる。ロボットの外形は参考仕様で幅880×奥行き910×高さ1800ミリメートル、重量は230キログラム。
アーベルソフト/遠隔で水害を確認、対応迅速化
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ビューちゃんねるは今年6月の大雨被害でも 効果を発揮 (写真は朝霞市。上は晴天時、下は冠水時)
アーベルソフト(坂戸市)は、システム開発とインフラ構築が主力事業だ。国の「デジタル田園都市国家構想」を背景に、次世代データ連携基盤「FIWARE(ファイウエア)」の受注が伸び、業績をけん引している。
地域防災のデジタル変革(DX)化を推進するため、地域情報写真配信サービス「ビューちゃんねる」にも力を入れている。電柱に取り付けた定点カメラで冠水や越水などの危険箇所の情報をピンポイントで取得。ゲリラ豪雨や台風など大雨の際に河川や道路の状況を遠隔で確認できる。
システムが稼働する埼玉県毛呂山町では「現場に行かなくても大丈夫かどうかが確認できる」(まちづくり整備課)という。カメラ画像から緊急性の高い場所へのパトロールや通行止めなどが迅速にできるようになった。
国の「防災DXサービスマップ」に選定され、今年6月の大雨被害でも効果を発揮した。西岡和也社長は「地域の安心・安全に貢献したい」と強調する。
松本興産/アプリで生産性向上、働き方改革
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松本興産はDX化の推進により、生産性の向上や働き方改革につなげている
松本興産(小鹿野町)は、コンピューター数値制御(CNC)複合旋盤による精密切削加工が強み。自動車部品などを手がけ、「高精度」「短納期」「低価格」を実現してきた。デジタル変革(DX)化の推進により、生産性の向上や働き方改革につなげている。
デジタル化とデータ活用基盤を構築するため、社内に部門横断の委員会を発足。経営層が率先して社員と共同でアプリを作成、製品検査の記録作業を自動化した。業務の効率化した実績を組織全体で共有することで社員のモチベーションを引き出し、成功体験が社内のデジタル人材増加の好循環を生んでいる。
業務のアプリ化により、定型業務の約7割を削減するなど生産性が向上し、在宅勤務や柔軟な労働時間など働き方改革にも結びついている。松本めぐみ取締役は「DXで国籍や障がい、ジェンダーなどの『壁』を取り除くことができた」とする。今後も社会的課題に貢献し、持続可能な発展につなげていく。