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埼玉県
新型コロナウイルスの脅威は弱まったものの、不安定な国際情勢などを起因とするエネルギーや原材料などの物価高、人材不足など厳しい状況が、埼玉県内の企業にも押し寄せている。そうした中で企業が社会や会社内のエンゲージメント(結びつき)を高めていこうという動きが加速している。持続的な成長や発展を遂げるためには連携が欠かせない。脱炭素化やサーキュラーエコノミー(循環経済)などへの取り組みも求められている。
産学連携・研究・教育で社会貢献 期待・注目集める大学
18歳人口が減り続ける少子化の荒波が押し寄せる中で、大学を取り巻く環境が大きく変化している。教育や研究だけでなく社会貢献活動についても地域から期待と注目が集まっている。埼玉産業人クラブとの間で「NITEC埼玉産学交流会」を組織して産学連携に取り組む日本工業大学の竹内貞雄学長と、同じく「TDU産学交流会」を組織する東京電機大学の射場本忠彦学長に、大学の取り組みや今後の活動などについて聞いた。
日本工業大学/実学重視 データ評価研究に定評
―10月1日に学長に就任しましたが、抱負は。
「設立から今年56年目で11代目の学長になるが、OBの学長は初めてになる。歴代の卒業生の名誉を担っており、責任の重さを認識している。一方で少子化の波が来ていて、大学が脅威にさらされている中での船出になる。しっかり舵取りをしながら大学の発展に全力で取り組んでいく覚悟だ」
―日本工業大学の特色について、学長はどう考えていますか。
「まず実学を重んじる大学であること。教育には理論を先行したり実際にモノを動かして実験したりするなど、さまざまなやり方がある。本学は元々、工業高校生のための大学という位置づけだったため、モノに直接触れる教育を重視している。さらに大きな特徴は卒業研究。工科系大学は卒業研究のテーマによってその大学の特色が決まると思うが、本学はキャンパスの敷地が広く、研究室のスペースも広い。このためシミュレーションよりは実験装置などを使ってデータを取って評価する研究室が多い」
―大学ランキングでも上位に入っています。
「『すぐれた研究に取り組む大学ランキング』で19位。他にも『就職支援に熱心に取り組む大学』では7位で今年に限らず安定して10位以内の評価をいただいている。『地域の活性化に貢献する大学』では13位。総合ランキングでも全国に約700ある大学の中で36位。いずれも企業の人事担当者から見た大学イメージ調査で上位に入っている」
―大学を取り巻く環境をどう見ていますか。
「日本では高校2年の段階で文系と理系に分かれる進路指導が多いが、これは世界的に見ても異質だと思う。先進国の中で理系に進む学生の数が、日本は少なくなっている傾向は非常に危惧する。理工学教育が進むような仕掛けを作らないと理系が増えるのは難しい。具体的に言うと、小中高校の先生に工学部出身は少ない。進路相談でも工科系大学の具体的なイメージを先生が生徒に伝えられず、偏差値で大学を選ぶことになってしまう。大学に入学する前の段階からの改革が必要だと感じる」
―NITEC埼玉産学交流会には、学長就任前から活動に参加してもらっています。
「10年以上前の学生支援部長の時から参加しているが、大学の応援団のような存在でありがたい。交流会の会員もいい人ばかりで居心地が良く、参加していて楽しい。これからも引き続きご協力をお願いしたい」
東京電機大学/見て触れるハンズオン教育強化
―社会環境が変化する中、大学教育をどう進めていきますか。
「本学は建学の精神『実学尊重』、教育・研究理念『技術は人なり』のもと、技術で社会に貢献する人材の育成を目指している。実学教育を実践するため、リベラルアーツ(教養教育)の構築が社会的にも求められている。オンライン教育など従来、取り組んでいなかった授業のやり方に挑戦するとともに、見て触れるハンズオンによる専門教育を強化していく」
「実物を見ることは大事だ。技術を見たことがない、見て触れる場が少ないと聞く。大学における研究は重要ではあるが、それ以前に教養が必要だ。学生の人格形成にとっても本物を見ることは不可欠だ。実学というと工場などのモノづくりをイメージするが、自身の人生で得られたもの、ものへの気づきも実学だ。変化に気がつくことができるか、変化に興味を持てるか。ウオッチ力を高めることが重要だ」
―中期のビジョンを教えてください。
「2024年度からの5年間の中期計画では、理工系大学のトップランナーの一員として、特色ある取り組みを推進し、高度技術者の育成を目指していく。今後も社会で人材不足は続き、人材をいかに発掘していくかが求められている。中期計画においても大切な部分は人だ。計画を具体的に進めていくために、研究室など人が育つ環境づくりに力を注いでいく」
「最終的に大学が評価されるのは卒業生の活躍だろう。卒業生は大学の財産だ。良い学生が育つのは良い大学である。この研究室から人材を獲得したい、さらにはこの研究室に入れたいと思う大学だ。良い循環につなげたい」
―特色ある研究・社会貢献の活性化を打ち出しています。
「一例として『サイバーセキュリティー人材』の育成に向けた取り組みがある。専門家を養成するプログラムを推進しているほか、警視庁とも人材育成に向けた産学官連携協定を結んだ。サイバーセキュリティーをリカレント(学び直し)教育にも発展させていく」
―TDU産学交流会をはじめ、産学官連携、地域連携にも活発に取り組んでいます。
「社会貢献に資する研究の強化と外部資金の獲得を掲げている。連携を推進するためにも人がカギとなる。評判の良い研究室には連携を求める企業や研究費なども集まってくる。評判を高めていくのは一朝一夕にできるものではない。インセンティブを設け、連携へのモチベーションが高まるような仕組みもつくっていきたい」