-
業種・地域から探す
続きの記事
神奈川県特集(2024年7月)
技術と街 つなぐ神奈川
神奈川県が先進的な技術開発などを推進する国内外の企業を引きつけている。企業立地では2023年の転入超過が国内トップ。特に成長分野の企業の本社機能や研究開発拠点の進出が活発になっている。充実した交通インフラを基盤に、人材の優位性もその動きを後押しする。県内の三つの特区では実証実験などを推進し、イノベーション創出に向けた環境を整える。実力の高い地域企業の存在も神奈川の発展に大きく貢献している。
研究開発拠点が集積
-
横浜・みなとみらい地区に今春竣工した複合ビル「横浜シンフォステージ」には、ヤマハ発動機の研究開発拠点が入居するなど、新たなシンボルとなることが期待されている
神奈川県は企業の転入超過が続いている。帝国データバンク横浜支店の調査によると、23年は県内への転入企業数から転出企業数を引いた転入超過は77社で、2年ぶりに全国トップとなった。転入企業は271社で、東京都に続く全国2位を確保している。
今後も神奈川の企業立地は好調に推移しそうだ。24年春にはヤマハ発動機が横浜市西区に先進研究開発の拠点を開設し、ボッシュも横浜市都筑区に本社を移転した。今秋には富士通が川崎市に本社機能の移転を計画。本社や研究開発拠点の移転先として、神奈川は多くの有力企業を引きつけている。
神奈川が多くの企業を引きつける要因に、陸海空の交通インフラの充実がある。
首都圏中央連絡自動車道(圏央道)の神奈川県内エリアであるさがみ縦貫道路が15年に開通。首都圏と中京圏をつなぐ新東名高速道の全線開通も27年度に控え、北関東全域や東北方面、中京圏にアクセスしやすい幹線道路網の整備が進展する。
また、国際的なハブ空港である羽田空港に近接しており、企業のグローバルな事業展開を後押しする。さらに横浜港、川崎港、横須賀港の国際貿易港を活用できるメリットも企業進出を後押しする。
豊富な人材も神奈川の魅力の一つ。県内の生産年齢人口は約580万人(22年)で全国2位。学術・研究開発機関で働く人の数は約5万5000人(21年)で全国最多となっており、優秀な人材を確保しやすい立地環境が整っている。
こうした優位性の高い立地環境を生かし、成長分野の企業誘致を加速するため、県も誘致施策の充実に乗り出している。
県は24年度から、企業立地補助金などの支援を含む誘致策「セレクト神奈川NEXT」の対象に、「脱炭素関連産業」を追加した。また研究所の立地に関しては、分野を絞らずに全産業を支援対象にする。これにより、将来の雇用創出効果の高い産業分野や研究所の誘致を加速する。
同施策は企業立地補助金、税制優遇、低利融資、賃料補助などの支援を通じて県内への企業立地を促進するもの。補助金の支援対象に、土地・建物の取得に加えて大規模な設備投資も含めるなど要件を見直し、施策の実施期間も延長した。
県内3特区 新ビジネス呼び込む
-
横浜港など国際貿易に優位な立地環境がそろうことも神奈川に企業を引きつける要因の一つ
神奈川県内の三つの特区も地域経済の活性化に寄与している。革新的な医薬品・医療機器の開発・製造と健康関連産業の創出を目指す「京浜臨海部ライフイノベーション国際戦略総合特区」は県東部の京浜地区、生活支援ロボットの実用化や普及を目指す「さがみロボット産業特区」は県央地区、1都3県にまたがる「東京圏国家戦略特区」は県全域をカバー。こうした特区の存在を含め、ビジネスを始めやすい環境が整っていることも、県内に企業を呼び込むきっかけになっている。
例えばさがみロボット産業特区では、生活支援ロボットの社会実証に向けた実証実験を後押しする「公募型ロボット実証支援事業」などに取り組んでいる。規制緩和で実証実験をしやすい環境を整備し、生活支援ロボットの実用化や普及を促進する。介護・医療、インフラ・建設、災害対応、交通・流通などの分野で活躍が期待されるロボットについて、その性能や導入効果を検証する機会を企業に提供している。
脱炭素に貢献する電気自動車(EV)の導入拡大に向けた動きも県内で活発だ。特に横浜・みなとみらい地区は国指定の実証地域として、EVの普及拡大に関するさまざまな実証実験が全国に先駆けて進められてきた。現在は実用化も進み、日産自動車のEVカーシェアリングサービス「e-シェアモビ」などが運用されている。
地域企業 経済活性化に貢献
-
菊水電子工業の充電/放電多目的コントローラー「KEV1002」
EV開発に貢献する地域の企業も存在感を示す。電源装置や電子計測器の開発・販売を手がける菊水電子工業は、世界各国の電気自動車(EV)規格に対応する充電/放電多目的コントローラー「KEV1002」を発売。EV充電システムのほか、外部施設などと相互連携するビークル・ツー・エックス(V2X)システム、車両開発における充放電時の通信異常チェックなど、EV関連の各種試験・評価ニーズに応える。生産ラインでは充電チェッカーモードにより、充電開始から終了までの試験時間設定や充電制御シーケンスの合否判定に使える。
県は企業誘致だけでなく、地域企業への支援策を強化して県内経済・産業の活性化に取り組む。特に地域経済を支える中小企業の稼ぐ力の安定と強化に力を入れる。24年度の当初予算には「中小企業支援パッケージによる地域経済の活性化」に計約83億円を計上。物価高騰、人手不足、設備の老朽化といった課題に直面する中、生産性向上やデジタル変革(DX)などの支援で県内企業の産業競争力の強化を下支えする。
メッセージ 神奈川県知事 黒岩 祐治 氏
革新的な発想や技術で新たな時代を切り拓く
近年、デジタル技術が著しく発展し、デジタル変革(DX)や生成AI(人工知能)技術等が急速に普及しています。デジタル化の加速や、脱炭素化の潮流などを背景として、産業構造が大きく変化しており、その対応が課題となっている中、新たな時代を切り拓き、経済を好循環させていく大きな力となるのは、革新的なアイデアや先進的な技術です。
県では、こうした発想や技術を活用して、社会課題の解決に挑戦するベンチャー企業を創出し、育成する取り組みとして、2019年から、ベンチャー支援の神奈川モデル「HATSU-SHIN KANAGAWA」を推進しています。
この取り組みでは、「HATSU鎌倉」など県内3か所の起業家創出拠点において地域「発」の起業家を生み出す起業家コミュニティーの形成に取り組むとともに、横浜にあるベンチャー企業の成長促進拠点「SHINみなとみらい」では、ベンチャー企業の事業拡大に向けた個別伴走支援や、脱炭素プロジェクトなどの大企業とベンチャー企業による協業の支援に取り組んでいます。
また、デジタル化の進展により、ロボット産業は今後の成長がさらに期待されます。県では、「さがみロボット産業特区」の取り組みなどを通じて、生活支援ロボットの実用化や普及を推進しており、23年度末までに54件のロボットが商品化され、病院やホテルなど約400の施設に導入されました。
24年度は、JR東海が橋本駅近隣で運営する「FUN+TECH LABO」(ファンタステックラボ)内に、ロボット企業等が利用できる拠点を設置して、ロボット産業に関わる企業の交流や、県内中小企業のロボット産業への参入を促進させる取り組みを進めていきます。
さらに、介護分野における労働力不足などの課題を解決するため、介護に適したロボットの実証や効果検証、実用化に向けた改善などを行い、介護ロボットの普及にも取り組んでいきます。
本県には、革新的なアイデアや先進的な技術を有し、ポテンシャルを秘めた企業が集積しています。ベンチャー企業やロボット産業等の支援を通じ、県内産業のさらなる振興につなげてまいります。