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神奈川県特集(2024年7月)
川崎市 -次の100年へ 新産業を創出
産業都市・川崎市が市制100周年を迎えた。臨海部は京浜工業地帯の中核地として日本の産業と経済成長をけん引。内陸部を含めてモノづくりの集積地として発展を続ける。現在は先端分野の新産業の育成・誘致も活発で、多様な産業構造を形成。人口は5月に155万人を超え、現在も増加基調にある。次の100年を見据えた持続可能な経済成長に向け、脱炭素・環境、量子技術、医療など新たなプロジェクトも動き出している。
市制100周年 第二創業に挑戦
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川崎市市制100周年記念式典であいさつする福田紀彦市長 -
ミューザ川崎シンフォニーホールで開かれた記念式典
市は7月1日、ミューザ川崎(川崎市幸区)で市制100周年記念式典を開いた。式で福田紀彦市長は「私たちは今も連綿と続く『モノづくり』を中心とした産業をこれからも誇りとしながら、同時にカーボンニュートラルという世界的な挑戦をわが街からけん引していこうとする新たな時代に入った」とあいさつ。工業都市として成長した過去を振り返りつつ、臨海部での水素など新エネルギーの供給拠点形成、ライフサイエンスや量子技術などの新産業創出を推進する考えを示し、「まさに川崎は第二創業と言える挑戦を今進めている」と強調した。
式には市民ら約1900人が参加。市の魅力や歴史を振り返る記念映像の上映、オーケストラと合唱団による記念演奏で節目を華々しく祝った。
市内各地で記念イベント
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JR南武線武蔵溝ノ口駅で記念セレモニーに臨む平原さん(右)と高橋高津区長
100周年の記念事業はそのほか市内各地で開かれ、年間を通じて地域を盛り上げている。
JR南武線武蔵溝ノ口駅(川崎市高津区)は7月1日から、発車メロディーに高津区ゆかりのアーティストである平原綾香さんの名曲「Jupiter」を採用した。市制100周年と同時に、平原さんの母校である洗足学園の創立100周年を記念した事業の一環となる。
採用した発車メロディーは平原さん本人がアレンジを担当し、三つの発車ホームごとに異なる3種類のメロディーを流す。記念セレモニーでメロディーを披露した平原さんは「学生時代に毎日利用していた駅でJupiterが流れるのは夢のよう。川崎の人に心地よいと感じてもらえるように心を込めてアレンジと演奏を行った」と語った。
セレモニーに参加した高橋友弘高津区長は「区民には最高のプレゼント。区外の人にも良いアピールになる」と述べ、洗足学園の前田英三郎法人本部長は「市とともに100年を迎え、記念すべき年になった」と喜んだ。
脱炭素・環境、量子技術、医療 新プロジェクト動き出す
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JFEホールディングスが公表した「OHGISHIMA2050」での扇島地区のイメージ
国内最大規模の工業地帯を擁する川崎市臨海部。23年9月にはJFEスチール東日本製鉄所京浜地区(川崎市川崎区)が高炉を休止した一方、高炉が立地していた同市扇島地区の大規模な土地利用転換に向けた動きが進展する。新エネルギーなど次世代の川崎の産業をけん引する新たな拠点形成が期待される。
JFEホールディングス(HD)が公表した2050年に向けての扇島地区の土地利用構想「OHGISHIMA2050」によると、同地区の敷地約222ヘクタールについて、「先導」「共創」「沿道」の3エリアで開発する方針が示されている。先導エリアは、鉄鉱石などを受け入れる原料ヤードや大水深バースがあるエリア。既存構造物が少ないことから、水素を軸とした新エネルギーの受け入れ、貯蔵、供給の拠点となることが期待される。
川崎市は今年5月、JFEHDと「扇島地区先導エリアの整備推進に関する協定」を締結。同エリアの整備推進に関する協力事項や役割分担などの基本事項を定めた。同協定に基づき開発を進め、新エネルギーの供給拠点の実証を28年度にも実施することを目指す。
環境と産業の調和を目指す環境先進都市である川崎市。市内の産業界の脱炭素化に向けた関心は高い。そうした企業を内外にアピールしつつ、広く連携を促進する展示会を毎年開き、産業競争力の強化に結びつけている。
川崎市は11月13、14日の両日、カルッツかわさき(川崎市川崎区)で「第17回川崎国際環境技術展」を開く。同展示会は環境関連の製品や技術を持つ企業のビジネスマッチングが目的だが、今回は市制100周年を踏まえ、幅広く市民の来場も促す。市民に対して市内企業の製品・サービスを知ってもらうためのシンポジウムやセミナーなど特別企画の開催も予定する。
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市の人材育成プログラムでは量子コンピューターの見学などを行う
新川崎・創造のもり地区(川崎市幸区)を拠点に、量子コンピューターなど量子技術分野の最先端の新産業創出を目指す「量子イノベーションパーク」の実現に向けた動きも始まっている。
川崎市と慶応義塾大学は23年8月、同地区の機能更新などに関する協定書を締結。国際的な最先端研究開発拠点の形成に向け、同地区にある慶大「新川崎タウンキャンパス」の機能更新や量子イノベーションパークの形成に関して相互協力する。
同地区には、川崎市産業振興財団などが運営するインキュベーションセンターのかわさき新産業創造センター(KBIC)が立地。運営施設の一つである産学官共同研究施設「NANOBIC」には、アジア初の商用ゲート型量子コンピューターが稼働している。
これらを契機に、市では慶大とも連携して量子技術を核とした世界最高水準の研究開発拠点の形成を構想。今年4月には機能更新に関する基本的な考え方を策定した。
構想の具体化はこれからだが、次世代の量子関連人材を育成する取り組みも始まっている。市は市内高校生などを対象に、量子コンピューターの基礎学習や実機見学などを行う人材育成プログラムを毎年実施。量子技術分野の産業化をけん引する人材を全国に先駆けて川崎から輩出することを目指している。
川崎市は成長分野として「ライフイノベーション」を積極的に推進している。「京浜臨海部ライフイノベーション国際戦略総合特区」の指定を受け、川崎市川崎区殿町3丁目地区の「キングスカイフロント」を核に、ライフサイエンス分野の研究拠点を形成。革新的な医薬品・医療機器の開発・製造と健康関連産業の創出を目指す。
キングスカイフロントはいすゞ自動車の川崎製造所の跡地を再開発して整備したもの。羽田空港に近接する優れた立地環境を生かし、医療、製薬、化学などライフサイエンス分野のさまざまな企業や大学、研究機関の立地が進んでいる。
キングスカイフロントのまち開きは13年。24年1月時点で立地する機関は約70機関に上り、約5200人が就労。同エリアの立地機関の関係者による協議会を通じ、研究・事業活動だけでなく、まちづくりを含めて立地機関同士が交流する。
また15年には、川崎市産業振興財団ナノ医療イノベーションセンターが最先端医療研究施設を同エリアにオープン。同施設ではナノ医療技術による難治療性疾患の診断・治療法の実現を目的に医工連携を推進する。最先端の基礎的な研究だけでなく、多様化する社会ニーズに応えるさまざまな実証研究にも取り組む。