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神奈川県特集(2024年7月)
企業と人-つなげる金融機関
横浜銀行
ファンド通じ事業承継・成長支援、地域企業の課題解決に貢献
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デジタル歯科技工の作製現場で技工士と話す通地慶樹ZOO LABO社長 -
通地社長と経営戦略について話し合う田邉横浜キャピタル社長(右手前)と派遣した役員(左2人)
コンコルディア・フィナンシャルグループ(FG)は『地域に根ざし、ともに歩む存在として選ばれるソリューション・カンパニー』をビジョンに掲げ、中核の横浜銀行がグループ会社を挙げてソリューションビジネスを深化・拡大している。中小企業の後継者難が深刻さを増す中、横浜銀行グループの横浜キャピタル(横浜市西区)は地元営業エリアでファンドを通じた事業承継・ハンズオン(伴走型)支援に邁進(まいしん)している。
歯科技工所のZOO LABO(ズーラボ、川崎市多摩区)は2023年12月、横浜銀行が横浜キャピタルと設立した「YokohamaNext投資事業有限責任組合」(横浜ネクストファンド)およびフロンティア・キャピタル(FCI、東京都港区)の出資を受け入れた。横浜ネクストファンドとFCIはズーラボ専務を務めてきた通地慶樹氏を翌24年1月、新社長に選任して横浜ネクストファンドとFCIから派遣した役員とともに経営にあたっている。
ズーラボは50年の歴史があり、首都圏を中心とした歯科医院に高品質の歯科技工物を供給する。いち早くCAD/CAMシステムによるデジタル歯科技工にも取り組み、生産性を高めて順調に事業を拡大。横浜キャピタルの田邉俊治社長は「さらなる成長が見込める状況下で事業承継が経営課題として浮上し、共同投資家(FCI)とともに支援に乗り出した」と振り返る。
日本の人口はピークアウトしたが、高齢化の進展で歯科技工物の需要は上向き。だが、他産業と同様に業界では人手不足が顕在化し、CAD/CAMシステムに象徴されるデジタル変革(DX)が急務。歯科医療を所管する厚生労働省もデジタル歯科技工の保険適用範囲を拡大するなど、業界のDXを後押ししている。
一方、ズーラボの通地社長は「人が一番大事」と話す。DXが進展する歯科技工では技術力が重視されるが、取引先の要望に応え、信頼される存在となるには「人としての誠実さが大切になる」とし、人材育成を要とする組織づくりを進める方針。「非常勤役員を迎え入れている横浜キャピタルの人的資本経営に関する豊富な知見、ノウハウを取り込んで成長戦略を描きたい」と展望する。
また、成長戦略の実現に向け、重視するのが労働環境の整備。現社屋は手狭で、小部屋が多いため効率的なレイアウトになっていない。通地社長は「従業員がいきいきと働きやすい環境整備が必須。新社屋への移転を検討しており、お客さまのニーズにしっかりと応えるべく、手作業と最新のデジタル歯科技工、両方の良さを発揮できる職場にする」と意気込む。
地域企業の多様化・高度化するニーズに応えるためには伝統的な融資だけでなく、資本政策にかかわるエクイティ・ソリューションの充実が不可欠。その役割を担うのが横浜キャピタルであり、運用ファンドの拡充や人員体制の強化に取り組んでいる。同社の田邉社長は「地域にはさまざまな業種の中小企業があり、その営みで地域社会が成り立つ。コンコルディアFGはファンドを通じて地域企業の課題解決に貢献するとともに、企業価値向上に取り組んでいく」と思い込めた。
日本政策金融公庫
缶の地酒で地域活性化に貢献、Agnaviの挑戦を支援
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Agnaviの玄成秀社長は1合缶入りの日本酒「ICHI-GO-CAN」の製造販売事業を手がけ、これまで販売した銘柄は170種以上
日本酒を1合缶に詰めた独自ブランド「ICHI-GO-CAN」などの製造販売事業を展開するAgnavi(神奈川県茅ケ崎市)。日本酒を缶で提供する独自の流通システムを構築し、販路を開拓している。現在は国内100カ所以上の酒蔵と連携。各地の地酒を同ブランドで販売し、地域活性化にも寄与する。同社は創業初期から日本政策金融公庫(日本公庫)横浜支店の支援を受けて事業を拡大。海外展開など今後の飛躍も期待されている。
ICHI-GO-CANはさまざまな酒蔵から日本酒の供給を受け、1合缶にボトリングして販売するもの。パッケージは銘柄ごとのデザインを採用し、これまで販売した銘柄は約170種類に上る。鉄道会社とタイアップし、鉄道沿線の酒蔵の銘柄をシリーズ展開して沿線の駅などで販売することもある。
購入が手軽な1合缶を入り口に、若者など新たな日本酒ファンの獲得を図る。地酒を缶で市場に流通させることは、地域の魅力発信にもつながっている。
Agnaviの玄成秀社長は「当社の事業の強みは、従来とは異なる日本酒の流通システムをつくっていることにある」と説明する。日本酒は従来、一升瓶や四合瓶など瓶での流通が基本だった。これに対して同社は、缶での流通を前提にした商品設計や流通経路を構築し、日本酒の魅力を幅広い世代に届けることを目指す。
同社は「生産者に多様な選択肢を」というミッションを掲げ、東京農業大学の大学院生だった玄社長が2020年2月に創業した。直後のコロナ禍で事業計画を試行錯誤しつつ、当時飲食店の休店で苦境にあった全国の56蔵をクラウドファンディング(CF)で支援したことをきっかけに、日本酒の新たな流通システムをテーマにした事業を開始した。
そんな同社を創業初期から支えてきたのが日本公庫。起業家への融資にも積極的な日本公庫では、横浜支店国民生活事業を通じて段階的に同社への融資を実行。「そのおかげで事業の選択肢が広がった」と玄社長は話す。
現在では同社の日本酒製品の売り上げの成長率は3年連続で約250%を達成。資本・業務提携する東洋製罐グループホールディングスをはじめ、大手鉄道会社などさまざまな企業・団体と連携体制を構築している。
今後は海外市場も開拓する。24年1月に日本公庫の制度資金「農林水産物・食品輸出基盤強化資金」を活用して必要資金を調達。輸出に向けた設備資金などに活用する計画で、玄社長は「海外市場で求められる安全性を担保したサステナブルな流通システムを構築する」と意気込む。
コメント/日本政策金融公庫横浜支店 国民生活事業統轄 大木 学氏
「政策金融の的確な実施」
日本公庫は、一般の金融機関が行う金融を補完する役割を担う。事業を立ち上げたばかりで営業実績が乏しい案件でも、民間金融機関と連携して積極的に融資を実行し、事業のスタートと成長を後押ししている。
「政策金融の担い手として、安心と挑戦を支え、共に未来を創る。」が当公庫の使命。地域活性化にも貢献するAgnaviの挑戦を早期から支援することは、まさにこの使命にあてはまると考えている。