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埼玉県特集
埼玉県、中小の稼ぐ力を底上げ/DX・サーキュラーエコノミーに重点
持続的な地域経済の基盤づくり急ぐ
首都圏へのアクセスの良さを生かし、多様な産業が集積する埼玉県。企業を取り巻く環境が変化する中、県は中小企業の競争力向上に向けた支援を進めている。デジタル変革(DX)を通じた生産性向上、サーキュラーエコノミー(CE、循環経済)推進、人材確保支援など、持続的な地域経済の基盤づくりを急ぐ。県の産業政策と企業支援の取り組みについて、大野元裕知事に聞いた。
—県内中小企業の景況感をどう見ていますか。
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埼玉県知事 大野 元裕 氏
「埼玉県の四半期経営動向調査(2025年7—9月期)によると、県内中小企業の景況感は持ち直しの動きに足踏み感が見られる。企業からは、原材料やエネルギー価格、人件費の高騰などで採算が悪化しているとの声が多い。米国の関税措置やガザ情勢、ウクライナ情勢の影響が懸念されているほか、円安に伴うコスト上昇も続いており、注視する必要がある。他方、国内では高市政権が発足した。現時点では評価は定まっていないが、為替や金利、物価など市場が変動する可能性があり、リスク要因として見ておく必要がある。こうした見通しが難しい環境下では、中小企業が自ら稼ぐ力を高めることが一層求められる」
「中小企業からは資金繰り支援よりも、省エネ設備などへの投資支援を求める声のほうが多い。目先より中期的な視点を持っていると感じる。こうした点を踏まえ、今後の予算編成に生かしていきたい」
生産性向上・新たな価値創出
—稼ぐ力を付けてもらうための支援は。
「生産性向上と新たな価値創出が重要だ。そのためにはDXが必要となるため、国や経済団体、金融機関など27者で構成する『埼玉県DX推進支援ネットワーク』を立ち上げ、オール埼玉で中小企業のDXをワンストップで支援している」
「またCE推進にも力を入れている。県の環境部門ではなく経済を担う産業労働部が所管しているのは、CEの実現には経済性が必要との考えからだ。CE推進拠点『サーキュラーエコノミー推進センター埼玉』を開設し、企業支援を進めている。埼玉県は首都圏へのアクセスが良く、製品を生み出す現場とそれを消費して廃棄が発生する現場などが重なる地域特性を持つ。こうした立地の利点を生かしてCEを一層推進していく」
—人手不足が深刻です。
「人材確保に向け、経済団体などで構成する『強い経済の構築に向けた埼玉県戦略会議』に人手不足対策分科会を設置し、全産業で共通の取り組みを進めている。中でも喫緊の課題であった物流や建設分野などでは、業界特性を踏まえた個別対応を実施してきた。さらに、さいたま市、川越市、熊谷市に『埼玉県企業人材サポートデスク』を設置し、人材確保に関する相談対応や、企業と求職者のマッチングを行っている」
「シニア人材の活用も推進中だ。7月に『埼玉県シニア人材バンク』を開設した。スキルやノウハウを持つシニア人材と、経営課題の解決を目指す中小企業を結びつける仕組みだ。若手採用については、学生に県内企業の魅力を伝え、地元への就職を促す取り組みを強化している。2026年1月にはAI(人工知能)を活用した適職診断と企業マッチングシステムを提供する予定だ。人手不足は一朝一夕に解決できないが、戦略会議や分科会での議論を踏まえ、実効性のある施策を順次打っていく」
—後継者難も課題です。
「後継者不在による廃業が増えており、県経済にとって大きな損失だ。このため、埼玉県産業振興公社に事業承継アドバイザーを配置し、熊谷地方庁舎にも相談窓口を設けた。また、『埼玉県事業承継ネットワーク』では、相談内容によっては専門家に取り次ぎ、連携して対応している。親族に後継者がいない場合は、外部経営者や創業希望者による第三者承継も支援している。『埼玉県事業承継・引継ぎ支援センター』では、中小企業診断士などの専門家がM&A(合併・買収)による承継相談に対応し、必要な書類作成などを支援している」
「後継者の育成期間を含めると、一般的に事業承継には5—10年を要すると言われており、早期の計画と準備が重要だ。企業の存続や雇用維持のためにも、県内企業には後継者問題を自分事として捉え、県の支援策を活用してもらいたい」
イノベーション拠点「渋沢MIX」開設/専門人材を配置 相談に対応
—7月にイノベーション拠点「渋沢MIX」を開設しました。
「10月22日時点で会員登録企業は321社となった。申し込みが殺到しており、今後も増加する見込みだ。渋沢MIXには、コミュニティーマネージャー、共創コーディネーター、スタートアップアドバイザーの3分野の専門人材を配置し、会員からの相談に対応している。企業や起業家、投資家、支援機関など多様な主体を結びつけ、県内企業のイノベーションを促すエコシステムとして機能させていきたい」
「もう一つの重要な役割は『ハブ・アンド・スポーク』だ。県内の市町村やインキュベーション施設を結び、県外・海外の機関とのネットワークへと広げ、イノベーション創出を推進していく」
