-
業種・地域から探す
続きの記事
九州・沖縄 経済特集
サステナビリティー④/都市の求心力
都市や地域が発展に向かう中で、人や企業を呼び込む求心力は不可欠だ。地理や文化といった固有の要素は、ソフトパワーとして求心力を生む重要な要素になる。他方、社会の状況や考え方が移り変わるにつれてニーズも変わる。地域が擁する要素を最大限に生かしつつ、投資や制度を通じて魅力的な存在に転換することが大事なカギになる。
変わる福岡中心部/再開発で都市機能を強化
-
ワンビル内に西日本鉄道が開設した「天神福食堂」は、ビルのワーカーだけでなく来街者も利用できる
九州の最大都市・福岡市の中心部では、市主導の再開発促進施策が進む。老朽化した中小ビルなどを建て替える施策で、耐震性などを強化するほか、広い床面積と最新のテクノロジーで利便性を高める。民間資金を呼び込み、機能を向上することで国際都市としての成長につなげる。
市が進行中の再開発施策の2本柱が「天神ビッグバン」「博多コネクティッド」だ。地名を冠した2地区で中心市街地を刷新する。
目玉は容積率などの緩和だ。にぎわい創出やデザイン性、感染症対策といった機能を満たすと規制緩和の「ボーナス」が開発計画に付与される。国の「国家戦略特区」の枠組みで航空法の高さ規制緩和も実現する。空港に近く便利な半面、床面積を高さで稼げない福岡では開発業者にとって魅力的だ。天神地区では場所により建築高を40メートル近く伸ばせる。
天神地区では6月、高さ113メートルのオフィスビル「天神住友生命FJビジネスセンター」が竣工した。2023年完成の「福岡大名ガーデンシティ」の高さ111メートルを超えてエリア最高層となる。住友生命保険と福岡地所(福岡市博多区)が建設し9月開業予定だ。
天神ビッグバン/象徴的ビル完成
-
福岡県や福岡市はCIC Fukuokaに拠点を置いて協働する
4月には天神ビッグバンの象徴的施設の複合商業ビル「ワン・フクオカ・ビルディング(ワンビル)」が開業。天神を本拠地とする西日本鉄道が本社ビルや自社商業施設などを一体的に再開発した。商業施設とホテルなどで構成し、地域に向けた「食堂」も置いた。
10フロアの賃貸オフィス部分は西日本最大級の基準階面積4600平方メートルを誇る。国内や地場の大手が入居するほか、半導体関連の投資も追い風にして台湾など海外企業の誘致も視野に入れる。
国際的な企業支援施設「CIC Fukuoka」も入居しており、福岡県や福岡市が積極化するスタートアップ支援に対する追い風も生み出す狙いだ。
ワンビルには西鉄自身も本社を構える。本社機能の分散化なども検討したが、最終的に社員のモチベーション向上などを狙い移転を決めた。ビルのコンセプト「創造交差点」を自社で体現すべく、フリーアドレス制などの働き方改革のほか、社内外の交流を通じて新たな事業創出と成長につなげる。
博多コネクティッド/駅前・上空に新ビル
-
中央日土地博多駅前ビルは、ユニークな建築構造に加えて全室にバルコニーを設けて差別化を図る
「博多コネクティッド」が対象とするのは、JRなどが乗り入れる博多駅を中心としたエリアだ。駅前では西日本シティ銀行が新本店ビルを建設中。旧本店本館を建て替えた新本店の完成後、近隣の本店別館など2施設も連鎖的に再開発する。
JR九州も博多駅に複合ビルを建設する。駅南側の線路上空部に「博多駅空中都市プロジェクト」と銘打ち、高級ホテルやオフィスが入る施設を建てる。
6月に竣工したのは中央日本土地建物(東京都千代田区)のオフィスビル「中央日土地博多駅前ビル」だ。ユニークな構造で、以前の10階建てビルの地下部から地上2階までの駆体を再利用。免震層を挟んで13階建てビルに生まれ変わらせた。
従来の建て替えに比べて、解体と建築にかかる二酸化炭素(CO2)排出量を従来比でそれぞれ52%、37%削減。耐震性の向上と環境負荷の低減を両立した。
天神、博多ともに施策を受けた開発案件はまだ続く。都市の価値が高まるのに合わせて、オフィス賃料も上昇している。供給過剰を懸念する声もあるが、不動産関係者は「東京ほど急激に床面積が増えているわけではない。もし景況が悪くなっても、大きな落ち込みはないのでは」と見る。
九州観光機構/子どもの学びと観光受け入れ促進
-
九州観光機構は施策を通じてリピーターを伸ばす(唐池会長)
九州観光機構は2025年度、子どもが学校外で学びを深める活動「ラーケーション」の受け入れを推進する。ラーケーションはラーニング(学び)とバケーション(休暇)を組み合わせた考え方。平日に学校を休み、保護者との体験活動などを通じて学びを得る。制度を導入する自治体が増えており、役立つ情報提供などを通じて後押しする。
「レッツ・ラーケーション 学びの九州」を掲げて、秋にウェブサイトを立ち上げる。九州全域の「学べる目的地」を紹介したり、モデルコースを案内したりする。保護者が学校に提出する休暇届の「活動場所で学ぶこと」の記載に役立つ情報も提供する。さらに旅行商品を1人あたり3000円割り引く販売施策も実施予定だ。
このほか同機構の活動として、肉料理が集うイベント「にっくん 九州お肉の王国まつり」を26年3月に福岡市で再び実施する。2月からは先駆けて、福岡県内の商業施設などで連携イベントも開く。25年の開催分は4日間で5万人を集めた。
唐池恒二会長は「街を挙げてのお祭りにしたい」と意気込む。
