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九州・沖縄 経済特集
企業支援/力を引き出す
中小企業が持つ経済的インパクトは非常に大きい。国内企業の99%以上を占める企業数の面に留まらず、サプライチェーン(供給網)や地域社会における存在感の面でも同様だ。同時に中小企業が実力を発揮するために、伴走者による支援が大切な後押しになる。
柳川冷凍食品/IT活用で働き方変える
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柳川冷凍食品が自社ブランドで販売するパスタ製品
冷凍水産物の卸売りを九州一円で展開する柳川冷凍食品(福岡県柳川市)。加工食品の製造も手がけ、旅館や料亭、結婚式場などを顧客に持つ。水産物の目利きと加工ノウハウを発揮したパスタなど自社ブランド製品も人気だ。近年は冷凍、加工の能力を増強する設備投資に積極的。さらに実施した基幹システムの刷新では、中小企業基盤整備機構(中小機構)九州本部(福岡市博多区)の支援を受けた。
システム刷新の主な理由は老朽化。思うような運用ができなくなっていた。営業担当者が事務作業に時間を取られることや、本人だけが把握する業務内容があるなど属人性の高さも課題だった。
取り組みの中心となったのは、営業、事務、製造、商品管理の各部門から集まった8人で構成するチーム。多くの課題を出し、システムを核にした業務改善プロジェクトを開始した。
専門家と連携 特任チームが業務改善/LINEで発注、外出先で対応も
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スマホの活用が進み、外出先で対応できることが増えた
このプロジェクトに活用したのは、中小機構が実施する専門家を企業に派遣して伴走支援するハンズオン支援事業。着手した2022年は専門家と議論しながら構想を策定。23年から25年にかけて実行に移した。専門家は、同業他社でうまくいっている事例や標準的な方法も伝えるなど幅広い見地から助言した。
新システムではスマートフォンの活用が進み、営業担当者が外出先で対応できることが増えた。対話アプリケーション「LINE」での受注を可能にし、いつ何を発注したかが確認しやすくなった。LINEでの受注は全体の半分を超えた。会社に届いたファクスは外出中でもスマホで確認できる。営業と商品管理では特に情報の共有化が進む。
営業担当者は外出する時間が早くなった。また急に休んでも、当日に訪問する顧客やその順番などの情報も共有されており、別の担当者がフォローしやすい。
同社は25年4月のシステム刷新から3カ月で棚卸しの管理などではシステムの効果を感じ、繁忙期の12月の効果を特に期待する。また仕入れ先と請求書を確認する作業の効率化など次の課題に取り組む。
会社を挙げて目指している労働時間の短縮による残業ゼロや有給休暇の取得率向上などによるワークライフバランスの実現をはじめ、新商品の開発や製造への効果は今後出てくるとみる。
さらに将来は商品別の利益率を分析して戦略に反映させることなども想定している。藤木尚文社長は「システムを使いこなして売り上げと利益を増やし、従業員の生活を良くしていきたい」と語る。
中小機構では、こうしたIT活用に関する企業からの相談に対して、「IT経営サポートセンター」で幅広く対応している。
SING/シリコーンゴムに特化 食器・雑貨を製造
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中野社長は「シリコーンといえばSINGと言われたい」とさらなる成長を目指す
SING(シング、福岡県久留米市)は、シリコーンゴム製品の開発や製造に特化したメーカーだ。中野英司社長が「誰にも負けないゴムをつくりたい」と2011年に設立した。柔らかく耐熱性や保温性を持ち、台所用品などに用いられるシリコーン。その使用領域を広げるべく製品開発に力を入れている。
中野社長は船舶や工業向け大型ゴム部品を手がける家業のメーカーで技術を磨き、SINGとしてシリコーン事業を独立させた。
受注の約8割はBツーB(企業間)で、硬さや色、形などの要望に一貫生産で応える。小ロットのオーダーメードながら価格を抑えられる点が、品質を含めて信頼を得てきた。
多品種少量生産 柔軟な発想でモノづくり
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ユニークなデザインや多彩な色づかいがSINGのシリコーン製品の特徴だ(福岡県太宰府市のショールーム)
他方、福岡県太宰府市にある工場とショールーム、カフェを兼ねる拠点にはカラフルな食器や文具などが並ぶ。少量多品種生産で培った対応力で、自社や外部デザイナーのアイデアを形にした自社ブランドの製品群だ。
マグカップやボウルは磁器のように見えつつ、弾力ある肌触りがユニーク。電子レンジ、オーブンに対応する機能性も併せ持つ。
学生とのワークショップを通じて可能性を探る活動にも積極的で、富士山をモチーフにし、ちぎって使う輪ゴムなどを製品化した。
新たな試みの一つが西日本シティ銀行のキャラクター「ワンク」をデザインした独自グッズ開発だ。新入社員の実力向上を兼ねて公募に応じたところ、グランプリに選出。製品化に向けた最終段階までこぎつけた。
多面的な活動が実を結び、製品や自社の認知度は高まっている。「持ち込まれる依頼のレベルも上がってきた」と中野社長。他方、工場を訪ねてくる個人の相談にも快く応じる。「シリコーンといえばSINGと言われるようになりたい」と、柔軟な発想でモノづくりの可能性を広げることに力を惜しまない。
西日本シティ銀行/定期預金、一定額 子ども食堂に寄付 中小企業による地域支援 後押し
西日本シティ銀行は金融を通じた地域の活力づくりに取り組む。法人向け「NCBつなぐココロ定期預金」は、預金総額の一定割合を子ども食堂の運営団体などに年1回寄付する商品だ。中小企業が間接的に地域を支援できる仕組みで、2024年11月の開始以降、5カ月間で453億円の預金を集めた。1年目は福岡県をはじめ九州、中国地方の10県で計約750万円を寄付。2年目以降も寄付を続ける。
産業力を後押しする投資信託商品も登場した。「九州未来ファンド」は九州各県を代表する上場銘柄に、台湾積体電路製造(TSMC)などの株式を加えた30銘柄で構成する。
西日本フィナンシャルホールディングス(FH)などが開発し、西日本シティ銀行などグループ3社で販売中だ。九州を応援しつつ、資産の成長を目指せる商品としてすでに10億円ほどが運用中だ。
