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九州・沖縄 経済特集
シリコンアイランド /需要の波に乗る
台湾積体電路製造(TSMC)の進出をはじめ、半導体産業の集積が相次ぐ熊本県。国や業種を超えて、企業の立地やサプライチェーン(供給網)への参入の機運が高まっている。九州では「新生シリコンアイランド」の実現を目指し、需要の波を捉えた投資に加えて、産官学金の取り組みが活性化している。
半導体サプライチェーン/韓国からも注目熱く
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ダルマエレクトロニクスは玉名市と立地協定を締結。パク・チャンギュ社長(右から2人目)は熊本の半導体産業の隆盛に商機を見いだす
TSMCを筆頭に、熊本県内における半導体産業の集積では台湾の存在感が際立つ。他方、韓国の関連企業からも注目を集める。
半導体の検査事業などを手がける韓国ダルマグループの日本法人、ダルマエレクトロニクス(熊本県玉名市)。玉名市内の廃校を利用して工場を新設する。プリント基板の外観検査のほか、技術研修施設としての利用も想定する。1億円を投じて廃校の1382平方メートルを改修し、クリーンルームも設ける。
県北西部にある玉名市への立地は、菊陽町に位置するTSMCなどとの近さが決め手となった。パク・チャンギュ社長は「日本の半導体市場は2027年に急成長する」と見込み、できるだけ早期に工場を立ち上げる考えだ。
このほか、同じく韓国に親会社を持つタミコ熊本(東京都千代田区)も玉名市内で25億—30億円を投じる。半導体部品の洗浄および溶射工場を建設する。
工業用地の受け皿拡大/熊本県や菊陽町・益城町が整備
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菊陽町は6月、新たな工業団地の整備に向けて地権者説明会を開いた
こうした相次ぐ企業立地により、熊本の工業用地は不足している。熊本県は県全域の産業活性化を見据え、菊池市と八代市にそれぞれ25万平方メートル規模の工業団地を建設する。TSMCの工場周辺で課題となる交通渋滞についても、道路拡張などの対策を講じる。
県内自治体も用地造成に向けた動きを見せる。菊陽町はTSMC第1工場の近隣に24万平方メートルの工業団地を整備する方針だ。吉本孝寿町長は「地域経済の発展にとって重要な施策」と地権者らに説明。31年の分譲開始を目標に地権者との交渉を今後進める。
益城町は開発を進めていた約10万平方メートルの町営工業団地の予約分譲を始めた。高速道路や熊本空港に近い特徴を生かし、製造業や物流業の誘致を試みる。用地取得にかかる費用の補助制度も設けて積極的な進出を狙う。
土地とともに不足するのが産業人材だ。熊本県立大学は新学部設置も含めた教育プランの検討を始めた。27年の開始に向けて、秋頃をめどに方針を固める。半導体ユーザーの視点を備えた人材育成も視野に入れる。
また熊本大学や熊本県立技術短期大学も半導体に特化した教育課程を設立し、教育を進めている。企業進出に伴い、さらに必要とされる人材育成に各教育機関が力を注ぐ。
高まる参入機運/熊本 物流施設の開発続々
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TSMCの熊本工場周辺では、工業用地や物流設備を開発する動きが活発だ(熊本県菊陽町)
半導体関連の再集積が進む中、サプライチェーン(供給網)に参入を目指す動きが活発化している。
福岡に本社を置くリックスは、熊本県西原村に半導体製造装置の周辺機器を修理・再生する工場を建設する。グループとして兵庫県内に持つ修理機能を、大需要地である九州に拡大する。集積地近隣に工場を置くことで、対応の迅速性を強みに需要を取り込む。26年10月の稼働を目指す。
供給網に入って商機をつかもうとする企業に向けては、地銀の連携体「Q―BASS(キューベース)」が支援を積極化している。6月には京セラと共同で製造業向けセミナーを福岡市内で初めて開いた。
同連携体では、九州・沖縄・山口の地銀13行が半導体供給網の基盤強化を図るべく協働する。今回のセミナーは半導体製造装置部品の切削加工に関する情報提供などを目的にした。北九州市から参加したメーカー担当者は「情報網やマッチングが魅力的」として、Q—BASSの今後の活動に期待した。
モノの動きの活発化に伴う需要の取り込みも盛んだ。日本GLP(東京都中央区)は、熊本県菊池市で延べ床面積1万8000平方メートルの物流施設「GLP熊本菊池」を開発する。TSMCの工場が立地する菊陽町の北部に位置し、26年8月竣工を予定する。同大津町で「GLP熊本大津」も開発中で、25年内に竣工し近鉄系の企業に一棟全体を提供する計画だ。
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JR九州が菊池市に建設予定の賃貸用物流施設の完成イメージ(同社提供)
地場企業でもJR九州が賃貸用物流施設を菊池市に建設する。延べ床面積は約1万6800平方メートル、竣工予定は27年春だ。半導体関連を含めた需要を見込む。物流不動産を成長分野の一つに位置づけており、自社開発のほか既存物件の取得も九州各地で進めている。
このほか熊本では、多様な事業者による物流施設の開発案件が走る。さらに熊本県外でも物流需要を取り込む動きも見える。
宮崎県えびの市は「えびのインター産業団地」への企業誘致を進める。同市は宮崎県西部にあり、熊本と鹿児島の両県と接する。九州南部の中心的な位置にある立地を強みに、サプライチェーンを支えることを目指す。
すでに同団地には大型物流施設や物流企業が立地するほか、市内には機械系製造業、大手飲料メーカーの工場もある。市ではさらなる用地分譲を通じて、半導体関連を含めた多様な企業を迎えることを期待する。
