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地球環境特集
〔9面〕 過疎地の交通と電力を接続した新たなコミュニティー・インフラ事業モデル
【執筆】 日本総合研究所 創発戦略センター シニアスペシャリスト 瀧口 信一郎(たきぐち・しんいちろう)
京大院修了。米テキサス大経営学修士(MBA)。1994年4月日本総合研究所入社。専門はエネルギー政策/脱炭素政策/GX産業政策。著書に『カーボンニュートラル・プラットフォーマー』『工場の電力コスト削減』など。
過疎地では運転免許証返納後の高齢者の移動手段が問題になっている。国土交通省は2024年7月に「交通空白」解消本部を設置し、全国各地で地域交通計画策定、地域実証を進めてきた。しかし、過疎地の交通サービスは自治体の財政負担に依拠し、持続可能性に懸念がある。日本総合研究所では、交通と電力の地域インフラを接続した新たなコミュニティー・インフラの事業モデルを検討する「ReCIDA(Renewing Community Infrastructure in Depopulated Areas)コンソーシアム」を立ち上げた。ここでは、鳥取市佐治町での活動を紹介する。
過疎地の現状
過疎地では90歳の高齢者でも自動車を運転しないと生活ができない。このままでは、山間部の過疎地では生活が成り立たなくなる。
過疎地から街の中心部へ人を移すコンパクトシティー化を進めるべきだという主張も散見されるが、山間部では河川や森林の包括的なインフラ維持のためにも、人が住み続けることに意味がある。人が住めば、おのずとその周辺の自然に人の手が入り「適度な自然」が維持される。
森林や流域が適切に管理されれば、流木が放置されたり保水力の落ちた老齢木が放置されたりすることもなく、土壌がしっかりと維持されるため、洪水・渇水・土砂災害のリスクが低減し、社会コストが抑えられる。自然豊かな過疎地にも人が住み続けるためには、過疎地の交通サービスを維持しなければならない。
米国の森林保全政策の父であるギフォード・ピンショーは「自然を鑑賞物ではなく、社会と産業を持続させるための基盤資本である」と言った。人が山間部に住むためのインフラ投資は、産業と社会を長期的に維持することにつながる。
過疎地インフラの課題
過疎地の交通サービスの課題は、自治体予算への依存度が高いことだ。高齢者向けに、小型バスによる地域交通サービスを充実させたとしても、人口減少で乗客が減れば小型バスの稼働率が下がる。そうすると収益性が下がり、自治体負担が増す。その結果、小型バスの運行が縮小され、さらなる人口減少を誘発する。
この負のサイクルを断ち切るには、人よりモノに依存する事業モデルに切り替えることが望ましい。幸い山間部の過疎地では水や森林資源が豊富なため、水力発電、バイオマス発電などの再生可能エネルギーと連携していくことが考えられる。
新しいインフラ事業モデルの提案
そこで、当社では過疎地の交通と電力を接続した新たなコミュニティー・インフラ事業モデルを検討するReCIDAコンソーシアムを、25年2月に立ち上げた。過疎地での交通利便性を高めて生活環境や観光魅力度を向上させ、雇用の創出により流動人口を高めることを目指す。そのために交通の利便性と災害対応力を高め、収益を確保できるように交通と電力のインフラを再構築するのだ(図1)。
具体的には、主要な停留所を「交流結節点」と位置付け、人の集まる拠点とする。そこに充放電器、着脱式バッテリーステーションの「モビリティ蓄電インフラ」を設置し、電気自動車(EV)蓄電池を通じて電力グリッドと連結する仕組みである(図2)。
EVを蓄電池として使うアイデアは以前からあるが、収益化が課題だった。収益規模を確保するため「EVを使うにしても定置用蓄電池との連携」がポイントとなる。EVを貸して蓄電池も提供することで、交通が電力収益にもアクセスできるようになる。その上で、蓄電した電力を価格の高い時間帯に電力市場に販売して、電力事業の「収益性を高める」モデルを導入するのである。
鳥取市佐冶町での取り組み
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鳥取市佐治町で交通機関をEV化する実証実験を行った
このモデルの実装を鳥取市佐治町で検討している。佐治町は食料品店、ガソリンスタンドが撤退し、倒木による停電、河川氾濫一歩手前の出来事も発生し、生活インフラが弱体化している(図3)。EVは交通で使えるだけでなく、災害時の電力供給の役割も果たしうる。
現在、鳥取市や地域住民主体の交通サービス事業者である、民間非営利団体(NPO)のさじ未来と協力して、小水力発電の導入予定地周辺にモビリティ蓄電インフラを設置することを検討している。実証を行い、ガソリン車をEV化し(写真)、モデルを実装して実際に収益を上げることを優先すべきだと分かった。定置用蓄電池による事業を先行して立ち上げ、その基盤をもとに交通をEV化した上で、電力事業に接続していく方針に切り替えたところである。
今後の課題と展望
ほか地域の事例は、地域の人々の参考になり、勇気付けられる。佐治町で検討してきたモデルを事情の異なる地域でもトライアルし、汎用化を進め、多くの自治体に普及させていきたい。
