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地球環境特集
〔6面〕 排出量取引制度の義務化が社会に与える影響
【執筆】 地球環境産業技術研究機構 主席研究員 秋元 圭吾(あきもと・けいご)
横浜国大院工学研究科電子情報工学専攻博士課程後期修了、博士(工学)。1999年4月に地球環境産業技術研究機構入所。2012年より現職。東京科学大総合研究院特任教授兼務。総合資源エネルギー調査会、調達価格算定委員会委員など。専門はエネルギーシステム工学。
「GX—ETS」 26年度から開始
日本政府はグリーン・トランスフォーメーション(GX)政策の一環として、GX—ETSと、炭素に対する賦課金という二つの炭素価格政策を進めようとしている。排出削減義務を持つGX—ETSは26年度から、炭素に対する賦課金は28年度から導入される。
GX—ETSは25年度までは第1フェーズとして自発的な参加となっていたが、26年度の第2フェーズからは義務的な参加となる。25年12月までに、その具体的な制度設計がほぼ終了した。初期排出枠は無償で割り当てられるが、発電事業者については33年度以降、段階的に有償オークションでの排出枠調達となる。
GX—ETSはCO2の直接排出量が前年度までの3カ年平均で、10万トン以上の事業者が対象。対象事業者は排出枠(キャップ)が割り当てられ、排出削減を義務的に求められる。必要に応じて、排出枠のトレードを行って、経済効率的に排出削減を実現できる。ETS制度は「キャップ・アンド・トレード」とも呼ばれる。
初期排出枠は原則としてベンチマーク方式で割り当てられるが、ベンチマークの設定が難しい業種は基準年の排出量から一律での削減となる「グランドファザリング方式」が適用される。ベンチマークは当該業種の平均的な(50%水準)CO2原単位に対して、5年間で32・5%水準まで引き上げられ、これが対象事業者の事実上の排出キャップとなる。グランドファザリング方式を適用する場合は、年率1・7%で排出枠が低下していく。
排出枠の取引を介すことで、理論的には費用効率的な排出削減となる。排出枠の取引の市場均衡価格が炭素価格となるが、変動を抑制するために、上下限価格としてCO2 1トン当たり1700—4300円と設定された。これは26年度時点の価格であり、年率3%+物価変動分で調整される方針が示されている。
事業者や産業への影響
GX—ETSの対象事業者は、炭素価格以下で実現可能な対策を進めることが経済合理的であり、他方、その対策費用の負担は生じる(図)。炭素価格以下の自社対策では、割り当てられた排出枠を満たせない場合、市場を通して排出枠を購入することとなる。逆に割り当てられた排出枠以上に炭素価格以下で削減できる余地があれば、その差分の排出枠を売却することが合理的な行動となる。
排出削減対象は直接排出だが電力は発電事業者に義務が課せられるため、電力料金へのコスト転嫁を介して、同制度対象事業者のみならず間接的に広く負担することとなり、電力価格上昇に応じた省電力行動が求められる。また、そのほかの対象事業者も製品へのコスト転嫁がなされ、より低炭素な製品の選択が経済的に求められていくこととなる。
炭素価格水準が上がっていけば、同制度対象外の競合企業がいる場合、料金転嫁が難しくなって企業収益が悪化する恐れもある。また国際競争にさらされている企業も、料金転嫁の難しさが懸念事項である。
本来、省エネルギーや、石炭・石油からガス・電気などへのエネルギー転換などの対策で排出削減を行うべきだが、生産活動量の低下によって排出枠を満たす方が合理的となる可能性もある。政府の制度設計では、そのための配慮も一定程度行われてはいるが、制度実施段階で企業行動に目を配っていく必要がある。
