メカトロテックジャパン２０２５（2025年10月）

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　工作機械見本市「メカトロテックジャパン（ＭＥＣＴ）２０２５」が１０月２２日から２５日までの４日間、ポートメッセなごや（名古屋市港区）で開催される。今回は過去最多の出展者数となり、早期に出展申し込みを締め切るなど産業界からの期待も大きい。「この発見、激アツ！」をテーマに各社が多数の実機を展示する。工作機械、鍛圧・板金機械、自動化やＩｏＴ（モノのインターネット）にまつわる新製品が一堂に会する。主催はニュースダイジェスト社（名古屋市千種区、八角秀社長）、愛知県機械工具商業協同組合（同熱田区、水谷隆彦理事長）との共催。

高速・高精度を実現する複合精密ＣＮＣ旋盤

【執筆】 中村留精密工業 販売促進部 マーケティング課　マネージャー 掛山 拓朗

　製造現場は今、かつてないほどの変化に直面している。自動車、医療、半導体といった幅広い市場において、部品の小型化・高精度化が進展している。それに伴い部品形状の複雑化も加速している。同時に需要やニーズの変化により、大量生産から多品種少量生産への移行も進む。さらに熟練人材の不足やコスト高騰も重なり、現場は「速さ」と「精度」を両立させながら、多様なニーズに応える製品を供給しなければならない。これらの課題に対応するべく、当社は新たな複合精密コンピューター数値制御（ＣＮＣ）旋盤を開発した。同機は工程集約によって高速かつ高精度な生産を可能とし、現場の負担を大幅に軽減する新たなソリューションとなる。

製造現場の課題

　多くの製造現場でスペースとレイアウトの制約が課題となっている。多品種少量生産に対応するため工程分割すると、設備や洗浄ユニット、搬送装置などの周辺機器が増え、工場スペースを圧迫する。動線は複雑化し、搬送のムダが生じる。特に多品種少量の生産現場では結果として生産性が低下する。さらに設備の増加は固定費やメンテナンスコストを押し上げ、利益を削る要因となる。

　次に、品種が増えると段取り替えが頻発する。工具交換や治具調整には多くの工数を要し、熟練者のスキルに依存する部分も大きい。特定の技能者への属人化が進むと、人員の休暇や異動がそのまま生産リスクに直結し、計画達成率を不安定にする。

２スピンドル２タレット構造

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　「ＮＴ－Ｆｌｅｘ＝写真１」は中村留精密工業がこうした課題を解決するために開発した２スピンドル・２タレット構成の複合精密ＣＮＣ旋盤だ。奥行き１・３８メートルのコンパクト設計ながら、旋削からミーリング、ねじ切り、ギア加工までを一台で完結できる。

　上タレットにはＹ軸、上下タレットには最大で毎分１万回転の高速ミーリング機能を選択でき、面取りやバリ取りを含む多工程をまとめて一貫生産できる。

　中村留独自のアイドルタイム削減機能「クロノカット」は、加工条件に手を加えない。精度に影響を及ぼすことなく、サイクルタイムの短縮を実現する。製品加工には「切削時間」と「非切削時間」がある。非切削時間は工具交換など切削を行っていない時間で、利益を生まない時間である。この時間を極限まで縮めるために開発された機能だ。

　旋削工具・ミーリング工具を含め最大９６本の工具を搭載可能な構造だ。パーマネントツーリングにより、多品種生産においても段取りの頻度と時間を大幅に削減し、稼働停止を防ぐ。

温度に対応する機能と構造

　熱変位補正ソフト「ＮＴ　サーモナビゲーターＡＩ」により、温度変化による寸法誤差を抑制。長時間加工でも安定した精度を維持する。

　熱変化に素直に応答するようフレーム構造を新たに設計した。さらに冷却装置により主軸ユニットやインデックスユニットの温度上昇を防ぎ、１日を通じて安定した加工精度を実現する。

　また、異常負荷検知機能「エアバック」が万一の衝突時もダメージを最小限に抑え、設備稼働を守る。

プログラミング効率の革新

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　複合加工機向けに開発された対話型数値制御（ＮＣ）プログラミングソフトウエア「Ｐｒｏｔｏｎａ（プロトナ）＝写真２」は、従来の対話型に比べて直感的でシンプルな操作性を備え、複合加工機特有のプログラミングのハードルを大きく引き下げる。これによりオペレーターの負担を軽減し、多品種生産における効率を大幅に向上させる。

　ＮＣプログラム作成支援ソフトウエア「３Ｄ　Ｓｍａｒｔ　Ｐｒｏ（スマートプロ）／同ＡＩ」はＣＡＤデータから直接ＮＣプログラムを生成し、図面変更にも即応可能だ。プログラミングの属人性を排除し、初品から安定稼働を実現できる。

加工の自由度高めた新型機開発

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　複合精密ＣＮＣ旋盤ＮＴ—Ｆｌｅｘにさらなる柔軟性を加え、より幅広い製品加工に対応するため、新仕様「ＮＴ—Ｆｌｅｘ＋（プラス）＝写真３」を開発した。Ｒ側主軸にＸ軸、下タレットにＹ軸を追加。上下Ｙ軸による同時加工や、重畳加工による３工具同時加工が可能となり、生産の自由度が大きく広がった。さらにオプションで退避式ＮＣテールストック（写真４）を選択すれば、長尺や薄肉ワークの安定保持も容易となり、干渉回避性の向上とあわせて加工工程の自由度が飛躍的に高まる。

　同機では、ＮＴ—Ｆｌｅｘが持つ高速・高精度を支える機能や構造をそのまま継承しつつ、上下Ｙ軸、Ｒ側主軸Ｘ軸、オプションの退避式ＮＣテールストックを付加することで、より高度で効率的な複合加工を実現する。結果、多品種少量から量産まで、従来以上に幅広い部品加工に対応可能となった。

半導体部品、機械用シャフトの加工事例

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　ＮＴ—Ｆｌｅｘ＋によって実際に高速化と高精度を両立した加工事例を紹介する。

　ステンレス鋼「ＳＵＳ３１６」材料で直径１４・５ミリ×長さ１５ミリメートルの半導体部品加工では従来、工具寿命が短く、ミーリング工程がボトルネックとなっていた。同機の上下Ｙ軸ミーリングを活用することで、加工時間は１１分３秒から８分１２秒へと約２６％短縮。チャッキングを油圧で確実に行えるため、高剛性ミーリングにより工具寿命も延長し、段取り替えのタイミングも予測しやすくなった。

　機械構造用鋼「Ｓ４５Ｃ」材料で直径１４・５ミリ×長さ１５０ミリメートルの機械用シャフト加工事例では、従来は下タレットに回転センターを取り付けてシャフトを支え、上タレットで加工を行っていた。このため、ロアタレットは加工に使用できなかった。同機では退避式ＮＣテールストックでシャフトを保持しながら、左右主軸と上下タレットによる同時加工を実現した。サイクルタイムは従来の４分４１秒から３分３０秒へと約２５％短縮し、後工程での手直しも大幅に減少した。高精度と高速加工を両立した（写真５）。

　このほか、市場の変化に伴い、製品ロットは数万から数千へと減少し、多品種少量生産への対応が求められるケースが増えている。従来の量産体制では、自動盤における段取り頻度の増加が課題となり、生産効率の向上が難しかった。複合精密ＣＮＣ旋盤を導入することで工程を集約し、加工方法や工具本数にも余裕が生まれ、段取り時間を大幅に削減できる。さらに省スペース化によりレイアウトを再設計でき、少人数でも多機種運用が可能となった。

機械が自ら提案する時代へ

　複合精密ＣＮＣ旋盤ＮＴ—Ｆｌｅｘは、自動車用の小径シャフトやハウジング、医療分野の精密部品、半導体装置の部材など、幅広い分野に対応する。生産全体で高速と高精度を両立させるためには、独自開発した「Ｐｒｏｔｏｎａ（プロトナ）」のような対話形式のプログラミングシステムや、３Ｄモデルからの形状読み取り、自動工程設計、加工条件設定といった機能により、生産性の高いＮＣプログラムを迅速に生成することが重要となる。また、人材不足が深刻化するなか、熟練者がいなくても安定して対応できる製品を提供することが不可欠である。

　そのためには、ＡＩ（人工知能）がこれまで培ってきた生産技術やノウハウを学習し、最適な生産方法を機械自身が提案する仕組みが求められる。近い将来、常に効率的かつ安定した高速・高精度加工を、機械が自ら提案する時代へと突入していく。

現場負担の軽減に向けて

　現場の課題は、スペース不足、段取り替えの多さ、人材不足、そして複雑化するプログラミングにある。その解決には、工程全体の再設計が不可欠だ。一台完結の多機能性と段取り時間の短縮、高剛性ミーリング、ＡＩ補正、対話型プログラミングを融合させることで、分断された工程を統合し、高速かつ高精度なものづくりを実現する。

　変動が常態となった時代において、「速さ」と「精度」を安定して両立できることこそ、競争力の源泉である。複合精密ＣＮＣ旋盤ＮＴ—Ｆｌｅｘは、その問いに対する明確な答えであり、現場の負担を削減する架け橋となる。