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工作機械産業
工作機械に使われる材料の工夫とその効果
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東京大学大学院 工学系研究科 教授 杉田直彦
【執筆】東京大学大学院 工学系研究科 教授 杉田直彦
工作機械の構造体は鋳物部品が主流となっているが、そのコストや製造工程における環境負荷から、現在では中国をはじめとした海外からの調達が主流となっている。地政学的リスクを考慮すると、構造体を安定して開発・供給できる体制を整備する必要がある。鋳物部品の代替として、ミネラルキャスティングが注目されている。工作機械の性能を左右する減衰能の高さなどの性能面で優れているほか、製造時に熱源を必要としないため、二酸化炭素(CO2)排出量の抑制にも効果がある。
はじめに
欧州ではすでにミネラルキャスティングが使用されているが、ほかの地域ではまだ市場導入の初期段階にあり、全世界的には開発競争の段階にある。日本ではヒノデホールディングス(HD、福岡市博多区)がミネラルキャスティングの国産化を進めており、2024年に量産をスタートしている。
ここでは、省エネルギー化につながる工作機械の要素技術として、ミネラルキャスティングを用いた構造体の取り組みについて紹介する。
鋳鉄とミネラルキャスティングの違い
工作機械の高速化・高精度化の現状は、ソフトウエアによる制御が中心である。機械本体の材料・構造的制約(剛性や振動、熱特性など)の中で、振動をモニタリングし、フィードバックすることで、必要な精度が出せる最大の速度を実現している。
欧州のハイエンド機ではミネラルキャスティングが用いられており、良好な機械特性が得られている。図1に鋳鉄とミネラルキャスティングの特性の違いを示す。欧州のハイエンド機よりもさらに高精度・高速化を実現するためには、各部材特性に適した最適な材料の選定(減衰性と剛性のバランス)に加え、高剛性と高減衰性を両立させた構造材の最適設計が必要となる。
ミネラルキャスティングはさまざまな大きさの人工鉱石を骨材とし、エポキシ樹脂で結合させた複合材料である。骨材の鉱石は大きい径を持つものだけでなく、粒子状の鉱石を加えることで充填密度を高め、ミネラルキャスティングに外力が加わった場合に力を分散させる構造となっている。
新たな構造体の提案
筆者らはさらなる高精度・高速化に向けて、ヒノデHDと共同で「鋳鉄×ミネラルキャスティングのハイブリッド材」を提案している。これはミネラルキャスティングの減衰性を生かしながら剛性を高めた材料だ。
鋳鉄とミネラルキャスティングの複合方法は無限に存在するため、単純にミネラルキャスティングを充填するのではなく、剛性と減衰のバランスを保ちながら構造材を設計することが重要になる。そのため、最適なミネラルキャスティングの配置を解析と実験によって検証しながら提案している。
図2に同社による機械コラム部分の最適化(剛性と減衰性の両立)を示す。リブで構成されている構造をトポロジー最適化などの手法を用いながら形状を最適化し、ミネラルキャスティングを充填して特性を向上させる。この際、製造可能な形状であることが制約条件となる。
図2の例では高剛性化により機械の変形(最大振幅)を抑え、ハイブリッド化による高減衰化で振動収束時間の低減を狙っている。結果として、振幅の収まる時間が約60%削減され、機械の高速化が望める結果となった。
おわりに
日本の工作機械産業は30年には足元の1・6倍(21年比)となる2・5兆円まで需要増加が見込まれる中、鋳物部品は中国依存が高く、供給不安がある。そのため、鋳物代替としてミネラルキャスティングを導入し、工作機械の安定的な供給力を確保することが重要である。