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工作機械産業
バーチャルリアリティーを用いた 旋削加工の教育訓練
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滋賀県立大学 工学部機械システム工学科 准教授 橋本 宣慶
【執筆】滋賀県立大学 工学部機械システム工学科 准教授 橋本 宣慶
近年、旋削盤をはじめとする工作機械の操作訓練は、安全性確保や経済的制約のため十分な反復訓練が困難となっている。それに対し、仮想現実(VR)技術を活用した訓練システムは、実機と同等の操作体験を安全かつ低コストで行えることから、その有効性が各方面で示唆されている。ここでは旋削加工におけるVR訓練システムの利点や具体例、切削シミュレーションモデルについての概要を述べる。
安全で低コスト/臨場感の高いVR訓練
従来の実機による訓練では、高速回転する工具や鋭利な切りくずに起因する作業者のけがのリスク、機械の維持費などの問題が顕在化している。これらの課題に対して、VRの利用は実機の危険性を排除しつつ現場に近い感覚での訓練が可能で、維持費も低減できる。これにより、技能継承を担う新規作業者の技能習得や大学生などの新規技術者の実習において、安全で低コストな教育が実現されると考えられる。
加工作業に限らず多くのVR訓練システムは、両手に持つコントローラーで操作するため、専用のハードウエアを追加する必要はないが、触覚の再現は限定的である。筆者らの研究では、仮想空間内で切削に関わる工具や加工対象物(ワーク)を再現し、これを実機(汎用旋盤)と連動することで、現実に近い送りハンドルの操作感覚を提供し、臨場感の高い訓練環境を構築している。さらに、モーションキャプチャー技術の併用により、作業者の行動を監視することで機械の正しい操作方法の習得のみならず、実作業では重大な事故につながる危険行動への注意喚起も可能となる(図1)。
リアルタイム処理で微細形状を再現
コンピューター利用製造(CAM)やコンピューター利用解析(CAE)分野で広く利用されている切削加工シミュレーションに対して、VR訓練システムではリアルタイム処理を要求されることが大きな違いである。近年、並列演算装置による高速演算技術の進展により、基本的には単純なシミュレーション処理で十分な性能が得られるようになった。
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図2 八分木ボクセルモデルを用いた切削
シュミレーションの例
フライス加工の場合、回転する切れ刃の軌跡の形状を離散的に処理することで十分な再現性が得られる。一方、旋削加工においては切れ刃の軌跡が連続的に変化するため、複雑な処理が必要とされる。筆者らの研究では「八分木ボクセルモデル」によって構築した工具とワークに対して、工具軌跡に応じたワークとの接触判定や切削による形状変化の処理を行うことで、送りマークのような微細な形状を再現する手法を提案している(図2)。
このように、VR技術を活用した訓練システムは実機訓練に伴う安全性や経済性の課題を解決し、現場に近い操作体験を提供する有効な教育手段である。特に、実物の汎用工作機械やモーションキャプチャー技術などの従来の技術と最新技術を組み合わせることで、操作の正確性や安全性に対する注意喚起が実現され、訓練効果の向上が期待できる。
技能継承・安全教育の基盤
今後は旋削加工における連続的な切削処理の精度向上、多機種への展開、さらにはAI(人工知能)を用いた初心者の疑問への応答など、システム全体の高度化が期待される。これにより、より多くの現場で技能継承や安全教育の基盤として、VRシステムの普及が進むことが予見される。