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神奈川県特集
企業・大学・研究機関が集積 広がる可能性
サステナブル(持続可能)な社会を実現するためのインベーション創出に向け、神奈川のポテンシャルが注目されている。企業や大学などの研究機関が集積するといった特徴から、地域内で新たなアイデアや技術の融合が進み、先端技術の実証実験も活発。先端半導体の技術開発に向けて産学連携の機運が高まるほか、脱炭素関連では神奈川発の次世代太陽電池の普及拡大が期待される。電気自動車(EV)の開発を支える県内企業の製品・技術も高度化している。
先端半導体、産学連携で社会実装
世界的な生成AI(人工知能)ブームを背景に今後のさらなる成長が期待されている半導体産業。半導体関連の企業や研究機関が数多く集積する神奈川県は、日本の半導体産業で重要な拠点の一つとなっている。
県内には特に横浜市や川崎市を中心に半導体関連企業が集積し、企業間連携や技術交流が活発に行われている。また大学や研究機関も集積することから、最新の技術や製品が生まれやすい環境が整い、産学連携を通じたイノベーション創出が期待されている。
AIに求められる半導体処理能力の飛躍的な向上に向け、現在研究開発が活発になっているのが半導体製造の「後工程」の分野。チップの性能を高めるため、複数のチップを一つのチップのように積層するなどの先端パッケージング技術が注目を集めている。
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横浜国立大学は「半導体・量子集積エレクトロニクス研究センター」を設置し、先端半導体分野の産学連携を推進する -
神奈川県内の半導体関連企業と大学は共同で子どもたちに半導体の製造工程を伝えるイベントに出展した
横浜国立大学は2024年6月に、学際領域横断型の研究組織である総合学術高等研究院(IMS)に「半導体・量子集積エレクトロニクス研究センター」を開設した。機能の異なる複数のチップを一つの基板に集積する「チップレット」など、後工程の技術開発に取り組み、企業とも連携して社会実装を目指す。
半導体関連の企業や大学が連携し、次世代の半導体関連人材を育成しようとする動きも盛り上がる。神奈川県内に拠点を置く半導体関連の企業と大学の9者は1月に、横浜・みなとみらい地区で開かれたテクノロジー関連の交流イベント「YOXO(よくぞ)フェスティバル2025」に初めて共同出展した。将来の人材育成に結びつけようと、半導体の製造技術などを子どもたちに分かりやすく伝える取り組みを実践した。
同イベントにはレーザーテックやレゾナック、関東学院大学などが出展し、各ブースで技術実演やゲーム、体験型ワークショップを提供した。検査・計測やメッキ処理など、半導体製造に必要な要素技術を遊びながら学べるイベントとして人気を集めた。
次世代太陽電池/ペロブスカイト電池 県内で実証実験
50年までに二酸化炭素(CO2)排出量をゼロにするカーボンニュートラルの実現にはより一層の技術革新が不可欠。そうした中、次世代の薄膜型太陽電池「ペロブスカイト太陽電池」(PSC)の実用化に期待が高まっている。
PSCは柔軟で軽く、既存の太陽電池が設置できない外壁や耐荷重の小さい屋根などに設置できるといった特徴を持つ。太陽電池の設置面積を大幅に拡大することにつながる。発電効率を高めたり、製造コストを抑制したりする研究開発も活発になっている。同電池は桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授が開発した技術として知られる。脱炭素実現のための神奈川・横浜発のイノベーションとして地域の期待も高く、神奈川県内では実証実験が活発に行われている。
神奈川県は24年度に、日揮(横浜市西区)などと共同でPSCの実証実験を同県藤沢市の江の島で開始した。江の島の庭園「サムエル・コッキング苑」内に同電池を設置して発電データや耐久性、信頼性などを検証。観光地として人気のある江の島で実証することで、PSCの普及啓発にも結びつける。
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横浜港大さん橋でのペロブスカイト太陽電池の実証実験
また、港湾施設の過酷な環境下でPSCを活用する実証実験も横浜港大さん橋(横浜市中区)で行われた。同実験はマクニカ(同港北区)などが国の支援を受けて実施したもので、30センチ×100センチメートルの大判PSCモジュールを大さん橋の屋上広場に70-80枚設置。高湿度で塩害のリスクもある港湾施設内でPSCを運用し、発電効率や耐久性、取り扱いやすさなどの検証に取り組んだ。
県は25年度当初予算案での脱炭素分野の取り組みとして、PSCの早期普及に向けて県民への啓発を伴う実証実験を補助する事業などを新規に盛り込んだ。また実証実験の支援や実証フィールドの提供だけでなく、さらなる発電効率向上に向けた県内企業の研究開発プロジェクトの支援も進めており、今後の成果の輩出が期待されている。
車載機器の電気・電子化支える/サステナブル社会に貢献
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菊水電子工業の充電/放電多目的コントローラー「KEV1000シリーズ」
電子計測器や産業用電源機器が、自動車の電動化を推し進める各種電装品の開発、性能評価で活躍している。ハイブリッド車(HV)に続いてEVが普及期を迎え、電気・電子化が進む車載機器の電源試験ニーズは高まるばかりだ。
菊水電子工業は世界各国のEV規格に対応する充電/放電多目的コントローラー「KEV1000シリーズ」を製品化している。EV充電システムのほか、外部施設などと相互連携するビークル・ツー・エックス(V2X)システム、車両開発における充放電時の通信異常チェックなど、EV関連の各種試験・評価ニーズに応える。
また、直流安定化電源の電力供給と電子負荷の電力放電を1台でこなす双方向大容量直流電源では、3U(1Uは高さ44・5ミリメートル)サイズの筐体で定格電力20キロワットの大容量を実現した「PXBシリーズ」をラインアップ。双方向の特徴を生かし、二次電池の評価も充放電パターンを任意に設定して1台で模擬できる。さらに最大10台を並列接続し、200キロワットまで電源試験が可能だ。
菊水電子工業は自動車産業にとどまらず建機・農機、航空機産業などにも電源機器や評価試験システムを納入しており、サステナブル社会の構築に貢献している。