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第55回機械工業デザイン賞 IDEA
審査委員会特別賞
【アーステクニカ】 自走式破砕機 SEASER
建設工事でなど副次的に発生するコンクリート塊やアスファルト塊などを、再生骨材や再生合材としてリサイクルできる自走式破砕機。異物混入の際、金属などの異物を排出し復帰する「異物自動排出機構」付き新型ジョークラッシャー(破砕機)を搭載した。ダウンタイム(運転停止時間)の最小化を実現。さらに機械の重量低減とサイズのコンパクト化により一体輸送を可能にし、現場ですぐに稼働できるなど運用性能を高めている。
本製品はエンジンの回転エネルギーをダイレクトに伝達する駆動方式「NCD方式」の採用により、大幅な機械効率と燃費向上を実現。従来比10%以上の省エネルギー性能を高めた。異物自動排出機構付きジョークラッシャーの破砕室形状をV型にすることで、破砕をスムーズにし、従来比で20%能力をアップした。異物が混入した際、油圧シリンダーによる異物排出機構により異物を取り除いて機械を停止せず稼働を続けられ、ダウンタイムの最小化を実現した。処理能力は1時間当たり最大120トン、本体重量33トンで走行用クローラーを採用している。
機械操作は専用に画面設計されたタッチパネルで簡単に操作できるほか、リモコン操作での稼働を可能としている。ジョークラッシャーは固定側歯板の裏に油圧ラムを標準装備し、主要部品である歯板交換作業がしやすいように保守性に配慮した。重機からの投入を容易にする2650ミリメートル幅のホッパーの採用や、本体のコンパクト設計による一体輸送の実現などにより、作業性の向上を実現した。
本製品は1台に供給ホッパー、振動フィーダー、ジョークラッシャー、エンジンユニット、磁力選別機、製品排出コンベヤーを搭載。供給—破砕—排出の各機能ユニット順に装置が並び、本体下部に走行用クローラーを装備する自走式破砕機の造形を示した。カラーリングは供給ホッパーと排出コンベヤーのグリーンと、エンジンユニット周りとクローラーの黒、ジョークラッシャー部のホワイトの3色を用い、堅牢感や信頼感などをデザインする。一方で粉塵対策に配慮した操作系表示部分の造形処理や、保守・点検箇所における色彩機能の効果的な使用などは改善点として再確認するのが望ましい。
本製品はNCD方式の駆動方式と、V型ジョークラッシャーの破砕室形状を採用し、省エネ性能や処理能力を向上させ、破砕困難物を自動排出する機能を有する。一体輸送できるコンパクト設計で、破砕処理を省エネで効率よく行うため①定置式設備から移動式設備への転換②処理量重視から運用のしやすさ—を目標として開発された。都市部の再開発や老朽化したインフラ更新需要が増加の一途をたどるなかで、今後大きな競争力を発揮すると期待される。
【コマツNTC】 大型立形NC機 KV420L
アルミニウム合金で電気自動車(EV)車体を一体成形するギガキャストは2020年、米テスラが「モデルY」のリアアンダーボディー製造に採用して以来、関連業界に大きな衝撃を与えている。本製品は量産向けに進化させてきたマシニングセンター(MC)をベースとした、ギガキャスト加工に対応できる大型の立型数値制御(NC)5軸加工機。多品種少量生産ラインを前提とし、1台で全ての加工工程を完結できるマシン構成とした。課題解決に向けて挑戦した結果、一定の完成度を有しており、今後のさらなる展開が注目される。
本製品は前後(Y軸)、左右(X軸)、上下(Z軸)に動く主軸を左右に2基装備しているほか、独立式のユニバーサルヘッド(A軸、C軸)で2軸制御が行える。X軸で回転するチルトテーブルがY軸にも動くY3軸(治具チルト軸)を備え、さまざまな角度での面取りや穴加工、バリ取りなどの裏面加工が可能。スペースを抑えながらワンチャックで大物部品を6面加工できる。
モーター内蔵の高速主軸は1分間に最大2万回転。軽量化設計により工具やユニットの移動速度は同100メートルと最大67%の高速化を実現した。また左右合わせて工具を80本収納可能で、高速自動工具交換装置(ATC)により生産性と効率性を向上させた。Y3軸を設けることにより、主軸側移動軸との連携で加工範囲が広がり、相対速度は1分間に140メートルを実現した。
加工機の前面に加工室の全てが見える窓を設置したほか、背面開口部のサイズを可能な限り大きくし、メンテナンスをしやすくした。加工機の左右の両端にATCマガジンを配置し、工具交換での高所作業をなくし安全性を向上。直下式切りくず処理の採用でメンテナンスフリーを実現した。設置スペースは他社の類似製品と比較して約27%削減のコンパクト化により面積生産性を向上させた。
マシンの造形はギガキャスト加工を踏まえて「Box—on—Box」構造を採用し、軽量化とコンパクト化をデザインした。直下式の切りくず処理ができる構造を採用して保守性に配慮した。しかしながら、ギガキャスト加工機として堅牢感をデザインしているが、ダークグレー基調でコーナー部をホワイトとするカラーリングは、再考の余地を残す。
100年に一度の大変革と言われる自動車業界では、さまざまな技術体系やビジネス再構築策が検討されている。本製品は一般的な5軸制御MCに求められる要求精度に加え、「どのようにして作るのか」といった技術革新のあり方が問われた。モノではなくコトのデザインの重要性が増すことを意味しており、ハードとソフトの融合実現に向けた姿勢が求められる。
【日清工業】 立型両頭平面研削盤 VP3—400RW
欧州市場の深耕向けにデザイン性を強化した、インサートチップ専用の立型両頭平面研削盤。上下の砥石(といし)と砥石を整えるドレッサーを備えた本体に加え、加工対象物(ワーク)の搬入・搬出を効率的に行うインデックス式のダブルフィーダーシステムを搭載する。加工物搬出入ロボットにより長時間の無人化運転ができる。
主軸は傾斜機構を内蔵した「高剛性クイル式主軸ユニット」を搭載し、回転駆動にACスピンドルモーターを採用した。1分間に最大1200回転し、外径450ミリメートルの砥石により1マイクロメートル程度の高精度な上下両面高速研削性能を持つ。上下の砥石面を同時に整える「ツインロータリードレス装置」が組み込まれ、余裕あるインターバルで完全自動のドレス加工を実現する。研削モードは両面同時研削に加え、片面交互研削や片面研削にも対応する。さらに水平多関節(スカラ)ロボットを核にして180度並列するキャリアインデックス装置を採用し、効率的なワーク搬送を実現した。フィーダーの揺動にはACサーボモーターを用い、最大1000個の加工物を搬送できる。
機械本体の両側に加工物を載せたパレットを10枚(最大20枚)セットできるストッカーを装備する。構造を一新して本体に合わせストッカーの全高を1400ミリメートルに調整。正面から見た時の圧迫感を抑えて機械後方への見通しを改善し、安全性や操作性を高めた。上面は透明カバーで覆いパレット残数などの装置状態を確認しやすくした。可動式の操作盤は、機械動作が伴うものは物理的なボタン、動作条件の設定などはスクリーン上のタッチボタンとして分け、安全性と操作性に配慮。制御盤は上下高さが調整可能な稼働アームを採用し、作業頻度の多い正面から側面までを操作しやすいポジションに設定できる。
完全箱型ベッドと完全クイルスライド方式の高剛性主軸構造を採用し、ツインのパレットストッカーを持つ構成とした。新たな市場開拓と海外需要の拡大に向けて、特徴的な板金加工の開閉式安全カバーを採用。剛性を確保するためリブを設けヒンジ構造で取り付け方法を工夫した。さらにシグナルラインライトを内蔵するなど新規性のあるデザインにこだわった。ただ、ツインのパレットストッカーのシンメトリックなマシン構成要素に対し、コンパクト化にこだわる変則的なカバー扉の採用は、トータルとしてバランス感に欠ける点が惜しまれる。
本製品はメンテナンス性と見た目のバランスを意識している。マシン両側に配置したパレットストッカーは、機械的な印象を感じさせない家電のようなイメージとしたが、優先順位として剛性のある立型両頭平面研削盤としてのデザインが求められる。
【福岡市交通局/川崎車両】 地下鉄4000系車両
地下鉄4000系車両(6両編成)は「一人ひとりにやさしい移動空間」をコンセプトに、ユニバーサルデザインに最大限配慮する。各号車に車いすやベビーカー利用者のための優先スペースを設置したほか、6号車には子ども連れや大きな荷物を持つ人のためのフリースペースを設けて、すべての乗客が快適に利用できる環境整備に力を入れた。
主電動機には定格出力190キロワットの3相同期リラクタンスモーターを世界で初めて本格導入した。回転子鉄心内の磁気抵抗差によって生じる磁極との相互作業で発生する力だけで駆動するため、省エネルギー効果がある。また、永久磁石を用いた永久磁石同期電動機(PMSM)では必須だった惰行中の誘起電圧対策が不要になるため、システム構成がシンプルになりメンテナンス性が向上した。台車には安全性・静粛性に優れたリンク式片軸操舵台車を、車輪には片側ゴムサンド式防音波打車輪を採用し、曲線通過時のきしみ音などの不快音を抑制して静穏性を高めた。地下鉄で初めてリアルタイム機能付きの車内防犯カメラを設置。各号車に4台あり、運転台と地上の運輸指令の映像確認により、異常発生時の迅速な対応と安全性の確保に配慮する。
運転席の操作は速度計や圧力計などの機能を、モニター画面に集約。機器点数を削減し、視認性や運転支援機能を向上させた。台車にリンク式片軸操舵台車を採用したことで曲線通過時の車輪とレール間の転がり接触状態を改善し、曲線通過性能を高めた。主電動機は惰行中の誘起電圧対策が不要となり全閉自冷式としたことで、内部への塵埃(じんあい)侵入を防ぎ清掃が省力化されるほか、使用電力が削減するなど経済性に優れる。
車体は耐食アルミ合金製中空押出形材を全面に使用したダブルスキン構造を採用した。運転席は非常用貫通開戸を車体の右側に寄せることで運転台の幅を広げ、前方の視界を開放的にし、見通しをよくした。客室内は明るく開放感のある快適空間を目指したが、総合的な配色設定はメリハリに欠ける。車内の行先表示器は4カ国語のインバウンド(訪日外国人)に対応し、CUD(カラーユニバーサルデザイン)認証を取得した。外観はこれまでの車両を継承する「ブルーライン」と澄んだ青空をイメージした「スカイブルー」を採用した。
車両は静音性と安全・安心を確保した快適性を追求し、一人ひとりにやさしい移動空間をデザインした。子育て・バリアフリーに配慮したフリースペースの設置は今回の特徴だが、超高齢化社会の到来を勘案すると、高齢者対策にも本腰を入れるのが望ましい。一般車両と異なる地下鉄移動空間のあり方や地方性にこだわるデザインに一歩踏み込むことも期待される。
【FUJI】 廃棄物選別ロボット R—PLUS
日本における産業廃棄物(混合廃棄物)は年間約3億7000万トン超と言われている。リサイクル率の向上には、中間処理施設における「選別作業」が大きなカギを握る。また、中間処理施設では手作業で不純物や有価物を回収しており、労働力不足と作業安全性の確保が課題となっている。こうした状況を受け、FUJIは人の代わりに回収作業を行う廃棄物選別ロボットを開発し省力化や省人化、導入コスト低減を実現した。作業者はロボットを監視し他の作業に注力できる。
本製品は廃棄物に含まれる不純物や有価物を、カメラと高性能AI(人工知能)により高度識別検知し、新開発の直交型4軸ロボットによる高速ピッキングハンドで回収する。人間と同等以上の動作スピードで、工程の生産量や品質を下げることなく省人化を可能とした。業界最小のコンパクト設計で、既設のベルトコンベヤーの上に乗せるだけで設置できる。後付での設置が可能で導入コストの低減を実現した。ピッキング回数は1時間当たり最大1800回で、最大約5キログラムの重量の廃棄物に対応できる。
操作盤はタッチパネル上の「ホーム」「運転」「メンテナンス」の3画面に集約。「切替」「選択」「始動」の3操作について、イラストを多用して直感的なインターフェースを採用し、ユーザーフレンドリーな操作性を実現した。本体は金属製カバーで装置全体を保護する防塵対策を行い、作業者が可動部に触れられない構造とした。作業者がアクセスする部分には電磁ロック・開閉検知付きの扉を設け安全性を確保。メンテナンスは年2回程度で、消耗品の交換は市販の工具で作業できる。作業時間は数分程度。また、自己監視機能を搭載し、異常を検知すると安全に停止する。復旧方法はわかりやすくガイダンスできるようにした。
中間処理施設内の環境条件や敷設方式を考慮し、コンパクトなボディー形状を採用。搬送しやすく既設のコンベヤーに後付けで設置できる。AIが見た目の質感や形状をもとに材質やピッキング座標を特定するほか、コンベヤーの搬送速度をリアルタイムで計測し正確な座標にロボットを制御する。人間の手を模擬したピッキングハンドは、つかんだものが滑り落ちにくい構造を採用した。先端はつまむ動作を再現する造形的な工夫がされている。防塵対策として制御機器・駆動部を超小型設計のブラックの金属製筐体(きょうたい)で保護するデザインとした。
本製品は同社の基幹技術である電子部品実装技術を活用しており、優れたピッキング能力を発揮している。ただAIの処理能力によりピッキング能力は人手と同じレベルに留まる。ロボットによるピッキング能力の拡大に向け、AIの処理能力にさらなる改善が求められる。
【ミツトヨ】 白色光干渉光学ユニット WLI—Unit
白色光干渉技術による測定機は、非接触での微細な表面形状の検査や測定に使用される。モノづくりにおける各種部品の高精度化や高密度化、高機能化が進む中で、高品質化を目的とした全数検査への流れが加速。検査場所も従来の測定室から機上計測などへシフトしている。こうした状況を受け、ミツトヨはユーザーごとに異なるユースケースや複雑化する測定対象に柔軟に対応できるように非接触測定機能をユニット化し、高精度でありながら小型・安価に導入できる本製品を開発した。
白色光干渉原理による非接触測定機能を、センサーヘッド・干渉対物レンズ・コントローラーといったユニットとして構成した。ナノメートルオーダーの高品質な干渉画像の生成を実現し、さまざまな表面性状の測定対象物(ワーク)に対応する。ワーク加工面の粗さや形状、厚みの測定が可能。干渉対物レンズの干渉縞調整機構により幅広い温度環境下での高精度測定が可能で、ユーザーの多様な用途・環境に対応している。さまざまな装置への組み込み性を考慮して、測定機の全ての構成要素(メカ、結像・照明光学系、干渉対物レンズ)を新規に開発し、小型化を実現した。
測定機は干渉縞を生成する対物レンズを搭載する小型のセンサーヘッド、コントローラーで構成され、各種専用ソフトウエアによりユーザーシステムへの柔軟な組み込みを可能としている。また、ユニット化した製品構成により、ユーザーのニーズに合わせて安価にシステム構築できる。欧州の安全基準のCE規格やランプ指令、電池指令、WEEE指令、製造物責任法(PL法)などに対応し、安全性にも配慮している。
センサーヘッドはシンプルでシャープな洗練された外観イメージを有する。多様な装置の組み込みに配慮して、外部の不要な光の影響を低減する暗色を採用するコンパクトな造形とした。造系処理では、測定や調整などの機能を有する各種専用ソフトにおいて、画像操作環境(GUI)はユーザーの使用環境に合わせて活用方法を検討できるようにしてあり、明快な完成度を有している。表示方式の統一や英数文字のフォントサイズの拡大を検討すれば、完成度はさらに向上する。
本製品はコンパクトでユニット化した安価な測定システムを提供し、さまざまなユースケースに対応するシステム構築となっている。独自の干渉縞処理アルゴリズムや光学系の全体設計により、いろいろな表面性状のワークの測定に威力を発揮し、粗さや形状、厚みの測定を高精度に行える。多様化・複雑化する測定対象に対応するには、ユースケースごとに柔軟に運用できる組み込み性能が重要であり、装置のさらなるコンパクト化が望まれる。






