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第55回機械工業デザイン賞 IDEA
最優秀賞(経済産業大臣賞)/キヤノンアネルバ
半導体製造装置 Adastra
さまざまな成膜処理技術を自由に組み合わせ、製品の多種多様化・複雑化に柔軟に対応できる半導体製造装置として開発された。成膜処理室の数をフレキシブルに選択可能とし、研究開発から量産までを同一装置で迅速に拡張できる。また、各処理室の小型化による輸送時の二酸化炭素(CO2)削減と工場面積の有効活用、循環水の活用による水使用量と電力の低減などを実現し、地球環境保全への貢献につなげている。
本装置は、従来装置の種類ごとに異なっていた設計思想を統一。自社が有するさまざまな成膜形成技術の自由な組み合わせを可能にし、業界最大級の薄膜積層バリエーションを実現した。処理室1ー10台のフレキシブルな展開により、開発と量産の二つのフェーズを統合。いずれのフェーズでも1台のコンパクトな装置で対応できる。運用コストがかかるクリーンルーム環境において、効率よく配置できるように装置幅を3・3メートルに小型化した。設置面積で従来装置比42%削減と省スペース化と生産性向上を実現した。
操作盤については、ユーザーインターフェース標準規格「SEMI E95」への準拠により、工場内の他装置との整合性を確保した。さらにユーザー体験(UX)デザインにより作業フローに沿った画面配置で操作性を確保して、経験が浅い若手社員でも操作できるようにした。成膜処理室は鋭利な角部をなくしたカバーで全体を覆うことで作業者の心的ストレスの軽減に配慮。さまざまな体格の作業者が行う作業を分析し、効率的な作業動線の確保や治具踏み台の設置などにより、無理なく安全な作業・保守ができる環境を実現した。
装置中心部の搬送室と相似させた八角形の装置外形内に、6台の処理室を配置する構造を採用し、デッドスペースをなくした。各処理室の上部のふたを小さな六角形とすることで処理室の両側に作業スペースを確保。作業時にふたが180度開いて真空室とふたが同一の高さになるように配慮し、保守性を高めた。
装置の小型化により使用材料を削減し、輸送重量を軽減。冷却機構を見直すことで水の使用量を削減した。省資源で7%削減、省エネルギーで18%削減、水の使用量で55%削減を達成。システムとしてエネルギー由来のCO2排出量18%削減を実現するなど環境配慮に力を入れた。
本装置は日進月歩で進化する半導体製品のニーズに応えるため、成膜処理技術のフレキシブルな拡張性を有しながら、小型化や生産性向上を実現した。特にデザインは独創的で、装置素材やケーブル処理を熟慮してジオメトリックな造形とし、技術的先進性やインテリジェンス感を醸成した。最先端の半導体製造装置のあり方を的確に示した。
開発担当者に聞く/キヤノンアネルバ 執行役員兼装置事業部長 渡邊 栄作 氏
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キヤノンアネルバ 執行役員兼装置事業部長 渡邊 栄作 氏 -
キヤノンアネルバのAdastraは操作性にも配慮した
ー成膜装置「Adastra」の特徴は。
「Adastraは成膜装置の基盤となるプラットフォームで、その特徴は小型化です。設置面積は従来と比べ42%減らすことができました。さらに半導体から電子部品向けまでの成膜処理ができるプラットフォームになっており、小型化に加え応用範囲の拡大も実現させています。これまで半導体や電子部品向けにそれぞれ装置を開発してきましたが、お客さまの要求が高まる中、それぞれの技術を開発していては間に合いません。また、既存技術を生かせないのは『もったいない』という事情もありました。そこで既存技術を融合させるような形を目指して、Adastraのプラットフォームを開発しました。さらにサスティナビリティー(持続可能性)をどう訴求するかにおいても、小型化と生産性を両立しました」
ー新しいプラットフォームの開発は約20年ぶりです。機能や外観デザインにもこだわりました。
「最初はモジュラーデザイン(少数のモジュールを組み合わせて多様な製品を設計する手法)を目指して開発していましたが、制約が多く断念しました。その後デザイナーと手を組んで、機能性と審美性を両立する開発を進め五角形のプロセスモジュールにたどり着き、装置を上から見たときに放射状になる象徴的な外観デザインになりました。さらに当初から目指していたモジュラーデザインが外観デザインを取り入れたことで完成していきました。設計者とデザイナーのやりとりは幾度となく発生し、開発期間が通常に比べて約2倍まで延びましたが、工業デザインの導入などの新しい取り組みによって設計者にも良い経験になりました」
ー同時にメンテナンスをしやすくするなど、操作性の向上にも気を配りました。
「小型化されたプロセスモジュールの間にできる空間を最大限に生かして、メンテナンスしやすい構造にしました。作業位置が高く、背が低い人だと作業がしにくい課題もメンテナンス箇所を180度開くように改善し、背が低い人でも手元で作業しやすくしました。180度開くための配線収納方法など、難しい課題も多かったのですが、うまく対応できました」
ー今後のAdastraの展開を教えてください。
「現在はお客さまの評価に入っており、今後量産適用されると考えています。また、予防保全機能の向上や遠隔サポートなどの機能も拡充し、3ー4年後には現製品の約7割をAdastraに移行させる計画です」
