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第55回機械工業デザイン賞 IDEA
最優秀賞(経済産業大臣賞)/オークマ
新しい形のものづくりを実現する 小型横形マシニングセンタ MSー320H
多品種少量生産から量産までの小物部品加工に対応し、省人化や自動化による人手不足の課題解決と働き方改革に向け、新しい形のモノづくりを実現する小型横型マシニングセンター(MC)。加工対象物(ワーク)の着脱作業を自動化して作業者の負担を最小化するとともに、高精度・高生産性と脱炭素・省エネルギーを両立する自動化加工セルを具現化した。切りくずトラブルによる停止ロスを削減し、長時間の安定稼働も可能にした。
ベースマシンの加工セルは、ローダーやロボットによる完全自動化で正確なワーク着脱作業を可能とし、作業者の負担を軽減した。油空圧用8ポートの治具でフレキシブルな自動着脱が可能になり、機械1台の加工セルから複数台のラインまで多品種少量から量産までの加工の自動化に対応。設置スペースを従来機比56%削減とコンパクト化した。切りくずのトラブルを防ぐ革新的な機械構造と知能化技術により、長時間安定稼働を実現した。コンパクトでありながら鋼材部品を十分に加工可能な切削能力を持つ。40番テーパーの主軸を搭載し、250ミリメートル角以下の中・小物部品加工に対応する。
操作性・視認性に優れる15インチの操作盤を備え、新世代のコンピューター数値制御(CNC)装置「OSP―P500」を搭載する。機械が自律的に高精度を安定維持する知能化技術「サーモフレンドリーコンセプト」により経時熱変位を6マイクロメートル以下の精度で実現。「ECOアイドルストップ」で冷却の必要性を機械が自ら判断して高精度を維持したまま冷却装置をアイドルストップする。
マシンは2カ所のドアから主軸・テーブルに無理なくアクセスできるデザインとし、作業負担を軽減。点検機器を右側面操作側に集約し、作業動線を最適化した。機械周辺のメンテナンスの省スペース対応やストレスフリーの容易なメンテナンスなど、人と機械の調和に配慮して使いやすさにこだわった。革新的なフルセンタートラフ構造と垂直面テーブルは、機内の切りくず堆積を防止し長時間安定稼働を実現した。スラッジレスタンクは3年間切削液の交換が不要で、清掃頻度を大幅に減らせる。
垂直面テーブルと傾斜角度を確保した機内カバー、フルセンタートラフ構造の機内コンベヤーにダイレクトに切りくずを落下させる機械構造を採用。全加工領域からの切りくず排出を実現し、切りくずトラブルによる停止ロスを削減する造形的工夫がある。加工部と駆動部をシンプルなボックス造形として並立させ、オーセンティックなデザインとした。
従来の量産型ライン生産と異なり多品種少量生産・仕掛かり在庫の圧縮・生産変動への適応など、コンパクト自動化加工セルとして革新性がある。
開発担当者に聞く/オークマ 技術本部副本部長 商品開発部部長 袴田 隆永 氏
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オークマ 技術本部副本部長 商品開発部部長 袴田 隆永 氏 -
切りくずトラブルを排除する垂直面テーブル
ー開発に至った背景を教えてください。
「大企業、中小企業とも人手不足が深刻化しています。熟練技能者もどんどん少なくなっており、経験の浅い人がモノづくりの中核を担う時代に入っています。当社としては、そうしたお客さまであっても作業者の負担を最小化し、高精度・高生産を実現していけるようなシナリオを持ってソリューションの開発を進めています」
ー具体的には。
「六つのレベルに分けた成熟度モデルを開発の羅針盤にしています。例えばレベル1は『スマートマシン』。自動化のベースとなる機械自体のことで、自律的に高精度を実現するなど自律型工作機械を開発します。レベル2ではスマートマシンを活用した自動化システムの『スマート加工セル』、レベル3ではそのセルをつなぎ工場を進化させます。『MSー320H』もレベル2である多彩な自動化ラインアップを最小スペースで実現する前提で開発しました」
ー開発で特に苦労した点はどこですか。
「量産部品加工をされているお客さまへのヒアリングのもと、自動化の時代に求められる要素を洗い出しました。その要素を満たすには、今までと違う形態の機械が必要と考え、どういった構成がいいのかを一から考えていきました。最初はローダーでの連結のしやすさを考慮して旋盤ベースの機械構成から検討をスタートし、さらに、マシニング加工能力の向上、コンパクトさ、使いやすさ、生産性など、さまざまな要件を満たすように検討した結果、現在の形態となりました。こうした構成の検討に時間がかかりました」
「機械構成が決まったあとも、垂直面テーブルという世の中にない構造で、いかに必要な加工能力を実現するかが課題でした。具体的な解決方法として、加工点に対するリニアガイドの位置と切りくず処理性を確保するカバーの傾斜を最適化しました。その結果、このサイズの横型マシニングセンターとしては十分な加工能力と切りくず処理性の両立を実現しました。自動化システムとつなげることを前提に開発したことも苦労した点です。機上ローダーの動きが加工に与える影響を最小限に抑えるフレームにするなどの対応もしました」
ー顧客の反応はいかがですか。
「斬新な機械構成で、自動化のしやすさや良好な切りくず処理性を実現している自動化ベースのコンセプトが良いとの言葉をいただいています。広く要望をお聞きするためにも、まずは多くのお客さまに知ってもらう啓発活動をしつつ、いただいた商談を進めていき、これから受注が増えていくと期待しています。『この機械はこういう使い方ができますよ』といった我々の発信力が重要になると考えています」
