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茨城県産業(2023年12月)
新型コロナウイルス感染症の規制が徐々に緩和され、緩やかな景気回復が続く茨城県産業界。原材料価格の高止まりや人手不足、人件費上昇などの影響で景気の先行きは不透明ながら、県内企業では事業基盤を強化するなど将来の成長に向けた活動を着実に前進させている。今回の「茨城県特集」では大井川和彦茨城県知事のメッセージ、最近の企業立地動向、県内中小製造業の事業基盤強化への取り組みなどを10ページにわたり紹介する。
世界に発信 茨城県内トピックス
2023年はサミットの開催や世界最大規模の核融合実験炉の運転開始など、世界の注目が茨城に集まる出来事も多かった。茨城県内の最近の話題を紹介する。
G7茨城水戸内務・安全担当大臣会合が開催
生成AIの可能性と危険性など議論 地域の認知度高める契機に
先進7カ国 (G7)茨城水戸内務・安全担当大臣会合が12月8日から3日間、水戸市民会館をメイン会場に開かれた。松村祥史国家公安委員長が議長となり、「経済安全保障と民主主義的価値の保護」「サイバー空間の安全の確保」「国境を越える組織犯罪」など世界の治安維持に向けて七つのテーマを議論した。最終日には共同声明をまとめた。
「生成AIの危険性と可能性」もテーマの一つとなり、生成AIの可能性や犯罪行為に利用される危険性とその対処法などについて議論が行われた。生成AIに関する国際的な情報共有や産業界との連携の重要性について各国で意見が一致。松村国家公安委員長は会見で「(生成AIの進化への)期待と不安の中で、分析と対応を考えていく必要を改めて感じた」と話した。
茨城県内でのサミット開催は2016年のG7科学技術大臣会合、19年のG20貿易・デジタル経済大臣会合に続き今回で3回目。水戸市での開催は初めてとなった。
各国の閣僚を歓迎する夕食会では、水戸市の郷土民俗芸能のパフォーマンスが披露されたほか、茨城県産の食材を使った料理が振る舞われた。
同会合の終了にあたって大井川和彦茨城県知事は「今回の大臣会合を契機に、茨城・水戸の認知度や地域ブランディングの向上につなげるとともに、県産品の海外展開や誘客促進など、海外との経済交流の促進に取り組んでいきたい」とのコメントを発表した。
茨城県内4社のベンチャーが米国で販路開拓
ニューヨークでのピッチイベントに参加
グローバル市場での資金調達や販路開拓を目指す茨城県内4社のベンチャーが、米国ニューヨークでのピッチイベントに参加した。同イベントは茨城県と日本貿易振興機構茨城貿易情報センター(ジェトロ茨城)が支援する「グローバルアクセラレーションプログラム」の一環。4社は訓練プログラムを受けた後、11月にメーンプログラムとしてニューヨークに渡航して現地の投資家らに自社のビジネスを売り込んだ。
県とジェトロ茨城は、スタートアップ支援を手がける米アントレプレナー・ラウンドテーブル・アクセラレーター(ERA、ニューヨーク市)と連携し、県内ベンチャーの海外展開を支援する事業に2019年度から取り組んでいる。支援対象のベンチャーには、ERAのノウハウを活用して英語でのプレゼンテーション手法などを身につけるための事前トレーニングを提供するとともに、海外でのピッチイベント参加など販路開拓の機会を提供している。
23年度の同プログラムにはエアメンブレン(つくば市) 、 Closer (同) 、 Thermalytica (同) 、 Dots for (東京都港区)の4社が参加。キックオフイベントが9月に茨城県庁で開かれ、参加企業が英語で事業紹介などを行った。独自構造の薄膜材料「グラフェン」の事業化に取り組むエアメンブレンの長谷川雅考取締役は「海外に販路を広げるきっかけの一つにしていきたい」 と意気込みを語っていた。
Mg合金接合技術が次世代新幹線開発に貢献
国際マグネ協会から表彰 茨城県産業技術イノベーションセンターが開発
茨城県産業技術イノベーションセンターが開発したマグネシウム(Mg)合金の摩擦攪拌接合技術が、次世代の高速鉄道を実現するための基盤技術として貢献している。同センターはMg合金を高品質に接合する技術の開発に成功し、同接合技術が次世代新幹線のMg合金製超軽量床材の製造技術に応用された。同センターは県内企業に対してこうした先端技術の普及を推進することで、地域の産業競争力の強化に結びつけたい考えだ。
次世代新幹線向け床材の開発は、川崎車両や産業技術総合研究所などの共同プロジェクトで進められたもので、同センターもこれに参画。同プロジェクトは5月に国際マグネシウム協会の表彰制度で部門賞を受賞し、同センターも共同受賞した。
Mg合金は軽く高強度な素材である反面、加工が難しい性質がある。同センターは摩擦攪拌接合を活用し、Mg合金の強度低下を防ぎながら接合する技術を開発した。摩擦攪拌接合では接合部分に回転ツールを押し当てて摩擦熱で被接合材料を軟化させて接合する。同センターはツールの形状や回転速度、移動速度などを最適化することで、高品質な接合技術の開発に成功したという。
同技術の開発を担当した行武栄太郎研究推進グループ長は「公設試験研究機関でもレベルの高い技術開発ができ、地域の中小企業にも展開できる体制が整った。企業に技術を提案し、茨城の発展に貢献していきたい」と話している。
核融合実験炉「JT―60SA」が運転開始
量研機構 那珂研究所で記念式典
量子科学技術研究開発機構は那珂研究所(茨城県那珂市)に建設した核融合実験炉「JT―60SA」の運転開始記念式典を12月1日に開いた。日欧の共同プロジェクトで建設したJT―60SAは10月23日に初プラズマの生成に成功。ドーナツ型の磁場の中に超高温・高圧のプラズマを閉じ込める「トカマク型」として、これまでに世界最大クラスとなる体積約160立方メートルのプラズマを生成し、温度は1500万度C程度まで上昇したのを確認したという。
式には同プロジェクトに携わった日欧の関係者らに加え、盛山正仁文部科学相や高市早苗内閣府特命担当相が参加した。盛山文科相は 「欧州などとの連携を強化し研究開発や人材育成に腰を据えて取り組む」とし、高市担当相は「産業界とともに核融合の実現とスピンアウト型関連産業の発展に向けて力を尽くす」とあいさつした。
同実験炉は超高温・高密度なプラズマの生成実験を通じ、将来のクリーンエネルギーとして期待される核融合発電技術の開発に貢献することを目指している。今後はより高精度なプラズマを生成するために装置の増強を進め、2025年の本格稼働を目指す。
また同実験炉は将来の核融合技術の開発を担う人材の育成にも貢献する。9月には量研機構那珂研究所で、日欧の学生20人が参加した「JT―60SAインターナショナルフュジョンスクール」を2週間の日程で初めて開講。同スクールは毎年開催する予定だ。