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茨城県産業(2023年12月)
新型コロナウイルス感染症の規制が徐々に緩和され、緩やかな景気回復が続く茨城県産業界。原材料価格の高止まりや人手不足、人件費上昇などの影響で景気の先行きは不透明ながら、県内企業では事業基盤を強化するなど将来の成長に向けた活動を着実に前進させている。今回の「茨城県特集」では大井川和彦茨城県知事のメッセージ、最近の企業立地動向、県内中小製造業の事業基盤強化への取り組みなどを10ページにわたり紹介する。
茨城産業人クラブ経済講演会inつくば―新たなビジネスチャンスを獲得
SX見据えて挑戦
GX―CO2排出量の見える化でスコープ3に対応
続いて、GXや脱炭素経営について紹介します。今では地球の温暖化を超えて、「沸騰化」といった表現も使われるほど、脱炭素は世界中で喫緊の課題になっています。当社では工場に500キロワットの太陽光パネルを設置したほか、4年前には再生可能エネルギーで発電した電力の購入を始めました。現在は本社と本社工場の電気は、バイオマス発電所の電気でまかなわれています。
さらに二酸化炭素(CO2)の見える化に取り組んでいます。CO2排出量の見える化に関しては、サプライチェーン全体での排出量データを開示しています。温室効果ガス(GHG)の国際算定基準「GHGプロトコル」に基づき、サプライチェーンに関わるGHG排出量を表す「スコープ3」の開示に対応しました。
同算定基準のカテゴリーはスコープ1―3に分類されます。スコープ1は自社で使う燃料の量に相当し、当社は組み立てが中心なのでそこまで大きくはありません。スコープ2は電気の使用量ですが、再生可能エネの購入で大きく減らすことができました。問題はスコープ3です。スコープ3は、当社が製品を販売した後、その製品の使用によって生まれる排出量や部品調達先の排出量など間接的に関わっているさまざまな分野の排出量が含まれます。スコープ3が全体の95%を占めており、ここを減らさない限り脱炭素の実現は難しいでしょう。
当社ではコンサルティング会社の協力を得て、CO2排出量のデータをさまざまな部署から集めて自動で計算する仕組みを導入しています。なかなか困難な課題ですが、サプライヤーとも相談し、できる限りCO2を削減する取り組みを進めていきます。また、リチウムイオンバッテリーを搭載した製品の開発などにも取り組んでいるところです。脱炭素は企業にとって新たなビジネスチャンスにもなります。そうした視点からもGXを推進するべきだと考えます。
人的資本、新ビジネス創出に向け若手育成
最後に人的資本の取り組みを紹介します。最近では若い社員を対象に「諸岡ユニバーシティー」と名付けたビジネス研修を実施しました。これは新ビジネスを創出する取り組みの一環で、若手社員からは「水陸両用車の開発」「グランピング場の運営」「宿泊コンテナの製造販売」などさまざまなアイデアが出ました。まだ始めたばかりですが、社員教育の充実にも今後は取り組んでいく計画です。
ESG、SDGs、DX、GX、人的資本の推進に5年ほど取り組んできました。さまざまな取り組みを実施していますが、実態を伴わせるため、各テーマのKPI(重要業績評価指標)を数値目標として明確に掲げて実行しています。また最近ではこれまでの活動をまとめた「統合報告書」を作成し、当社のホームページにも掲載しています。これを当社の教本とし、社内の各部門に中身をしっかりと伝えていきたいと思います。
近い将来には、「サスティナビリティー・トランスフォーメーション」(SX)という言葉が注目されていきそうです。企業が持続可能に成長し、地域とともに発展するには常に変革を起こすことが大切です。今までの取り組みをベースに新たなことにチャレンジする姿勢を忘れず、日夜努力していく所存です。本日はありがとうございました。
茨城産業人クラブ若手会 茨城県産業技術イノベーションセンター見学会・知財勉強会を開催
茨城産業人クラブの若手会は11月13日、茨城県産業技術イノベーションセンターの見学会と知的財産に関する勉強会を開いた。県内製造業の若手経営者ら10人が参加。見学会では茨城県の公設試験研究機関である同センターの試験設備やコワーキングスペースなどを見学するとともに、センターの技術職員らと交流を深めた。見学後は同センターを会場に知財の勉強会を開き、知財の基礎や特許制度のあり方などについて理解を深めた。
企業の新ビジネス創出を支援
見学会の開催に先立ち、若手会の会長を務める大塚製作所(水戸市)の根岸貴史社長は「センターとのつながりを深める貴重な時間にしていきたい」とあいさつ。同センターの吉冨耕治センター長は「企業の技術者だけでなく、経営者の視点でも当センターを見てもらい理解を深めてほしい」と語った。
茨城県産業技術イノベーションセンターは2018年に「工業技術センター」から現在の名称に変更。材料の成分解析や精密測定などの試験依頼や技術相談を通じて地域企業に技術支援を提供するほか、イノベーションに資する独自の研究活動などに取り組んでいる。最近ではロボットやIoT(モノのインターネット)、人工知能(AI)、宇宙などの先端分野をテーマに、地域企業とも連携した研究開発を推進する。
センター内には「模擬スマート工場」を設け、ロボットを活用した生産や検査工程の自動化に向けた実証試験などに取り組める体制を整備する。そのほかに化学や生物、食品など幅広い分野の研究開発や技術支援に対応。「清酒製造技術研究棟」を設置し、酒造りの研究を進めていることも特徴の一つだ。
さらに同センターでは県内企業の新ビジネス創出支援にも注力する。アイデア出しからビジネスプランの作成までを専門家が伴走支援する研修会を毎年開いており、そのためのコワーキングスペースをセンター内に整備。その後の実証試験まで一貫した支援を企業に提供している。
知財の活用で持続的に成長
見学会後の知財に関する勉強会では山﨑特許事務所(茨城県龍ケ崎市)の所長で弁理士の山﨑晃弘氏らが講師となり、知財の基礎の解説や企業活動で知財が問題になる時のケーススタディを行った。
企業が持続的に成長を続けるには、新技術などの新たな価値を継続的に創出し続ける必要がある。しかし、新技術をそのまま世の中に出せば簡単にまねをされることもある。それを防ぐ手段の一つとして「知的財産権制度」が位置づけられる。
山﨑氏は特許権や実用新案権、意匠権、商標権など知財の種類を説明し、「実際にはそれらの複合的に組み合わせて権利を守りながら製品・サービス展開を行うことが有効となる」と解説した。
ケーススタディでは他社との共同研究などで知財が問題になる例題をもとに、グループワーク形式で参加者が議論して知財の活用方法を検討した。山﨑氏は「知財には多様な働きがあり、自社の強みを見える化したり、わかりやすく伝えたりする効果もある。(権利の保護に加え)こうした観点からも知財への認識を深めてほしい」と呼びかけた。