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茨城県内のシステム開発企業 独自製品・サービスで新市場開拓
茨城県内には地元大手企業との取引などを通じ技術力を磨いたシステム開発企業が多く存在する。最近ではこれまでに培った技術を生かして独自製品やサービスを創出し、医療、介護、環境分野などの新市場を開拓している企業も増えている。利益率の高い独自製品の提供を通じ、企業価値を高め持続的な成長に結びつけるのが狙いだ。県内のシステム開発企業の取り組みを紹介する。
アルコ・イーエックス/医療・介護現場向け見守りシステム
アルコ・イーエックス(茨城県ひたちなか市)は、医療・介護現場向けベッド回りの見守りシステム「ペイシェントウォッチャー」を展開する。病院や介護施設、個人の住宅などを対象に、ベッドで寝ている人をカメラで常に見守るシステムをハードとソフトで提供する。カメラだけでなく非接触で心拍数や呼吸数などを計測できるバイタルレーダーセンサー、温度や湿度などの室内環境の計測センサーも搭載。患者や要介護者の離床や起床、入床、就床などを自動で検知して介護者の負担を軽減するほか、健康管理にも役立つ。
「設置や操作が簡単で使い勝手が良いのが特徴。利便性の高さがユーザーから評価されている」と同社の木田文二社長は説明する。同システムはカメラを含むセンサー機器をベッドの上部に設置、データをクラウドに送信し、遠隔地から映像や各種のデータを確認できる。プライバシーに配慮し、カメラ映像は解像度を落として表示できるようにした。
システム開発で培った技術を応用し、約2秒間隔で最新のデータを取得できる。センサー機器からのデータ伝送は、無線LANのほかに、SIMを搭載して機器から直接送信することも可能だ。
同社では富士通の特許を活用して同システムを2016年に製品化。その後、バイタルレーダーセンサーなどを追加できるようにするなど機能強化を進めてきた。最近では人工知能(AI)を活用した新製品の開発にも取り組んでおり、人の関節点から動作を高精度に判定し、ベッドからのずり落ちや転倒などさまざまな動作を検出する技術の実用化を目指している。
アルコ・イーエックスは鉄道関連の制御システムなどの受託開発が主力。受託開発で培った正確性や安全性に寄与するIT技術を応用して独自製品開発に取り組んでいる。
ペイシェントウォッチャーについては全国に販売網を持つ大手代理店とも代理契約を締結。今後の売り上げの拡大が期待される。3年後に累計販売台数6万台を目標に、木田社長は「既存の受託開発の仕事も大切にしながら自社製品開発を進め、新たな収益源をつくっていきたい」と話している。
ユードム/CO2濃度測定器
ユードム(水戸市)は、測定値をウェブ上でモニタリングできる二酸化炭素(CO2)濃度測定器「CO2 Detector」の新製品を21年に発売した。無線通信で測定データをクラウド上のサーバーに自動送信する機能を搭載。専用ウェブサイトから測定値を即時に閲覧できる。
本体は高さ71ミリ×幅126ミリメートルの卓上サイズ。気温や湿度も同時に測定する。ウェブに接続しなくても使え、本体に2・8インチカラーディスプレーを搭載して測定値の視認性を高めた。CO2濃度の変化を色や音で通知する機能もある。高精度なCO2センサーを搭載し、測定精度はプラスマイナス30ppmを実現した。
同社は建設機械や自動車や鉄道、物流など幅広い分野のシステム開発を手がけ、コンサルティングからシステム導入まで一貫して提供できる強みがある。
CO2濃度測定器は環境関連の研究機関の業務を受託したのを契機に自社製品として開発し、1999年から提供を始めた。新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、感染防止に向けた室内換気のタイミングの目安にCO2濃度を測定するニーズが高まっていたことから、2年前に機能を大幅に刷新して新製品として投入した。
現在は水戸市内の高校や小学校などで複数台が導入されているほか、研究目的で大学などに導入されるケースも多いという。脱炭素化に向けたCO2を吸着するための材料開発の実験などで使われており、森淳一社長は「当社の製品はCO2濃度測定器としてコストパフォーマンスが良く、ある程度の精度で測定できることが評価されている」と話す。
また従来は取引のなかった企業とのつながりが構築できたり、環境関連の製品を販売することで自社のイメージ向上に結びついたりなど、自社製品の展開には多様なメリットがあるという。
クリアタクト/視線解析システム
クリアタクト(水戸市)は、視界の中で人間の視線を引き付ける箇所を解析するシステムを開発した。視覚に関する人間の脳の働きをモデル化。カメラで撮影した動画をリアルタイムで処理し、対象物の色や形状、明るさ、動きなどの特徴から人間が目を向けやすい箇所を判別、色分けしてヒートマップで表示する。目立ちやすい商業施設の外観デザインや広告物の制作などを補助するツールとして提案する。
開発したシステムは「リアルタイム・ビジュアル・サリエンシー・パッケージ」の製品名で商品化した。「サリエンシー(顕在性)」とは、視界に入るモノの目立ちやすさを表す脳科学の概念を指す。視界の中にあるさまざまなモノの特徴を検出し、周囲に比べて目立つ部分を定量化することで、人間がどこに目線を向けるかを予測する。
視線予測の既存技術としては、蓄積した視線の計測データを活用して予測するツールなどが市販されている。今回は脳科学の概念を応用したことで、性別などに関わらず人間が無意識にどこに視線を向けやすいかを予測できる特徴がある。
人間の視線を集めやすい効果的なデザインの制作や快適・安全に使える設備などの環境設計に応用できるほか、生産性向上のための製造現場改善などに役立つ可能性もある。