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地球環境特集
〔8面〕未利用有機物を炭素資源に変える 材料開発―炭素循環経済へ
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岡山大学 異分野基礎科学研究所 卓越教授 仁科 勇太
【執筆】岡山大学 異分野基礎科学研究所 卓越教授 仁科 勇太
博士(工学)。有機化学を基盤に、グラフェン、酸化グラフェン、未利用有機物の炭素化、炭素材料の機能化と社会実装に取り組む。
脱炭素社会の実現には、二酸化炭素(CO2)の排出削減だけでなく、炭素を資源として使い続ける仕組みが有効だ。筆者らは木質バイオマス、廃プラスチック、余剰ガスなどの未利用有機物を、燃やしてCO2に戻すのではなく、機能性炭素材料へ変換(固定化)する研究を進めている。炭素を廃棄物ではなく国産資源として循環させる、新しい材料開発の方向性を紹介する。
炭素材料再利用の重要性
炭素は身近な元素である。黒鉛、ダイヤモンド、活性炭、炭素繊維、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェンなど、同じ炭素から成るにもかかわらず、その姿が変わるだけで物性は大きく変化する。炭素材料は、電池、触媒、吸着材、ゴム補強材、電子材料など、幅広い産業を支えている。
一方で、現在利用されている炭素材料の多くは石油、石炭、天然黒鉛などの地下資源に依存している(図1)。資源の偏在や価格変動、採掘・輸送に伴う環境負荷を考えると、供給方法を見直す必要がある。また、バイオマスやプラスチックなどの有機物は通常は焼却や分解によってCO2へ戻る。これは炭素を一度使って終わりにする流れである。
そこで筆者らは「有機物はCO2になる」という既成概念を変え、「有機物を炭素として固定化し、さらに材料として使う」ことを目指している。木材、食品残渣(ざんさ)、農業残渣、廃プラスチックなどは見方を変えれば炭素原子を豊富に含む資源である。これらを制御して炭素化できれば、CO2排出を抑えながら、吸着材、電極、触媒、複合材料などに利用できる。
化学の視点で有機物構造を構築
しかし有機物を有用な炭素材料へ変えることは簡単ではない。多くの有機物は加熱すると、炭素骨格を保ったまま固体炭素になるのではなく、分解、揮発、解重合を起こす。木質バイオマスではセルロースやリグニンが複雑に分解し、プラスチックでも断片化が進むため、炭素として残りにくいものが多い。短時間・低エネルギーで炭素化するには、化学の視点から反応を設計しなければならない。
カギとなるのは、炭素化しやすい構造を有機物中に作り込むことである。芳香族構造やアルキンのような多重結合を導入すると、加熱時に炭素骨格が残りやすくなる。脱離反応や重合反応を利用して、分解より先に炭素骨格を構築することも重要だ。
さらに、触媒による脱水素・脱酸素、有機物を無機材料で包む設計、欠陥修復、分子配列制御などにより、炭素化の反応場そのものを設計できる。筆者らはこのような炭素化戦略により、未利用有機物から「マルチナリーカーボン」と呼ぶ多元的な炭素材料を創出しようとしている。これは炭素に加え、酸素・窒素・ホウ素・硫黄などのヘテロ元素、欠陥、細孔、官能基、積層構造が組み合わさった炭素材料の総称である。
電池や電極・吸着材・触媒などに応用
単に熱処理で得られる炭素ではなく、原料の分子構造、添加剤、触媒、加熱条件を設計し、機能を作り込む点に特徴がある。応用先としては、電池やキャパシター用電極、CO2や有害物質を吸着する多孔質材料、触媒、樹脂を強化するフィラー、水の浄化膜、センサー材料、ウイルス吸着や抗がん機能などが考えられる(図2)。
木質バイオマスから導電性炭素を作ることができれば、地域資源をエネルギー材料へと変換できる。廃プラスチックを燃やすのではなく炭素材料へアップグレードできれば、廃棄物処理と材料供給を同時に変革できる。
実用化に向けた循環プロセスの設計
ただし、材料として優れているだけでは十分ではない。未利用有機物を炭素材料へ変換する技術で真に地球環境へ貢献するには、原料調達から前処理、炭素化、精製、製品化、使用、回収までを含めた循環プロセスとして成立させる必要がある。
そのためには、材料性能だけでなく、経済性やライフサイクル全体でのCO2排出量を評価しなければならない。実用化時に大量のエネルギーや薬品を使えば、環境負荷を別の場所へ移すだけになりかねない。炭素材料を「作る」だけでなく、「どこから作り、どのように使い、どのように循環させるか」まで設計することが、炭素循環経済の実現には不可欠である(図3)。
未利用有機物を炭素資源として捉え直し、高機能材料へ変換できれば、資源の海外依存を減らし、新たな産業の創出にもつながる。今後は、炭素化メカニズムの解明と社会実装を両輪として進め、持続可能な炭素循環社会の実現に貢献したい。
