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地球環境特集
〔5面〕温暖化対策を組み込んだ“まちづくり”
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東京大学大学院 工学系研究科 教授 村山 顕人
【執筆】東京大学大学院 工学系研究科 教授 村山 顕人
東大院工学系研究科都市工学専攻博士課程修了。博士(工学)。名大院環境学研究科准教授などを経て、24年(令6)7月より現職。専門は都市計画(土地利用計画・市街地整備・マスタープラン・計画策定技法)で、気候変動対策にも取り組む。
都市の物的環境を形成する都市計画・まちづくりには、気候変動緩和策・適応策の即地的両立が求められる。今後は人口減少による土地の空洞化や管理不全も踏まえた都市の構造と土地利用のビジョン、さまざまな利害関係者が存在する既成市街地の再整備に、気候変動対策を組み込むことが重要となる。そのためには、環境に関わる法制度と都市計画に関わる法制度の連携や、さまざまな主体が参加するまちづくりのプロセスが必要だ。
気候変動と都市
都市における人間の活動が二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガス(GHG)を排出し、気候変動を進行させている。CO2排出量(電気・熱配分後)の内訳を見ると、都市活動に起因する家庭部門、業務その他部門、運輸部門が約半分を占める。さらに人口の9割以上が国土の約4分の1を占める都市地域に居住する日本の実態を考えると、都市におけるGHG排出量の削減は重要だ。
同時に、都市は水害の頻発化・激甚化、夏の暑熱環境の悪化、感染症の流行などの気候変動の影響も受ける。人口が集中する都市は暴露量が多く、エリアによっては脆弱(ぜいじゃく)性も高い。
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信号待ちスペースに設置された日除け(韓国ソウル)
よって、都市の物的環境を形成する都市計画やまちづくりに、気候変動の進行を食い止める緩和策と、気候変動の影響に備える適応策を組み込むことが重要である。都市計画とは建物・外構・公共空間で構成される多様な土地利用とさまざまな都市基盤の配置に関する自治体の計画で、規制・誘導・事業の手段によって実現される。まちづくりとは人々の暮らしを支える物的・社会的環境を関係多主体の協働によって形成していく、主に地区スケールの取り組みである。
緩和策と適応策の即地的両立
都市計画・まちづくり分野の緩和策としては、建物や交通システムの省エネルギー化、持続性の高い地区への更新、エネルギー効率の高い都市構造の実現などが挙げられる。
都市のスケールで考えると、低密度な市街地が広がり商業業務機能があちこちにあり、公共交通が成立しないので自動車で移動せざるを得ない拡散型の都市構造よりも、ネットワーク化された鉄道の駅を中心に高密度な市街地が形成され、多くの人々が公共交通・徒歩・自転車で暮らす集約型の都市構造の方が、エネルギー効率が高い。地区のスケールで考えると、垂直移動にエネルギーを要する超高層建物の高密度な地区や、水平移動にエネルギーを要する一戸建て住宅の低密度な地区よりも、適度な密度に商業業務や住宅の用途が複合する、歩いて暮らせる地区の方がエネルギー効率が高い。
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歩道に設置された雨水マネジメント施設(米国ワシントンD.C.)
一方、適応策としては海面水位の上昇・外水氾濫・内水氾濫といった水害や降雨パターンの変化に伴う土砂災害に対応した土地利用計画・規制、建物の配置や高さの工夫による風の道の確保、過酷な温熱環境を改善する街路樹の整備、土地・建物被覆の改善、猛暑日に避難できるクーリング・シェルターの整備などが挙げられる。
緩和策と適応策には相互のシナジーやトレードオフがあるため、都市の物的環境を即地的に構想・計画して形成する都市計画・まちづくりの現場では、その両立が求められる。現場をサポートするには、気候変動対策に関わる法制度と都市計画・まちづくりに関わる法制度の連携も必要となる。
都市の構造と土地利用
名古屋市では2010年頃に、50年を見据えた水循環、低炭素都市、生物多様性に関わる三つの先進的な環境都市のビジョンと戦略が策定され、その後の環境基本計画や環境系の各種実行計画、都市計画マスタープラン、緑の基本計画の方向性が定められた。
その後の名古屋市の都市計画マスタープラン(11年、20年)では、しばらくは人口増加が続くことを前提に都市機能や居住を都心部や駅そば生活圏(鉄道駅から800メートルのエリア)に集約し、それらをネットワーク化する「集約連携型都市構造」が目指されている。これは東京23区に比べて自動車分担率が高く、公共交通分担率が低い交通分担率を踏まえ、自動車から公共交通への転換を土地利用からサポートするものである。
今後、人口減少が想定される名古屋市や既に人口減少が進んでいる多くの都市では、拠点とその周辺の都市機能や居住を維持する一方で、人口減少によって空き家・空き地が発生する郊外や、管理不全の農地・森林が発生する都市と田園の間のビジョンと戦略が必要となる。気候変動に対する緩和策のみならず適応策、さらには生物多様性、資源循環、食料自給率の向上を含む幅広い環境問題も意識しなければならない。
地区の持続的再生
気候変動と都市化によって市街地の温熱環境が変化し、35度C以上の猛暑日が増加する。新たに外水氾濫・内水氾濫の影響を受ける市街地も出てくる。
人口増加が見込めない日本の都市では、大規模工場などの跡地の再開発や、さまざまな利害関係者が存在する既成市街地の再整備が急務である。地権者、営業者、居住者、市民、企業、行政、非営利団体、エリアマネジメント会社といった多様な主体の協働により、GHGの排出量が少なく、猛暑や水害に耐えられる市街地をどのように整備するかが課題になる。
建物・外構・公共空間で構成される地区の経済・社会・環境面の持続性を評価・認証する仕組みとして、日本の「CASBEE―街区」、米国の「LEED―ND」や「LEED for Cities and Communities」、フランスの「エコカルティエ」などがある。また生物多様性や自然共生に焦点を絞った評価・認証の仕組みとして、日本の「自然共生サイト」や「ABINC認証」、「TSUNAG」などもある。
こうした制度は気候変動緩和・適応を含む幅広い環境対策を開発に求め、そのパフォーマンスを評価するものであり、良質な物的環境の形成に貢献する。ただし、多様な主体が関わり将来の確定的な計画図・設計図が描けない一般の既成市街地に対しては、多様な主体の協働で地区を持続的に再生していくまちづくりのプロセスが必要だ。例えば米国オレゴン州ポートランドで始まった「エコディストリクト=図」とその発展型である「ジャストコミュニティズ」の枠組みが、そのヒントとなるだろう。
