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地球環境
4月29、30日にイタリア・トリノで主要7カ国(G7)の気候・エネルギー・環境大臣会合が開催された。地球は気候変動、生物多様性の損失、汚染という三つの世界的危機に直面していることを明らかにした。これを踏まえ、初めて石炭火力発電の段階的廃止のための年限明記や、パリ協定が定める透明性報告書の提出目標が採択された。世界の再生可能エネルギーによる発電量3倍を目指すため蓄電システムやスマートグリッドなどの導入拡大を確認した。そうした中、日本ではPPA(電力販売契約)方式をはじめとした再生エネの普及拡大や、水素のサプライチェーン(供給網)確立に向けた取り組みが加速している。また、教育機関でのカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)に向けた研究や環境への取り組みも進んでいる。地域で環境・社会・経済の課題を解決する〝ローカルSDGs〟も広がりつつあり、各自が持続可能な社会を実現するために挑戦を続けている。
学生が地球を救う
福井大/エネルギー使用量抑制 電気料金・環境負荷を低減
福井大学は「クリーンなキャンパスと地球のために」という環境方針の下、環境との調和と環境負荷の低減に努めている。また地域に根ざした大学として、地球環境の保全や改善に向けた教育・研究を積極的に展開する。
2022年度は医学部(松岡キャンパス、福井県永平寺町)を中心にエネルギーの使用量抑制に取り組んだ。付属病院を抱え電気料金高騰のあおりを受けたことなどから、医学部長指揮下での改善活動をスタートした。
空調機器は中央制御のエアコンについて、体感温度が夏場28度C、冬場20度Cになる設定とし、消し忘れのための措置として21時、24時、2時の3回、強制停止をかける措置をとった。18年に空調を改修した臨床研究棟は当時のトップランナー基準をクリアした空調機を導入しており、個別の設定として「AI自動運転モード」に切り替える設定とした。センサーが室内の温度だけでなく外壁の温度や湿度も感知、室内環境を学習して適正な温度管理を自動で行う。
24時間稼働する付属病院では電気式のターボ冷凍機を導入したり、文京キャンパス(福井市)の総合研究棟1や教育系1号館では空調機を遠隔監視して省エネサポートを受けられる仕組みを導入したりするなど、学部や棟ごとに最適な取り組みを模索している。さらに冷蔵庫・フリーザーのベース電力を削減させるために、医学部の研究棟全体で使用されている機器の使用状況について調査。型式が古くエネルギー効率が悪いものや使用の少ないものをピックアップするとともに、使用する冷蔵庫・フリーザーを集約して約110台を廃棄処分した。
照明についてもランプの間引きや人感センサーの点灯時間短縮などを行った。これらの取り組みの結果、22年度の電力使用量は21年度に比べて約20万キロワット時削減でき、電気料金の平均単価に換算すると年間で約439万円削減したことになる。
このほか、22年4月にSDGs推進室を発足し学生への啓発活動を行っている。県内自治体や企業と連携した取り組みをはじめ、年1回、SDGsの学びを深め、考えを取り入れた活動の推進に資するイベントを行う方針。また24年度は学生公募(付属学校含む)を行い、SDGsに関する自主活動を、1件当たり10万円で3件支援する。採択された活動はシンポジウムで発表するなどして、地域社会への波及効果を見込む。
玉川大/バイオチャー 森林に散布 CO2削減 緑地機能回復
玉川学園(東京都町田市)は350種類以上の多様な植物が1万本以上が息づいている。幼稚部から大学・大学院までが集い、幅広い教育活動を実践。1929年の創立以来、人間文化の価値観をその人格の中に調和的に形成する「全人教育」を教育理念の中心に掲げる。
中でも教育信条の一つである「自然の尊重」を推進するため、玉川大学は学年や学部、学科、研究室を横断した環境保全活動と環境教育を行っている。
2022年4月から開始した「Tamagawa Mokurin Project」では、従来から木を教育環境に取り入れる「Tama Tree」に加え、新たに「マイナスカーボン」の要素を追加した。木材低温乾燥装置の導入をきっかけに、それぞれの研究室が行っていた環境分野に関する研究や取り組みを繋げて学内でのシナジー効果を見込んでいる。
玉川大学農学部の友常満利准教授、農学研究科修士2年の杉崎義和さんらによる研究グループでは、枯れ枝や倒木、学内の製材加工時に発生した端材などを炭化しバイオ炭(バイオチャー)として炭素を貯留するとともに、森林に散布することで樹木のCO2吸収量も高める実証実験を行っている。
樹木は光合成でCO2を吸収する一方、枯死した樹木(有機物)が微生物に分解される過程でCO2が放出される。炭はほぼ分解されないため、長く炭素を大気から隔離することとなり、簡易的な方法では30-70%、工業的な方法ではそれ以上の炭化率が期待される。また、古くから農地では炭を土壌改良剤として用いてきたことから、緑地全般のCO2吸収機能の向上も期待できる。都市緑地を対象にバイオチャーの生成や散布を含めた森のCO2吸収機能の研究を行う杉崎さんは「農業や林業、造園業の企業から興味を持ってもらえるようになった」と手応えを語った。
現在、生態系生態学研究室では年間約1トンのバイオチャーを生産し、炭素を隔離している。「次のステップとして、研究室レベルから地域レベルでの方策を探っていく」と友常准教授は意気込む。
森林にバイオチャーを散布し炭素隔離量を評価する算定式はまだ確立されていないという。友常准教授を含む研究グループは環境省などからの助成を受け、省エネ設備の導入や再生エネの利用によるCO2排出削減量や、適切な森林管理によるCO2の吸収量を「クレジット」として国が認証する制度である「Jークレジット」に新たな算定式を組み込むことを目指している。
大分工高/筏型水車、川の水流で発電 難題乗り越え世界を変革
【執筆】大分工業高等学校 機械科教諭 佐藤 新太郎
近年の工業教育は社会の急激な変動に伴って大きな変化が求められている。本校でも自分の興味・関心に応じてモノづくりに取り組む「課題研究」という授業に力を入れている。その成果を可能であれば広く世の中に発表することもある。実際に特許を取得して社会実装する場合も見られる。
そんな中、「私たちの通学路で女子高生が危険な目にあった」というショッキングな情報が入ってきた。まさにリアルな課題である。まずは現地調査から開始した。生徒と歩いてみると、防犯灯が少ないことが分かった。地球温暖化について学習したばかりの彼らは現場近くを流れる寒田川に水車を設置し、そこで得られた再生可能エネルギーで防犯灯を照らそうと思いたったのである。
すぐに生徒は「水利権」という大きな壁にぶち当たる。数日間、重苦しい作戦会議が続いた。ほどなくして、「持ち運びができる水車を作れば水利権は関係ない」と、設置せず持ち運びができ、川に浮かべれば水流で発電できる筏(いかだ)型水車を編み出した。
水車の発表をきっかけに学校内だけでなく学外からも支援者が来てくれるようになった。「水車は災害とセットで考えないといけない。この筏型水車は、水害時に川へ近づくことができず危険ではないか」というアドバイスを大分県教育委員会の教育委員からいただいた。私たちはこのアドバイスを取り入れることにした。水車にスタンドを取り付けることをひらめき、早速改良に取りかかった。
この水車を特許出願まで弁理士が無料で支援する「令和4年度パテントコンテスト」(文部科学省、特許庁ほか主催)に応募すると、全国から539件の応募の中から優秀賞を受賞することができ、さらに特許も取得できたのである。
さらに水車の輪は広がる。ケニアで医療ボランティア支援を行う医師から「この技術は世界各国の無電化地域において活用が見込まれるものだ。照明がなく夜中勉強ができなくて困っている子どもを助けてほしい」という思いがけない言葉をいただいた。この取り組みは現在進行中である。
振り返ると、まさかこんなドラマチックな展開が待ち受けているとは思いもよらなかった。しかし、これがこれからの工業教育であってほしい。課題に苦労しながら果敢に立ち向かった生徒たちは、大きく成長できたと思う。今後も「この世界は変えられる」と勇んで行動できる若者を育成したい。そしてさまざまな課題に立ち向かう仲間をつくっていきたい。