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地球環境
4月29、30日にイタリア・トリノで主要7カ国(G7)の気候・エネルギー・環境大臣会合が開催された。地球は気候変動、生物多様性の損失、汚染という三つの世界的危機に直面していることを明らかにした。これを踏まえ、初めて石炭火力発電の段階的廃止のための年限明記や、パリ協定が定める透明性報告書の提出目標が採択された。世界の再生可能エネルギーによる発電量3倍を目指すため蓄電システムやスマートグリッドなどの導入拡大を確認した。そうした中、日本ではPPA(電力販売契約)方式をはじめとした再生エネの普及拡大や、水素のサプライチェーン(供給網)確立に向けた取り組みが加速している。また、教育機関でのカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)に向けた研究や環境への取り組みも進んでいる。地域で環境・社会・経済の課題を解決する〝ローカルSDGs〟も広がりつつあり、各自が持続可能な社会を実現するために挑戦を続けている。
電力や運行管理 最適化
【執筆】電力中央研究所 グリッドイノベーション研究本部 ENIC研究部門兼社会経済研究所副研究参事 高橋 雅仁
【略歴】1994年東大院理学系研究科物理学専攻修士課程修了、95年電力中央研究所入所、2017年 東大博士号(工学)取得。
商用車 電動化実証始まる
国内外で商用車の電動化の実証や技術開発がスタートした。電力中央研究所は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のグリーンイノベーション事業において、電動車のエネルギーマネジメントと車両運行管理を最適化するシミュレーションシステムを開発している。運輸部門の脱炭素化に向けて充電インフラ配置の最適化や、再生可能エネルギーを活用した充電に関する研究開発を行っている。
EV充電インフラ整備アクセル
政府は2050年までにカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)実現を目指すことを宣言した。第6次エネルギー基本計画では30年度の温室効果ガス排出量46%削減(13年度比)、さらに50%削減の高みを目指す目標が設定された。
国内の運輸部門からの二酸化炭素(CO2)排出量のうち、乗用車は46%を、商用車は41%を占める。商用車は乗用車よりも台数は少ない半面、年間走行距離が長く燃費が悪いことから、CO2排出量は乗用車の4割以上にもなる。電動車の普及は運輸部門の脱炭素化を推進する有力な手段として期待されている。
脱炭素を目指す潮流から、国内外で運輸事業者が電気自動車(EV)へ置き換える動きが見られる。トラックやバス、タクシーなど商用車の電動化に関する技術開発や実証も始まっている。
スウェーデンでは完成車メーカー(OEM)や運輸事業者、充電ステーション事業者、電力会社、政府が参加するプロジェクトが開始された。
OEMが提供するディーゼルトラックの実走行データを用いて、国内の交通量シミュレーションを行い、充電拠点の配置の分析が行われている。休憩時間中の45分内に充電するため、超急速充電器での実証が計画されている。
商用車は自家用車よりも走行ルートや稼働時間帯の予測が比較的容易で、EV化や充電の計画を立案しやすいメリットがある。しかし普及の課題として次の3点があげられる。
1点目はコストが高い点である。導入コストが高く、現時点では補助金など政策措置を必要とする。一方、ガソリンなどと比べて電気は安価なためランニングコストは抑えられる。
2点目は運送業務への影響が懸念される点である。長距離運行する商用車が、充電時間のダウンタイムで業務に支障をきたす恐れがある。運送の影響を最小化するために、電池容量を増やす、超急速充電器や電池交換式など、高速で充電・充填可能な充電インフラ整備や水素充填が可能な燃料電池車(FCV)の導入が考えられる。
3点目は再生可能エネルギーを活用するため、EVの充電制御や蓄電池の導入といったエネルギーマネジメントが必要な点である。
当研究所推計によると国内全ての乗用車とトラックがEVに置き換わった場合、日本全体の電力需要は2―3割増加すると見込んでいる。
再生エネ活用シミュレーション
当研究所は22年度からNEDOのグリーンイノベーション基金事業「スマートモビリティ社会の構築」の委託事業に、産業技術総合研究所、自動車技術総合開発機構交通安全環境研究所、ダイナミックマッププラットフォームとの4機関で参画し、EVやFCVの導入に向けたエネルギーマネジメントと車両運行管理を最適化するシミュレーションシステムを構築している。
同事業で当研究所は次世代自動車交通シミュレーター「EV―OLYENTOR」と配電系統総合解析ツール「CALDG」を改良・活用することで再生エネを活用した商用EV導入と充電インフラ整備に向けたシミュレーション手法を構築している。
充電・充填インフラの配置やコスト、電動車の普及時の配電系統への影響、地域内の再生エネ、CO2排出削減効果、運行効率への影響を評価する計画である(図1)。
EV―OLYENTORのプロトタイプを用いた例を紹介する。宅配事業者の営業所を対象に、交通シミュレーターを用いて営業所の基礎充電量を推定した。EV配送車は稼働時間帯8―21時の間に、営業所周辺の各担当エリアで配送を行い、走行時の電力消費を計算する。
図2は晴天時の営業所におけるEV配送車10台を運用した場合の基礎充電量の推定結果を示している。多くは夜間に系統電力で充電し、昼休みに太陽光発電(PV)電力で充電できればCO2排出量はさらに削減できると期待されている。
しかし、PV発電時間帯にEVが稼働しており営業所にいないためPVを最大限に活用できないことが見込まれ、その対策が必要である(図3)。
現状、商用EVは事業所の基礎充電がメーンであり、その結果、基礎充電でカバーできる商用車のエリアでしか電動化されない。
今後、充電インフラの空白地域が生じる可能性がある。商用電動車の充電を賄い、脱炭素化に必要十分なインフラ整備計画が必要である。運送事業者のEV導入を支援するため基礎充電以外の充電手段が求められている。
商用車の電動化は国内外で実証事業や技術開発が開始した段階である。実証を通じて車両のパワートレインや充電・充填インフラなど最適な技術選択の検討が進むと予想される。当研究所もグリーンイノベーション事業での研究活動を行い、政府や運輸事業者、OEM、電機事業者をはじめとした実際に事業を行うステークホルダーへの支援を通じて運輸部門の脱炭素化という目標に貢献していく。