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地球環境
4月29、30日にイタリア・トリノで主要7カ国(G7)の気候・エネルギー・環境大臣会合が開催された。地球は気候変動、生物多様性の損失、汚染という三つの世界的危機に直面していることを明らかにした。これを踏まえ、初めて石炭火力発電の段階的廃止のための年限明記や、パリ協定が定める透明性報告書の提出目標が採択された。世界の再生可能エネルギーによる発電量3倍を目指すため蓄電システムやスマートグリッドなどの導入拡大を確認した。そうした中、日本ではPPA(電力販売契約)方式をはじめとした再生エネの普及拡大や、水素のサプライチェーン(供給網)確立に向けた取り組みが加速している。また、教育機関でのカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)に向けた研究や環境への取り組みも進んでいる。地域で環境・社会・経済の課題を解決する〝ローカルSDGs〟も広がりつつあり、各自が持続可能な社会を実現するために挑戦を続けている。
洋上風力発電のこれから
【執筆】三菱総合研究所 エネルギー・サステナビリティ事業本部 GXグループ 主席研究員・特命リーダー 寺澤 千尋
【略歴】2008年に三菱総合研究所に入社後、年以上にわたり再生可能エネルギー分野のプロジェクトに従事。近年は官公庁、業界団体、民間企業などの顧客に対し、日本における洋上風力の導入拡大に関する調査・コンサルティング業務を多数実施。
国際競争勝ち抜き GX貢献
産業・社会構造をクリーンエネルギーへ転換するグリーントランスフォーメーション(GX)。成長産業として期待される洋上風力への注目は高まっている。ロシアのウクライナ侵攻に端を発するエネルギー危機が、脱炭素化とエネルギー・経済安全保障の流れを一気に加速化する中、日本が厳しい国際競争に勝ち抜き、GXに貢献する洋上風力産業を創出するための道筋とは。
日本への投資優先度向上急務
温室効果ガス排出量の50年ネットゼロ実現に向けた重要な電力供給源として、世界的に洋上風力の導入が進む。ロシアによるウクライナ侵攻でエネルギー危機が発生し、エネルギー・経済安全保障の観点からも洋上風力の重要性が高まるとともに、各国の産業育成政策の強化が進んでいる。
エネルギー危機に直面した欧州では、欧州委員会によるロシア産化石燃料依存からの脱却計画「REPowerEU」や、英国エネルギー安全保障戦略が発表されるなど、エネルギー政策の抜本的な見直しが行われている。また、矢継ぎ早に洋上風力の導入目標が上方修正された。
米国も50年目標および洋上風力拡大戦略を公表している(図1)。
さらに、今後の市場拡大に不可欠な新技術である浮体式洋上風力の商用化も急速に進んでおり、欧米や韓国には、すでにギガワット規模の浮体式洋上風力開発計画がある。
また、洋上風力の入札においてコストを最重視する制度から、産業育成とのバランスを重視する制度へと方向修正が行われている。
英国は国内サプライチェーン(供給網)への社会的・環境的・経済的インパクトに関する最低基準を満たすことを差額決済契約(CfD)入札への参加条件を検討している。例えば国内での工場建設など、優れた取り組みを約束したプロジェクトに対して追加的支援を行う制度変更を進めている。
米国でも国内生産された製品の採用や、人材・産業育成支援に投資する事業者に対して税額を控除するインセンティブ制度を導入している。
このように、世界各国の市場形成と産業育成競争が激化する中、日本がこの競争に勝ち抜き、国内への産業育成を実現するためには、図2の施策を総合的に推進し、日本市場の魅力と投資優先度を上げることが急務となっている。
意欲的な導入目標カギ
日本市場の投資価値を向上させるためには、第一に世界に見劣りしない「意欲的な導入目標の設定」が必要となる。現在政府において、第7次エネルギー基本政策の検討が進められており、24年度中に新たな導入目標が示される見込みである。
浮体式洋上風力の導入目標を含め、意欲的かつ野心的な数字を世界に発信することが強く望まれる。
また、意欲的な導入目標の達成には、大きなポテンシャルを有する排他的経済水域(EEZ)への展開が必須となる。現在、EEZへの洋上風力開発を可能とする「再エネ海域利用法」の改正が進められており、今後EEZ開発に関する具体的な運用ルールが決定されていく。
EEZ開発、漁業関係者と対話促進
EEZへの展開はプロジェクト規模の拡大も期待できるものであり、早期の法案成立と運用ルールの具体化が望まれる。
導入目標に次いで重要となるのは、「洋上風力の有望海域を特定することによる中長期市場の見える化」である。
有望海域の特定は日本市場の予見性向上をはじめ、50年までの長期導入目標、効率的な港湾や系統インフラ整備など、全ての施策のベースとなる。この施策を進めるにあたり、漁業が盛んな日本においては、洋上風力と漁業の協調を実現するための漁業関係者との対話促進が必須となる。
そして両産業の対話促進には、日本の導入目標達成に必要となる開発海域の位置と、その占有面積に関する基礎的な情報の提示が必要である。
これを踏まえ、三菱総合研究所は自然環境データや海域利用データなどに基づく洋上風力のポテンシャル海域の抽出を試みた(図3)。この分析は限られたデータに基づく機械的な分析で、実際の開発可能海域は分析値から大きく減少するものの、着床式70ギガワット、浮体式2396ギガワット相当のポテンシャルが確認された。
国の導入目標(40年30-45ギガワット)や50年の必要導入量(50年100ギガワット、日本風力発電協会試算)は、その数%程度。船舶航行や漁業への影響を最小限に抑えながらこれらの目標を達成できる十分な可能性が示された。
分析条件や結果の詳細は、当社のニュースリリースで4月に公表している「日本の洋上風力ポテンシャル海域 洋上風力と漁業の未来共創につながる好循環の形成に向けて」を参照されたい。
漁業関係者との対話を促進し、洋上風力と漁業の協調を実現していくためには、経済産業省、水産庁、内閣府、国土交通省、環境省などの関連省庁の連携が必須になる。その際、漁業関係者との密なコミュニケーション、関連データの集約や分析において、自治体や産業界、学術界にも果たせる役割がある。GXに貢献する洋上風力産業の創出に向けて、官産学が一致団結した取り組みが望まれる。