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2025“超”モノづくり部品大賞
講評② 環境・資源・エネルギー関連分野/健康福祉・バイオ・医療機器分野/生活・社会課題ソリューション関連分野
【環境・資源・エネルギー関連分野】 東北大学大学院 教授 松八重 一代 氏/循環経済構築提案多く
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東北大学大学院 教授 松八重 一代 氏
世界各地で相次ぐ武力衝突、政治対立などで戦略的資源や素材、半導体部品などの国際貿易市場で緊張感が高まっている。企業は炭素排出の最小化をはじめ、サプライチェーン(供給網)を通じた責任ある資源調達、部品供給網リスク環境の改善・緊張緩和に資する技術導入が求められている。今回のさまざまな新規部品・素材の提案にも炭素中立やサーキュラーエコノミー構築に資する技術提案が多く、意欲的に炭素排出量の削減や資源生産性の向上に貢献する志向がうかがえる。
今回、“超”モノづくり部品大賞を受賞したOSGの「高性能・低炭素型転造タップ GREEN TAP『GRT』」は従来の製造方法で実現不可能な工具形状を、コンピューター解析をもとに設計し、工具の折損強度を高め、工具の寿命と精度を向上。加工時の発熱抑制のため、流体解析で工具形状を最適化し、高速加工を実現した。職人技・経験ベースの技術をデジタル化で技術開発につなげて評価された。熟練工不足が懸念される中、こうした実践事例の拡大は重要性が増しており意義深い。
「環境・資源・エネルギー関連部品賞」を受賞した寿原テクノスの「ハイブリッドチルベント」は、ベリリウム銅製チルベントのガス抜き性能と、鋼材製チルベントの耐久性を併せ持つ。従来製品と同等の大きさのまま高いガス抜き効果を発揮し、ダイカストの鋳巣を低減する。ベリリウム銅の消費量を最小限に抑え、部品点数減少でメンテナンス性も向上するなど環境面への貢献が評価された。
CKDの「パルスブローバルブ BNPシリーズ」は、圧縮空気の消費量を大幅削減し、省エネルギーの観点から意義深い。産業界全体の環境負荷軽減にもつながるだろう。SMCの「半導体業界向け・フロンレス(CO2)チラー/HRZCシリーズ」は、半導体製造のフッ素系ガス消費削減を実現、環境負荷を大幅低減。半導体業界でフロンレス技術実用化は大きな意義を持つ。今後の実装評価が期待される。キッツの「液化水素用大口径ボールバルブ」は来たるべき水素社会を支える重要な技術だといえる。宇宙事業でも水素需要拡大が見込まれ需要が増大しそうだ。
これらの受賞製品は、環境負荷削減、資源活用、エネルギー効率向上といったテーマでモノづくりの可能性を広げる。各企業による技術革新の成果は、産業界の成長と持続可能な社会の実現に貢献すると確信している。
【健康福祉・バイオ・医療機器分野】 ユニバーサルデザイン総合研究所 所長 赤池 学 氏/国際競争力開拓が不可欠
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ユニバーサルデザイン総合研究所 所長 赤池 学 氏
医療福祉、バイオ分野のモノづくりには、その活用作業の合理化といったユーザービリティー、多様な心地良さを提供するウェルビーな技術開発が期待される。一方で、国内外で高まる環境制約、特定化学物質の使用、輸入を禁止しているPFAS規制などへの対応、そして何より食用品を含めた多様な産業資源の高騰など、グローバルトレンドを踏まえながら闘う、国際競争力の開拓が不可欠になっている。
そうした中で、今年度、「モノづくり日本会議共同議長賞」に魁半導体の「PTFE粉体の親水化を実現する環境調和型プラズマ処理技術」が選ばれた。
粉体の水中分散をプラズマ処理で実現している日本発の表面改質技術で、廃液処理が不要となり、薬品コストや廃棄物処理費用を大幅に削減することができる。
すでに、受託処理サービスの展開が始まっているように、難燃性を付与する建材への添加材、生体適合性を実現する医療材料などへの高い市場性が確信できる。
「日本力(にっぽんぶらんど)賞」に輝いたのは、日本精工の「食用油劣化抑制フィルター」である。
同社の基幹商材であるベアリングの潤滑油劣化を抑制する技術を、食用油に展開した異分野融合への挑戦である。
食品ロスをはじめ、廃油の削減、作業負担とコストの削減という一石三鳥の課題解決を実現する、なるほど!と感動させられたチャーミングな技術開発だ。
そして「健康福祉・バイオ・医療機器部品賞」は、エコサイクルの「高速バイオレメディエーション用EDC—Superおよび添加剤」が受賞した。
浄化に長い時間を要する従来の化学分解法を用いたバイオレメディエーションの課題に着目し、生分解性のタンパク質、ビタミン、ミネラルなどの食品材料で土着微生物による嫌気的脱塩素化を図り、汚染土壌の回復を図るネイチャーベース技術である。
すでに竹中土木をはじめとする先進企業に支持されている技術である。
今回の“超”モノづくり部品大賞を受賞した当分野の事業者たちから学べることは、これまで連携の図られていなかった研究知財や、協働を図ってこなかった新規市場への“イノベーティブな補助線を画策するモノづくり”の大切さである。
【生活・社会課題ソリューション関連分野】 東北大学 名誉教授 石田 秀輝 氏/高レベルな美しい部品たち
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東北大学 名誉教授 石田 秀輝 氏
部品だって美しくなければならないとずっと思っている。ビジュアル的な美しさも無論あるが、それにも増して、地球環境への配慮も含めたストーリーとしての美しさだ。そういう視点では今年の応募部品はどれも皆、高いレベルのものが多くワクワクするものの、審査そのものはとても難しかった。いささか抽象的な表現をするなら、従来の延長では全く到達できないレベルでの、まさにバックキャスト的視点によるイノベーティブな部品開発が多かった。
「ものづくり生命文明機構理事長賞」を受賞されたリファインホールディングスの「RegeNature及びその成形体」は、100%バイオ・プラスチックだが、基材とする100%バイオ・コンパウンドと多種の未利用資源(木材、貝殻、コーヒーかすなど)を主剤(20—80%)として混合し、基材の調整により、押し出し、ブロー、カレンダーなどの広範囲な成形を可能にする従来のバイオ・プラスチックにはない、極めて汎用性の高いコンパウンドの開発である。競合商材は見られず、日本初の画期的な材料として高く評価できる。
「日本力(にっぽんぶらんど)賞」を受賞した豊田合成の「廃車由来の再生プラスチックを使用したグラブボックス」は、廃車由来の再生プラスチックを50%配合し、耐衝撃性能が求められる車の内装部品に利用したものであり、環境性能はもとより、いその(名古屋市東区)による高品質の廃車由来プラスチックの安定供給という動静脈連携による世界に誇れる成果といっても良い。折しも、マテリアルリサイクルによる再生プラスチック市場の拡大を目指してSusPlaが設立され、両社はその主力メンバーでもあり、これらの成果を世界へ拡大してほしい。
「生活・社会課題ソリューション関連部品賞」に選ばれた奥村組の「VOD(性能可変オイルダンパー)」、冨士ダイスの「電気化学反応用 高性能電極『PME』」、ENEOSの「サーバー冷却用液浸冷却液『ENEOS Ⅸシリーズ』」もともに従来の概念に縛られない画期的な部品であり、高く評価したい。
今回受賞した部品たちの開発には、越えるべき多くの障壁があったことは想像に難くないが、それを一つひとつ丁寧に超えた先に、美しいストーリーが描かれたことは感動的でもあり、さらなる未来を期待したい。
