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2025“超”モノづくり部品大賞
講評① 機械・ロボット分野/電気・電子分野/モビリティー関連分野
【機械・ロボット分野】 日本工業大学 工業技術博物館 館長 上智大学 名誉教授 清水 伸二 氏/概念突き破る新たな発想
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日本工業大学 工業技術博物館 館長 上智大学 名誉教授 清水 伸二 氏
2025年度の“超”モノづくり部品大賞の機械・ロボット分野には、46件と多数の独創性に富む部品のご応募をいただいた。
これらの中で、“超”モノづくり部品大賞には、複数の分野から高い評価を得たOSGの「高性能・低炭素型転造タップ GREEN TAP『GRT』」が選ばれた。多くの製造現場で、小径タップの加工は折損が多く、生産性を高める際に最大のネックとなっていた。それを、ねじ山を変化させながら塑性変形させるという独創的な加工プロセスを開発するとともに、強度、加工、温度の解析を詳細に実施して最適形状とすることにより、耐折損性を高め、さらに工具寿命をも飛躍的に延ばした。
「日本力(にっぽんぶらんど)賞」としては、当分野から2件が選ばれた。そのうちの1件は、スギノマシンの「ロボットマシニングユニット『SELFEEDER DUO Robot Edition』」である。従来とは異なり、ロボットは姿勢と位置を決めるだけで、切削加工のための工具の送りや回転運動は、エンドエフェクターが行う方式とした。ロボットによる切削加工の基本概念を覆すもので、これまでのロボットによる切削加工に新たな指針を与えるものとして注目される。もう1件はDMG森精機の「Process Force Monitor」である。歪み型センサーに基づく、切削力の3方向成分を計測するシステムである。主軸頭のハウジングにセンサーユニットを取り付けることができ、従来の歪み型センサーの大きな欠点であった主軸系剛性低下を生じさせない画期的なシステムである。
「機械・ロボット部品賞」には、今年度はレベルの高いものが多く8件が選ばれた。このうちの5件は、三菱マテリアル、フジキン、ソディック、プロテリアル、タンガロイの部品で、独創的なアイデアで加工精度、加工能率を飛躍的に高めた。他の2件は、オリエンタルモーターと安川電機で、制御装置関連で、前者は顧客が内製した非常に多種類のロボット(最大8軸)の制御を容易化した。後者は多軸化・多機能化にともない、制御精度や動作速度が遅くなる課題を解決した。もう1件はNTNで、特殊な熱処理技術を開発し、耐異物性の高い軸受を開発した。
今年は非常にレベルが高く、特に上位3件は、従来の概念を突き破り、全く新たな発想のもとに、長年にわたり持ち越されてきた困難な課題を解決したもので、今後の方向性を示す技術としても高く評価できる。
【電気・電子分野】 産業技術総合研究所 G—QuATセンター長 益 一哉 氏/世界最高峰の多様な部品群
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産業技術総合研究所 G—QuATセンター長 益 一哉 氏
今年度も電気・電子分野を中心に多くの応募をいただき、心より感謝申し上げます。受賞作品はいずれも高い技術力と独自性に支えられた素晴らしいものであり、また惜しくも選に漏れた製品にも優れた着想や工夫が見られました。モノづくりに携わる皆さまの不断の努力に深く敬意を表します。
日本の産業力の源泉は世界トップクラスの「経済複雑性指標(ECI)」にあります。これは、多様な分野で多様な製品を生み出す能力を示す指標であり、その基盤を支えているのが、高性能・低コスト・高信頼性の部品供給力です。部品をつくる力こそが日本の産業競争力の核心であり、モノづくりの裾野を広く支えています。
今年も電気・電子分野から優れた部品が多数応募されました。「日本力(にっぽんぶらんど)賞」を受賞したDMG森精機の「Process Force Monitor」は、主軸フランジ部の歪みを高精度に検出し、3方向の切削力をリアルタイム計測できる先進的な部品です。高感度・低コスト・メンテナンス性を兼ね備え、工作機械の自動化・高精度化を支える中核技術として評価されました。
また、今年の電気・電子部品賞には電源集積回路(IC)が選ばれました。あらゆる電子機器の背後には必ず電源が存在し、現代の膨大な電子システムを支える重要技術です。日清紡マイクロデバイスの「NC4650」は70ナノアンペアという超低消費電流を実現し、IoT(モノのインターネット)端末のバッテリー寿命を大幅に延ばします。トレックス・セミコンダクターの「XC9704/XC9705シリーズ」は36ボルト耐圧と小型化を両立した高効率DC/DCコンバーターで、限られたスペースで高効率を求める産業・医療・通信分野の課題に応える製品です。いずれも用途に寄り添った開発であり、企業の確かなマーケティング力と技術力が結実しています。
日本のECIの高さは付加価値の高いシステムを支える多様な部品群によって支えられています。今後も電気・電子分野から革新的な部品が生まれ、日本の産業力向上に寄与することを期待しております。
【モビリティー関連分野】 日本自動車研究所 代表理事・研究所長 鎌田 実 氏/変革期に製造業の底力発揮
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日本自動車研究所 代表理事・研究所長 鎌田 実 氏
今回はモビリティー分野にカテゴライズされたものはあまり多くなかったが、優れた技術の応募があり、興味深く拝見した。
「日本力(にっぽんぶらんど)賞」に選ばれた、豊田合成の「廃車由来の再生プラスチックを使用したグラブボックス」は、リサイクルを確実に進め、それがきちんと車両の一部に使われて量産されていることで、非常に高く評価された。このような先進性が、日本のモノづくりの強みだと思う。
「モビリティー関連部品賞」には、ジェイテクトの「第5世代 低トルク円すいころ軸受LFT—V」、ネクストコアテクノロジーズの「次世代高効率モータ向け新規コア材『HLMET』」、不二越の「樹脂インサート軸受」が選ばれたほか、「機械・ロボット部品賞」のNTNの軸受がモビリティーにも関連する。ジェイテクトのころ軸受は、比較的地味な改良ながら、確実に性能向上を達成し、こういったところも日本のモノづくりの優位性と言える。ネクストコアテクノロジーズのコア材は、極めて優れた性能を持つもので、今後の展開が期待される。不二越の軸受は、電食を防ぐために樹脂をインサートしたもので、既に普及が進んでいて素晴らしい。NTNの軸受は、新しい熱処理技術を使うことで長寿命・高負荷容量を実現し、それにより小型化も可能になっており、今後の採用が期待される。
さらに奨励賞となった住友ゴム工業の「次世代オールシーズンタイヤ DUNLOP『SYNCHRO WEATHER』」、MOLDINOの「ギガキャスト金型加工用工具シリーズ」も、優れた内容のものであり、今後の普及展開が期待される。
以上、今回のモビリティー分野での受賞内容を簡単にご紹介したが、世界的に見ると自動車産業は、電動化・SDV化など大きな変革期にあり、これまでの日本の製造業の優位性が揺らぐ危惧がある。日本の基幹産業である自動車産業が世界的な競争に負けないように、日本の製造業の底力を感じさせるような画期的な部品や要素技術の登場を期待したい。
最後に、部品大賞の上位賞として評価されるには、単なる性能向上などだけでなく、それが品質よく大量生産でき、リーズナブルなコストで採用されることも重要なファクターであると考えており、しっかりとした実績をもっての応募をお願いしたい。
