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第54回機械工業デザイン賞 IDEA
審査委員会特別賞
【加藤製作所】全旋回式クローラキャリアIC70R
本製品は開発に際して、マスマーケットである積載質量7トンクラスに照準し、顧客要望を受けて①輸送性②視界性③安全性④メンテナンス性-の改善策に注力している。後発メーカーとして、低重心・コンパクト・電子制御などの諸機能を盛り込み、安全性を追求した使いやすい全旋回式クローラキャリアのデファクトスタンダードになり得る可能性を秘めており、今後の展開が期待できる。
車両は「低重心化と走行速度制御機能」「荷台上げ操作制限機能」「オーバーラン防止機能」などを搭載し、各種制限機能により安全な作業を保証している。全旋回式キャリアは方向転換の際、上部を旋回させることで常時前方走行が可能であり、バック走行の必要がなく安全性・操作性を確保する。
狭い現場でも使用しやすく、旋回時の路盤保護、ゴムクローラーの消耗を低減させている。旋回してダンプアップすることで意図する位置への排土が可能であり、作業効率の向上に貢献している。
エンジン出力は140キロワット(毎分2200回転)、走行速度は時速8キロメートル(低速)・同12キロメートル(高速)。積載質量7トン、機械質量11・5トン、荷台容量4・0立方メートル。全幅2490ミリ×全高2680ミリメートルのコンパクトな車体で輸送性に対応する。
製品は運転席後方にエンジンおよび後処理装置を横置き配置(フロントミッドシップ構造)でレイアウトし、右側視界遮断部分をセットバック。前方視界が大幅向上し、操作性・安全性にこだわる。
左側レバーの走行とダンプアップ主操作は①アイドリング機能②コントロール機能③エンスト防止機能-をもつ独自の電子制御方式走行操作システムのジョイスティックレバーを採用。また、右手に荷台左右旋回動作機能を配置し、レバーを持ち替えることなく簡便な操作を可能とし、エンジンストールを気にしない走行・旋回を実現する。
安全性向上に加え燃費向上でCO2削減に貢献する。コンデンサー、バッテリー、燃料ポンプなどは大きく開くカバーにより保守性への配慮がある。
オペレーターの運転視界性を確保する運転者保護構造(ROPS)キャビンは、従来は右側に配置されていたエンジンおよび後処理装置を運転室後方にレイアウトし、セルフローダーに搭載時の高さを3・8メートル以下のコンパクト仕様とし、輸送性を向上させている。
車両は①走行ベースのゴムクローラー②エンジンや後処理装置を横置き配置し、キャビンを搭載する旋回部③油圧により昇降する耐摩耗鋼製荷台(ダンプ)-の3ブロックにより構成される。黄色と黒色のコンビネーションで土木機械・建設機械らしさをデザインする。
本製品は転倒リスクに配慮したハードとソフトの完成度が高く、ROPSキャビンにおける快適な居住性を基盤として、トータルバランスに優れた仕様展開を見せている。
唯一残念な点は、操作簡便性を向上させるための方策としてカラー液晶モニターの大型化と荷台稼働状況のリアルタイム・アニメーション表示が実現できていない点にある。これらの機能は、優位性確保のための操作性改善策であり、今後の課題解決に向けた再検討を期待したい。
FOCUS ON IT! ― 現物審査で注目されたデザイン技術開発
転倒抑制、視界確保で安全追求
開発本部設計第4部 課長 尾形 淳
2022年の災害統計によると、クローラキャリアを使用した事故の内容は転倒・転落であった。クローラキャリアの用途としてはインフラ整備や災害時復旧作業が多く、転倒リスクや視界確保について改善の余地があると考えた。これまでの当社クローラキャリア製品は固定式であったが、全旋回式クローラキャリアの場合、上部に主要機器および荷台を配置する必要から重心位置が高くなる傾向にあり、ユーザーからも安全性向上かつ作業性の良い全旋回式クローラキャリアの開発要望が多く寄せられていた。これらの課題を払拭し、安全かつ快適な作業を可能とする当社初の全旋回式クローラキャリアの提供を目指して開発を開始した。
まず転倒事故のリスクを低減するためにフレーム自体を低くするデザインに試み、最終的には重心位置を他社比250ミリメートル程度の低重心化を実現した。苦労したのは、旋回台フレームの構造において断面の高さを低く抑えフレーム自体を薄くしながらも、断面強度を確保した点である。今までの概念にとらわれず視点を変え、一から見直しを行った結果、目標の強度と低さを達成することができた。
また、近年の排出ガス規制に伴う後処理装置の大型化により、従来機のレイアウトでは右前方を直接視できず、視界確保のためには搭載機器配置を刷新する必要があった。そこでエンジンおよび後処理装置を運転室後方に横置き配置(ミッドシップ構造)し、後方に下げることで右前方の視界を大幅に向上させた。
同時に車体や現場の状況に合わせて利用できる当社独自の安全支援システムを搭載した。旋回位置状態や荷台上昇状態での走行および旋回速度を制限する「走行速度/旋回制限機能」や、9度以上の傾斜地での作業時に谷側への荷台上げを制限し転倒を防止する「荷台上げ操作制限機能」など、各種制限機能が働くことで安全な作業を可能とした。
全旋回式製品のラインアップ拡張に加え、今後もユーザーニーズに応える製品開発に努めていく。
【芝浦機械】双腕協働ロボットRIDRSシリーズ(H)
本製品の開発に際して、①ハンド拡張②ヘッド拡張③モーション拡張-により多様なアプリケーションに適合可能な、標準プラットフォームとしてのシステム展開に注力している。ロボット開発は、ともすれば本体ハードのみに焦点を当てているメーカーが多い中、コンセプトの「RIDRS(ロボット・インテリジェンス・ダイナミクス・リジェネレーション・システム)」設定段階からシステム受注を意図し、作業の多様化に対応可能な機能拡張を視野に入れた姿勢は好感が持てる。
本製品は従来の6軸小型ロボットとは異なり、片腕7軸(両腕で14軸)と腰の旋回・揺動2軸の全16軸の自由度を有している。軸構成における最大の特徴は、腰に揺動軸を追加した点にある。
開発に際しては、ヒトに近い動きを再現するべく、①ひじのスリム化や張り出し量改善によるワーキングスペース拡大②腕第1軸の肩甲骨制御による作業エリア拡大③第2アーム改良による第5軸の可動域拡大-といったアーム構成に注力している。その結果、アーム長(750ミリメートル)が短くても広い動作範囲が実現した。可搬質量は片腕6キログラム、両腕10キログラム。
また、腰の「チルト・旋回」動作は、設置面積を従来ロボットと比較して36%縮小する効果を発揮している。
操作性を左右するプログラミングに関しては、なじみがない初心者でも直感的にその構造を理解可能なビジュアルプログラミング言語「Blockly」を採用している。あらかじめ細分化された命令言語から必要なアクションを選択して組み合わせるだけで稼働プログラムが完了する。
本システムは上級プログラミング言語「Python」への変換ができ、より高度な制御プログラムの記述も可能にしている。
一方、タブレット端末で動作する専用アプリケーション「ROBO Assist」は①オフライン状態での3Dシミュレーション機能②オンライン状態でのティーチング機能-を有している。
安全に関しては、ロボット本体とコントローラーの両中央演算処理装置(CPU)でトルク・関節位置・速度・空間・入出力を監視し、デュアル・セーフティー・コアにより冗長性を担保している。安全関連部故障診断機能は二重のクロスチェックで安全に運転を停止する。
ヒト型双腕協働ロボットの造形は、協働運転を意識し、挟まれが起きないような関節の形状としている。アーム構成の変更によるひじの張り出しを改善して周辺機器との干渉領域を少なくするとともに、大幅にスリム化しワークスペースを確保している。
造形はアルミキャスティングと樹脂の異素材によってヒト型をデザインするが、表面処理などにバラつきがあり精度感に欠ける。
本製品は欧州認証機関テュフズード(TÜV SÜD)における製品安全認証、機能安全・低電圧指令(コントローラー)・製品安全(ロボットシステム)を取得している。工業生産におけるハンドリングをメインターゲットとし、ほかの産業用協働ロボットとは一線を画す造形処理を実現している。
その内容はハードとソフトのバランスに優れ、用途拡大に大きな競争力を包含する。
【シマダマシンツール】2主軸1タレットNC旋盤 2SI-8 Mk-Ⅱ
装置のコンセプトは、非切削時間のロスタイムを極限まで減らす、アイドルタイム最短の工程集約型2スピンドルターニングセンター(2軸1タレットNC旋盤)。生産性の飛躍的向上と、表裏2工程加工を1台で完結するマシンとして開発された。
熱変位に配慮したビルトインモーターを搭載する2本の主軸を30度手前と奥に配置する高剛性の2スピンドルは、180度インデックス機能でアイドルタイムを削減する独創性と優位性を誇る。
通常、ワークの表裏2工程を1台で加工する場合、工程間にワーク取り出し、寸法測定、次工程のチャッキングという非切削時間が生じる。本製品は奥(加工室内)の主軸で切削加工を行い、手前(加工室外)の主軸はワークの脱着を同時並行に行うゼロ秒ローディングで生産性をアップ。1台でワーク表裏の完品加工を行うマシンは、ロボットをローダー室上にマウントでき、自動化装置との拡張性にも配慮する。
1次・2次を交互に加工することで両工程のタイムアンバランスを解消し、機械の“待ち時間ゼロ”を実現。また、ワークの突き出し量に合わせて開閉するサーボ駆動スライドドアを、アイドルタイム削減のため新機能として搭載する。
刃物台は10角タレット、12角タレットから選択する。ミーリング刃物台には4・0キロワット、50・0ニュートンメートルのモーターを搭載する。
マシンは着脱側主軸が加工室外に露出しているためワークへのアクセス性が良い。操作盤ディスプレーは直感的な10・4インチタッチパネル式データ管理システム「Multi-EYE」と実感的アナログボタンを併用し、操作性にこだわる。
また、ローダー室のチャックには作業者の存在を常時監視するエリアセンサーを設け、検知するとスライドドア開閉や主軸ドラムの180度インデックス時は起動せず、安全性に対応。エア機器、潤滑油ユニットなどの点検窓を大きく取り、メンテナンス性に配慮する。チップコンベヤーは右側面と背面側の2方向から挿出入可能。
2本ある主軸の高さが同一ではなく、奥の加工側主軸は低重心で理想的な切削に対応する。一方、手前の着脱側主軸は、ユーザーフレンドリーに対応する高さにこだわる。
2スピンドルは斜め配置が独創的であり、マシン造形の優位性を特徴づける。しかしながら、流れるような稜線(りょうせん)により、ダイナミック感と高速感を強調するが、構造的な取り合いからマシン性能にそぐわない斜面や稜線が表出し、マッシブなまとまり感や安定感を喪失している。
板厚2・3ミリメートルの平面処理・板金加工の精度感の不足と相まって、コンパクト性にこだわるあまり未整理な点が惜しまれる。
オーソドックスに高機能・高剛性・高汎用性を指向する本製品は、ハードとソフトにバランスの取れた開発が行われているが、その内容は独特な機械構成を訴求する造形処理にまでは至っていない。非切削時間ゼロを志向するのであれば、2本の主軸インデックスとスライドドアの開閉動作を強調する“流れのデザイン”が求められる。その様態が可視化できれば、ワークエリアにおける“場の雰囲気”は一変することが期待される。
【ニイガタマシンテクノ】ターンテーブル式 NCフライス盤 JK400Ⅲ
鋼材加工業界の現場では、多品種少量生産・工場自動化(FA)・省エネ化・サイクルタイム短縮が希求される。本製品はこれらのニーズに応えるべく開発されたターンテーブル式上下面加工機である。加工中に次の段取りが可能な本製品は、省人化と生産性を重視した高速・高精度・高剛性NCフライス盤の新たなカタチを訴求している。
開発に際しては①大径カッターによるワンパス加工②180度ターンテーブルによる連続加工③対話型自動プログラミング機能④ワーク着脱・位置決めを容易化するエアフロート機能-などをはじめとして、精力的かつ総合的な検討がなされている。
マシンは、剛性・減衰性に実績ある角スライド、しゅう動性と長期の精度維持に優れ、省スペースで最適な作業面高さを実現するコラムトラバース方式の構造により難削材加工を強力サポートする。これをベースに、電磁チャック方式を標準装備する立型高剛性主軸は最大トルク1436ニュートンメートル、回転数は毎分60-300回転。直径425ミリメートル大径フライスカッターで最大ワーク幅415ミリメートルを1パス加工し、サイクルタイムを大幅に短縮する性能を持つ。
また独自の180度ターンテーブルは、ワークの着脱、位置決めを容易にするエアフロートの標準搭載やワークの歪み取りを行うアクシムチャックで段取りを簡素化。段取り時間を短縮し、連続加工・自動加工を可能にしている。ターンテーブル寸法は900ミリ×900ミリメートル。
可変アングル機構付き自立型操作盤は15インチカラータッチパネルで、ユーザーフレンドリーな対話式自動プログラミング機能を標準搭載する。ワーク寸法と仕上がり寸法を登録するだけで切削加工が可能である。
稼働実績スタンプ機能によるトレーサビリティーや稼働管理の容易化を実現するリモートメンテナンス機能を搭載する。二次元バーコード自動読み取り機能で切削条件を自動登録することで、スキルレスなフライス加工を実現する。
欧州安全基準、国際標準化機構(ISO)規格に準拠したインターロックシステムおよびスプラッシュガードを標準搭載し安全性に対応。加えて重切削での切粉対策としてチップバケットをマシン右側前面に集中配置し、保守性と作業性に配慮する。
180度ターンテーブルにより、ワーク段取りエリアと加工エリアを明確に隔絶するマシン構成、高剛性、重切削性能、堅牢(けんろう)さに配慮したシンメトリーでスクエアな造形は、正面スプラッシュガードの新たな装備によりフルカバー化され、中型フライス盤のオーセンティック(本物感)なたたずまいを嫌みなくデザインしている。ワーク段取り・機内アクセス・チップバケットなどは動線を意識し、ホワイトを基調に、ベースの黒、開閉部グレーのカラーバランスでエリアごとの造形をしている。
今回の開発は従来機を踏襲しつつ、機能性・保守性・安全性に対する長い実績を踏まえたハード開発と、最新鋭制御装置導入によるソフト対策を高い次元で融合させ、利便性を格段に向上させたフライス盤の新たなカタチ創出に成功している点は評価に値する。
【安川電機】自動車内板塗装ブースの簡素化と省エネに貢献するドアオープナー MOTOMAN-MPO10L
自動車ボディーの塗装は、搬送コンベヤー方式が主流を占めている。本製品は一般的に知られている外板塗装ではなく、内板塗装工程におけるドア(ヒンジ/スライド)開閉工程に特化したオープナーロボットの開発であり、自動車ボディー搬送コンベヤーにおいて、走行装置を使用して追走する従来方式における弊害を克服するべく検討が行われている。その指針は、導入・稼働・メンテナンスの各場面においてコスト削減を実現するとともに、既設の人手塗装工程の自動化を目指す。
このロボットは自動車ボディーへの追従距離4メートルを確保し、なおかつ塗装ブース壁や塗装ロボット本体、コンベヤーなどの周辺設備との干渉回避を目的として、3リンク(水平4軸)アーム構造を採用している。内圧防爆構造、水平多関節型(5自由度)、最大リーチ2550ミリメートル、ドア開閉力245ニュートン、位置繰り返し精度0・15ミリメートルの性能を持ち、自動車内板塗装工程を完全自動化する走行装置不要のドアオープナー機能を持つ。
また、設置環境への対応に関しては、給電ケーブルを背面・両側面の3カ所、掃気用エアホースを両側面2カ所から自由に選択可能としている。
自動車ボディーに対して対面設置のレイアウトが主流であるため、シンメトリー構造とジョブミラー機能を実装し、片側のジョブを対面ロボットに流用可能。
ロボットは全てのモーターを上から交換できる構造として保守性を向上、密閉構造で着脱が容易であり保守作業の時間を短縮している。ロボット設置後にコンベヤーとの位置精度を調整できる。
内装塗装工程の完全自動化により、過酷な環境での人手作業を削減。空気を塗装ブース内で循環でき、環境負荷低減に貢献する。内板工程の自動化に伴い走行装置の重量物と設備の大幅な補強も不要となり、搬入工事の規模縮小で工数を削減し、イニシャルコストを大幅に低減する。
導入メリットとしては、ランニングコスト、メンテナンスコストなど、塗装設備全体のコストを削減する。また、ティーチング時間を短縮し設備の立ち上げと保守の工数を削減できる。干渉回避による省ブース化などで経済性に優れる。
塗装ブースのコンパクト化、リンク同士の干渉回避や追従距離の確保、ボディー下部への進入を可能とする低床構造化などを意図して展開された造形処理は、機能や保守性を直接的に外在化した独特の形状を実現している。ボディーは外乱に強い構造とするが、鋳物、板金、樹脂の異素材複合で、表面テクスチャーが異なり造形に不統一感がある。
本体を鋳物、モーターカバーをアルミ合金で構成しているが、型精度の関係で防爆構造に起因する多くの露出ビス類がその様態に影響している。これらは開発当初から検討すれば対応が可能である。
塗装ロボット本体とエンジンフード/テールゲートオープナーロボットとの連携で稼働する本ロボットは、自動化率20%という現状を打破し、内板塗装工程の完全自動化を実現し、走行装置を不要とするものだ。この製品の開発は塗装ブースのコンパクト化やランニングコスト・メンテナンスコストの削減に大きく貢献する。